現れたヨッパライ


「はい、お電話ありがとうございます、やよい軒本庄北店でございます」

 店の電話が鳴って、店長が出た。

 ごめん遅刻したー! って店長に謝ろうとしたのにー! とか思ったら、

「はい、私が店長の園部ですが……え、神原さんの……まりえさんの……はい、ええ、なので、どうされたのかと思い……えっ?!」

 やな予感がしたよね。

「ああ……あ……そ、そんな事が……。」

 予感って言うのもちょっとおかしいんだけどね。

「いえ、そ、そんな……それで、わざわざ……いえ……はい……あ、いえ、その辺りの事は、……はい、そうさせて頂きます……いえ、とんでもないです……。」

 目の前で自分の事話してんの見んのって、変な気するよね。

「あ、それで、あっ、あの……!」

 店長が焦った感じなのがすごいわかった。

「……すみません、あの、まりえさんは、どちらの病院に……?」

 あたしはここにいるってのにね。


 店長は井野さん(副店長)を呼んでちょこちょこっと色々指示出して、店を出て走り出した。

 あたしも自転車で追いかけようと一瞬思ったけど、あたしの自転車、ここにあるわけないんだよね。

 だから走った。白い息吐きながら走る店長の後ろ姿を見ながら。


 走りながら、もしかしたら、まだ、とかちょっと思ったりもしてたんだけど、病院に着いてみたら、やっぱりそうじゃなかった。

 白い布があたしの顔にかかってた。

 あたしは死んじまってただ。


 店長もそうだし、もちろん親もいたし、お兄ちゃんも伯父さんたちも、あたしの好きな人たち、部屋の中にも廊下にもけっこういて、みんな悲しんでて。ちょっと見てらんなかった。


 ……ごめんね。


 あたしもやっぱり泣きそうになったから、みんなからちょっと離れて、幽霊でも涙って出るのかなあ、息はしてないけどね、とか、こんな美少女がこんな若さで死んじゃうなんて国家の損失だよね、とか考えて紛らわそうとしてたら、

「ああ~っ! やあっと戻ってきた! まりえ~!」

 っていきなり呼ばれた。

「よかったよかった、や、本当に焦っただよ~。」

 ここまで誰にもスルーされまくってたのに、いきなりなんでそっちから? って思って見たら、

「うわっ! あたしのヨッパライ人形!」

 あたしがいつも鞄につけてたヨッパライ人形が、なぜかひとりで立ってこっちに向かってくる。

「なっ、なんで動いてんの?! なんで喋ってんの!?」

 いつだったか友達とみんなでイオンに行った時にゲーセンで取ったやつ。こんな声してたんだ……って、おかしいでしょ!

「ああン? なんだ、そんなおかしいか……しょうがねえなあ、説明すっかあ。どっから説明する? おめえが死んだとこからがいいか?」

「う、なんか聞きたいような聞きたくないような。」

「当の本人が覚えてねえんだもんなー。」

 さっき親戚の誰かが誰かに言ってた気がするけど。

「やっぱり聞きたくないかも。」

「まあいいか、そのうち自分で思い出すだろ。」

 思い出したくないかも。

「それでな、オラはな、いわゆる一般的に言うところのだな……」

「死神?」

「天使だ!」

「ぷっ。」

「笑うなって! 本当なんだからよ!」

「だって、全然天使っぽくないんだもん。」

「オラのどこが死神っぽいってんだよ?」

「しらないけど。でも死んだあたしに話しかけてくるくらいだし? あたしのヨッパライ人形乗っ取ってさ?」

 人と話をするのが何日ぶりというわけでもないのに、すごく久しぶりに喋るみたいに思えて、あたしはなんだか嬉しい気がした。






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