トップオブザワースト

巡集

第一章 俺は魔王討伐を志す。

俺と御月と神父編

Lv.1 俺は転生すらまともにできない。

 一体どれだけの時間が過ぎたのだろうか。

 そんな疑問を胸中に抱きながら、俺は今現在、進行形で異世界転生を繰り返している。

 えっ? 意味がわからないって。面白い冗談を言うじゃあないか。えっ? 頭痛が痛いって。——面白い冗談って、誤字ではないと思うけれど……。まあ確かに“異世界転生を繰り返す”というフレーズは、些か不自然ではある。

 事の発端は……と語るには時間が経ちすぎている。既に前世の記憶はあいまいだ。なぜ転生を繰り返しているのか? なぜ転生が終わらないのか? そんな疑問は、とうの昔に置いてきた。――いや、今のは嘘。導入文、そんな疑問を胸中に抱きながら転生してたじゃん。

 まあここまではテンプレートにこなすとして、ここからが本題、もとい、本文。

 なぜ転生が終わらないのか?

 実はこのことに関して、なんとなく察しがついている。それは俺の初期ステータスが異様に低いのではないか、ということである。

 どのくらい低いかと言ったら、転生時の衝撃に耐えられないほどの脆弱さ。

 転生→死亡→転生→死亡→転生→…。

 もしこの考えが正しいなら、いわゆる“詰み”状態である。俺の人生は始まる前から死んでいる。言い換えるなら、人生を、異世界転生をする権利すら剥奪されている。

 思えば、俺の人生もこんなハードモードだった……なんて、大して覚えてもいない前世の記憶に思いふける。

 俺の知識に誤りがなければ、異世界転生というのは楽しいもので、喜ばしいものであり、希望的なものだったはずだ。なのになんで俺はこんな何もない、真っ白な、形のない空間で、流れのない時間の中を彷徨っているのだろう。

 ここってものすごく怖いところなんだぜ。身体の感覚は全くなく、暇だからと言ってオナニーすることもできない。意識は常に朦朧としていて、吹けば消えてなくなってしまいそうなほどに儚い。五感の内の触覚と味覚と嗅覚と聴覚を奪われて、(本当のところ、視覚だって奪われているのかも知れない。)意識だけの存在は、自己という感覚、概念を否定し、実は俺って初めからここに存在なんてしていなかったのではないかという思いに駆られる。

 しかし、こんな絶望的な世界でも一縷の望みが存在する。それは……あ、ほら来た。

 すると、俺は全身に確かな血の流れを感じる。まるでみるみると体が構築されていくような。ドクンドクンと脈を打ち、心臓、肺と活動を再開する。

 俺は深く息を吸った。身体の中に酸素を取り込むと、血の巡りが活発化し、脳が活性化する。朦朧としていた頭はすっきりとし、目覚めの良い朝といった感じ。

 はてさて何が起こったのでしょうか。そうですね、転生ですね。

 さっきも言ったが、俺は転生を繰り返している。その積み重ねの記憶を有している俺は、俺が一度たりとも消え失せたことがないことの証明だ。

 一縷の望みとは、この転生の瞬間であり、自我を保たせてくれることである。

 俺は右手で左腕に触れた。続いて左手で右脚をさする。右足で左ふくらはぎを掻くと、俺はそっと右手で握る――っとあぶねえ。だめだよこれから転生って時に。

 辺りを見渡すと、この四畳半の一室の隅に、次の世界の一般服が畳まれていた。こうして服に着替えると、いよいよ俺の異世界生活が始まるんだなと実感する。

 ちょっとの期待と、小さな不安をもって、俺は扉に向かう。

 この扉の向こうは新世界。いや、異世界だ。

 俺はなんの確信もないのに、自信をもってそう思う。

 きっと異世界は、楽しいところで、喜ばしいところであり、希望的なところのはずだ。だから今度こそ俺は人生を謳歌するんだと。今度こそちゃんとやり切ってみせるんだと。俺は決意する。

 逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと、それはゆっくりと扉へ歩みを進める。

 扉前。俺はもう一度、辺りを見渡す。

 忘れ物はないな。心残りは、ないな。

 いざ! 俺は扉を開けた――。


 ――ドカッ。


 転生直後、俺は強い衝撃に襲われた。そしてその瞬間、俺は後悔した。

 俺って転生すらまともにできない、ダメ人間だったんだって。

 俺は死んだ。

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