隣の幼馴染み

匿名人

第1話 再会

 俺、浅久あさくけんは、昔から仲のいい友達女の子がいた。具体的に述べるのならば、幼稚園から小学5年生までだ。

 幼稚園のときならともかく、小学生の高学年ともなると知能、知性というものがはたらいてくる。

 特に女子は男子より、そういった成長が早いと言う。


「健!あんたなんか大っ嫌い!!」


 俺は、その幼馴染みから嫌われたのだ。原因は、まだ心が成長していない子供の俺だ。

 きっと、何か気にさわることを言ったのだろう。小学生の頃のことだからはっきりとは覚えてないが。


 その日以来、彼女は俺と話さなくなった…。


「…………またこれか」


 俺は深い睡眠から目を覚ました。

 これは、俺が時折見る夢。

 昔、幼馴染みと一緒に居たときの夢を見る。

 なぜ今でもこんな夢を見るのだろうか。

 あの幼馴染みとはもう4年以上口を利いていない。


「はあ………」


 朝からこの煮え切らない不快感はなんなんだ。


 今日は高校の入学式の前日。

 また新しい生活が始まると思うとなかなかに憂鬱だ。


 俺の行く高校。彼方川かなたがわ高校は、俺の通っていた中学より少し離れており、知り合いは一人も居ないようだ。もちろん、俺の同級生の中にもここに進学するという奴はいなかった。


 というより、そういうとこもあってこの高校を選んだってのもあるが。


「健。明日から高校でしょ?準備は出来てるの?」

「まあ」


 この人は俺の姉。

 浅久あさくしず。母さんに似てるのか、少し口うるさい。頭は良いらしく、学力の高い高校に在学している。


「まあって。大丈夫なの?友達作れるの?」

「大丈夫だって。一人でもやってける」

「そういうことじゃなくて!」

「あーあー分かったって」


 姉はいつもこんな感じで、まるで親のように言ってくる。さすがに高校生ともなると家族の優しさというものは理解している。

 だがそれでもその優しさがうざったらしいと思ってしまうのだ。

 ほとんどの高校生はそんなものだろう。


「ちょっと出てくる」

「気をつけてね」

「はーい」


 俺は、休みの日に欠かさずすることがある。

 それは、散歩だ。なぜ散歩をするのかというと自分でもよく分からない。ただ、外に出て歩くと気分がいいからだ。


 なにせ、明日から新しい学校生活が始まる。

 それ故に憂鬱なのだ。

 散歩でもして気分を晴らさないとやっていけない。


 家から出ると、俺は必ず隣の家の前を通る。

 表札には『碧葉』と書かれている隣の家。たまにこの家の住人から声をかけられることもある。ご近所付き合いと言うものだ。


 その家の前を通りすぎると、しばらく俺は歩いた。


 俺が通うことになった彼方川高校の前を通りすぎる。彼方川高校は俺の家から歩いていける距離にあるのだ。通学に困ることはない。


「ねえ、君」

「…はい?」


 突然誰かに話しかけられた。


「君。もしかしてうちの高校に来るのかな?」

「え、あー…はい。そうですが」


『うちの高校』というのはこの人が着ている制服から分かる。彼方川高校だろう。俺からすれば先輩になるのか。


「やっぱりそうだ!オープンスクールで来たでしょ?この前」

「はい。確かに行きましたけど……オープンスクールに来た人のこと皆覚えてるんですか?」

「いやいやまさか!君のことは妙に気になってたから覚えてたんだよ」

「はぁ…」


 なぜ気になったんだ。何も目立つようなことしてないはずだが…。


「私、川原かわはら未姫みき。2年生よ。あなたは?」

「……浅久健です」

「健くんね。うん、覚えた!」


 この人はムードメーカーとよばれる人だろう。俺が苦手とする部類の人だ。


「ん?どうした?」

「いえ、何でもないです。それじゃ俺はこれで」

「明日また会おうねー!」

「入学式って2年生は休みなのでは?」

「あ!そうだった!!うっかりしてた~」


 この人天然なのか?

 どちらにせよ、やはりこの人はあまり得意ではない。


 川原先輩と別れ、俺はまた散歩を続けた。

 毎週土日や、祝日の休みの日はこうして歩いている為、ここら辺の道は大体分かる。そもそも、ここら辺の道は大通りが多く、入り組んだ道はそう多くないのだ。


 ……だと言うのに、だ。

 俺の目の前には、スマホを見ながら周りをキョロキョロと見て何か困ったような顔をしている女性がいた。どこからどう見ても迷子だ。


 地図アプリを見て道を確認しているのだろう。それなのに……。


「………あ、」


 何で俺の方に向かってくるんだ。

 あ、じゃないよ。聞こえてるよ。俺に道を聞こうとしてるのがバレバレだよ。


「あの、すいません……」

「どこに向かってるんですか?」

「へ?私の考えが読めるんですか…?すごい」


 彼女は目を輝かせてこちらを見てきた。

 言動が少し幼く感じる。小学高学年か中学生くらいだろうか。


「スマホを見ながらキョロキョロしてたら誰でも迷ってるって分かりますよ」

「あ、そういうことでしたか。超能力者かと思いました。えへへ~」


 少し話しただけで分かる。この人はのんびりとした性格なんだろうな。


「それで、どこに?」

「あ、そうでした!ここら辺に大きな公園ありませんか?」

「大きな……公園?」


 情報が少ないし曖昧すぎる……。


「でも、ここら辺に公園はあまりないですよ?大きな公園というのもここら辺には……」

「そうなんですか?おかしいな~ここら辺のらずなんだけど」

「さっきまでスマホで地図見てたんじゃないんですか?」

「え?あ、違いますよ。ちょっとゲームを」


 地図アプリを見ながらキョロキョロしてたわけじゃなくてゲームをしながらキョロキョロしてたのか。

 ただの挙動不審な変な人じゃないか。


「なら、地図アプリで場所を調べればいいのでは?」

「あ!その手があったか!」


 右手を拳にして左手の手のひらをポン!と叩きながら彼女はそう言った。現実でそんな反応をする人を見るのはこの人が最初で最後だろう。

 大変貴重なものを見せてもらいました。ありがとうございました。


「それでは、一応解決したようなので自分はもう行きますね」

「はい!ありがとうございました!」


 俺は彼女と別れた後、しばらく歩き帰宅した。


「おかえり。いつもより早いわね」

「いろいろあって疲れたんだよ」


 俺はあまり社交的ではない。

 さっきまで川原先輩や迷子の子と普通に話していたが実はあまり話をするのは得意ではない。

 そのため、少し疲れてしまったのだ。


彼高彼方川高校って健の知り合いはいるの?」

「いや、多分いない」

「どっちにしろ友達少ないからね。健は」

「……そうだな」


 姉さんの言うことは事実だから別にむかつくなんて感情はない。


「仲の良い友達なんて朱音ちゃんくらいでしょ?」

「………」

「いつか友達じゃなく彼女として家に連れて来たりして!」

「……はぁ」


 姉さんの言葉を遮るように俺は部屋へ戻った。


「……あいつとは何でもねえよ」


 俺はいつものように部屋の中でゲームを始めた。俺は根っからのインドア派だ。散歩や学校以外ではほとんど外に出ない。

 そんな生活を送っていた。


 ピンポーン!

 家のインターホンが鳴った。来客か?


「あ、碧葉さん!」

「ごめんね静ちゃん。こんな朝から」


 お隣の碧葉さんのようだ。


「いえいえ大丈夫ですよ。でも、お母さんはまだ起きてこなくて……」

「ううん、今日は旅行のお土産を持ってきただけだから」

「そんな、お土産なんてよかったのに。貰っていいんですか?」

「いいのよ、そんな遠慮しなくて。それじゃあ静ちゃんからお母さんに言っといてくれる?」

「はい、分かりました。お土産ありがとうございます」


 話が終わると扉が閉まる音が聞こえた。碧葉さんとうちの親は昔から付き合いのある仲だ。

 今でもこうしてお互いに家に行き来するほどの仲は続いている。


 そしてその翌日。俺は制服に着替え、朝食をとるとすぐに家を出た。

 入学式である。


 昨日の散歩で通った道を辿るだけだ。いつものように隣の碧葉家の前を通り、学校へ。碧葉家にも俺と同じ歳の学生がいる。朝早くから慌ただしい声が聞こえてくるのはそのせいだろう。


 彼方川高校は、ここら辺の学校の中でそこそこレベルの高い高校だ。自慢ではないが、中学の頃の俺の成績は学年トップ10にはいつも入っている程だった。そのため、高校の受験も割と容易く合格したのだった。


「新入生はこちらから入ってください」


 高校に着くと、体育館の周りに教師らしき人達が生徒の誘導をしていた。俺もそれに従い、体育館の中へ入った。新入生以外にも3年生が居るとはいえ、かなりの数の生徒が体育館の中に集められていた。

 数ある高校の中でも生徒の数はかなり多い方だろう。俺は設置してあった椅子に座り、しばらく経つと、入学式が始まった。校長先生の長い話は高校でも変わりないようだ。


 数分後、入学式は終わり、それぞれのクラスに分かれてその教室に向かった。俺は1年2組となり、その教室へ。

 予想はしていたが出席番号はかなり前の2番だった。名字が浅久だからな。中学の頃は毎年1番だった為、逆に1番じゃなかったことが不思議なくらいだ。


 ……そういえば、前にも2番の時があったな。

 あのとき、そう。小学生の頃だ。俺が2番で、その前の………1番。

 クラスの席は出席番号により決まる。

 俺の前の席にいたのは……碧葉……。


碧葉あおば朱音あかね……」


 俺は自然とその名前を口にした。

 俺がたった今思い出した記憶と、今の光景が重なったからだ。


 彼方川高校、1年2組。1番。

 碧葉朱音。

 俺の目の前に居たのは幼馴染みであり、昔友達だった朱音が居たのだった。



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