あなたの月 8月

渋谷かな

第1話 夏が嫌い!

「いや~学校帰りのマックでアイスコーヒーはほっこりしますな。」

「冷たいシェイクも背中がじんわりしますな。」

「アハッ!」

 学校帰りに寄り道をして、幸せを噛み締めて、ほっこりしている仲良し女子高生たちがいた。

「私たちは、お友達! アハッ!」

「お友達がいるっていいわね。一緒に寄り道して帰れるんだもの。」

「そうそう! リモート飲み会なんて、寂しい人間のやるこよ!」

「やっぱり会ってお話しなくっちゃね。」

 お友達がいるだけで優越感に浸れる若者。

「キャッハッハー! キャッハッハー! キャッハッハー!」

 二人女子高生がいて、一人が大笑いしている。

「笑わないでよ!?」

 もう一人の女子高生は笑われて困っている。

「だって名前が、八月葉月だなんて、笑っちゃうわ! キャッハッハー!」

 笑われている女の子の名前は、名字が八月、名前が葉月であった。

「葉月で悪いか! 私は好きで、こんな名前をやっているんじゃない!」

 きっと親が勝手にキラキラネームをつけて苦しんでいる子供がたくさんいるだろう。

「ごめんごめん。めんご、めんご。アハッ!」

「親が悪いのよ!? 変な名前を付けるから!?」

 自分は悪くない。悪いのは親だ。そう責任転嫁する人間も多いはず。でも、それも運命なのかもしれない。

「そういう真理亜ちゃんはどうなのよ?」

「私? 私は名字は大神、名は真理亜。和洋折衷な名前ね。」

「面白くない。」

「アハッ!」

 笑って誤魔化す真理亜。

「葉月ちゃんって、8月生まれでしょ?」

「なぜ!? 私の誕生月を知っている!?」

「だって葉月だもの。」

「あ、そっか。アハッ!」

 葉月は八月生まれなので、旧暦の八月を意味する葉月という名前になったらしい。

「そういう真理亜ちゃんはハーフなの?」

「いいえ。父は慎太郎、母はひばり。純粋な日本人よ。ご先祖様は知らないけれど。アハッ!」

 そうか。ご先祖様は外国人らしく、私はハーフの三世。だから外国人の様に美しい顔立ちをしているとしておこう。

「でも私は八月生まれだけど、夏は嫌いだし、暑さにも弱いし、スイカも食べれないし、夏休みは宿題ばかりだし、海なんてヤンキーの行く所だし、花火大会も人混みだらけだし、楽しいことなんかない! 八月なんて、大っ嫌い!」

 性格が大人しくても、心の中はストレスと情熱の炎が燃え上がっている。散々語り明かした二人は渋谷の街を歩いていく。

「ああ~、お父さんもお母さんも嫌いだいし、先生も嫌い。私のことを誰も知らない世界に行きたいな。ここではない、どこか違う世界に。」

 葉月はスクランブル交差点を渡り、ハチ公像に愚痴っていた。

「いってらっしゃい。ワン。」

 その時、ハチ公の銅像から声が聞こえた。

「ど、ど、銅像がしゃべった!?」

 そんなことはあるはずないと驚く葉月。

「キャアアアアアアー!?」

 こうして葉月は望み通り異世界に飛ばされるのでした。

「マジか!?」

 つづく。

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