第13話 玖乃とテストと事情聴取

「いたた…」

「うぅ……見られた。恥ずかしい…。けんちゃんのバカ……!」

「今日だけで何度目だよ……。お前のビンタくらうの…」

「けんちゃんが変なことばかりするからでしょ!!」

「いや……それはまあ謝るけど。でもほとんど不可抗力だぞ!」

「と、とりあえず!早くそれ返して!」

「あ、ああ」


俺は手に持っていたブラを持ち主へ返した。

こうしてると俺がまるで下着泥棒みたいじゃねえか。


「それで…?見たの…!?」

「え?何を?」

「あ、ううん!見てないならいいの!見てないなら!」


見る?一体何を言って……。

まさかアレのことか…?


「………D?」

「え…?」

「いや、そのことかなって…」

「見たんだ……。見たんだ!この変態!!」


朱音は胸の辺りを隠しながら脱衣所から出ていった。そのまま朱音は家へと帰ったようだ。


何だか、最初から最後まであいつの不注意のせいでこうなったような気もするが……。

しかも、やっと昔のように仲良くなれたと思ったら、結局こうなるのかよ。

喧嘩だけでも出来るようになったことを喜ぶべきだろうか……。


それにしても……意外と大きくてびっくりした……。服着た感じだと普通なのに。着痩せするタイプってやつか。


「健?朱音ちゃん、なんだか急いで帰っちゃったけど?」

「あ、ああ。なんか家でやることあったらしいからすぐ帰るって」

「そうなの?またあんたが何かやったんじゃないでしょうね!」

「してねえよ!」


心当たりが無いことも無いけど…。


でも、とりあえず一件落着だ。でもまさか、朱音がまた家に来るとは思わなかったな。



「はぁはぁ。ただいま~」

「おかえりなさい。まさか朱音が鍵を忘れてるなんて気付かなかったわ。ごめんね帰るの遅くて」

「え?なんでその事知ってるの?」

「浅久さんから連絡が来たのよ。朱音が鍵を忘れてて家に帰れない。今はうちで預かっているってね」


おばさん、いつの間にお母さんに連絡してたんだろう。酔っ払ってたはずなのに。


「ちゃんとお礼言ってきた?」

「え?……あ、」

「言ってないの?」

「いや、言おうとは思ってたんどけどいろいろあって……」


けんちゃんがあんな事ばかりするから!


「それに、その服は男性用の物じゃない?あ、もしかして健くんの?」

「あ、うん。雨で濡れちゃったからシャワー借りたの。着替えが無いから代わりにって」


そう言えば、服は捨ててもいいって言われたけど……。どうしよう。貰っても男性用だから着ることはないし。


「そっか~。うんうん。なるほどなるほど。二人とも仲良くなったってことね~」

「違っ!いや……違くはないけど…。でも…そんなんじゃなくて!」

「あら?どんなのだと思ったの?お友達でしょ?」

「もう!お母さん!」


なんだかお母さんに弄ばれてる気がする…。今日帰りが遅かったのもわざとだったりして…。


「はぁ。なんだか今日はもう疲れたなぁ。お母さん、私もう寝るね」

「あら、その服のまま寝るの?別に良いけど…変なことに使わないでね?」

「使うわけないでしょ!?」

「うふふ」


まったく何言ってるのか。絶対私で遊んでるよお母さん。

でも、確かにこれだと変な気分になる。シャワー浴びてから下着も着けてないし、何も着けてない状態でけんちゃんの服を着てると、なんだかけんちゃんに抱き締められてるような気分になって……。


ああ!ダメ!これ以上この服着てたら本当におかしくなっちゃう!早く着替えてもう寝よ!


こうして私の波乱の1日は終わった。



翌日。いつものように学校へ。教室の前に着くと、俺は教室の後ろ側のドアから入った。

この行動に特に意味はない。教室の向きからして、靴箱から上がってくると、こっちのドアが近いのだ。

別に朱音の席のことを考えたわけではない。


「よっ、健!」

「おう」


いつものように素っ気ない返事を返すと、俺は自分の席に着いた。前を見ると、いつものように朱音の周りには玖乃さんと那岐さんが居た。


「ふわぁ~」

「ふわぁ~」


つい欠伸が出てしまった。昨日はあまり眠れなかったからだろう昨日いろいろあって疲れたはずなのに。


「はぁ」

「はぁ」


昨日のことを思い返すと、ますます疲れてため息まで出てしまう。


「お二人さんは今日も仲良しですなぁ。同じタイミングで欠伸とため息なんて」

「え?」


玖乃さんがそう言うと、朱音がふいにこっちを向いたのだった。


「あ…」

「ああ…」


顔を向かい合わせるが、お互いに特に何も言うことなく会話は終わる。


「話すようになったと思ったら、また話さなくなったか。いろいろ忙しいな君達は」


那岐さんの言うとおりだよ。まったく。


それから時が経ち、放課後。

この一日で朱音と俺が話した時間は計10秒に満たないだろう。すれ違った時の挨拶、ありがとう、ごめん、という言葉のみが今日の俺達の会話だ。

これが会話と言えるのかさえ不確かだがな。


「もしかして、浅久くんが何かした?」

「え?」


俺が帰ろうとし教室から出ようとした直後、玖乃さんから話しかけられた。


「返答によっては……分かるよね?」

「脅しですか?」

「ううん。本気」


最近の女子高生怖い。


「まあ、簡潔に言うなら事故ですよ」

「事故?」

「はい。ちょっとした事故があって、ちょっと話しかけにくいってだけですよ」

「その事故って?」

「内容聞くんですか?」

「当たり前でしょ」


この人、友達のこととなったら頑張っちゃうタイプか。あまり敵に回したくない人だ。


「いや……やっぱいいや。それよりもっと手っ取り早い方法があった」

「え?」

「今からテストをします!」

「……は?」

「君が朱音ちゃんにとって危険人物でないかを見極めます!」

「はぁ…」


また面倒なことになってきた…。

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