パラレル新宿線「プロット」

源ガク with ネコさん and 妻

本八幡

新宿が呼んでいる!浩には聞こえた。

確かに彼には聞こえた、それは或る展覧会のテレビ中継での事だった。

「さあ、今日は都庁の最上階の展望室で行われてる、明日は雲の上に来てくれるかな?展にお邪魔しています」とレポーターが伝えている

「しっかし、この部屋ヒロシ!いや~ヒロシ!」

浩はどうしても新宿へ向かわなくてはならない気がしたのだった。

彼の住まう場所はかの本八幡、プチセレブな両親のもと何不自由なく、最近開発いちじるしいマンション林立地区の中層階所属で、歳は14の中ほど。

今日も学校をサボり、自室でお昼のテレビを見ている所であった。

「腹が減ったな」浩は、1階のお洒落なレストラン「ガスト」に向かう、マダムたちで大賑わいだ、浩は感じていた、この地区の外を目指そうとする者に対する、異質を排除しようとする空気を。

席に着くと隣のテーブルのマダム達が「山田さんちの花子さん、引きこもってるみたいなのよ」「名前がありきたりだと大変ね~」と楽しそうに話し出した。

浩は動じずに、イタリアン・ハンバーグを注文する、するとマダム達が急に笑い出した、浩は自分がイタリアン・ハンバーグをたのんだから笑われたのかと思う。

その頃、イタリアの中部地方で大地震が起きていた。


浩はガストを出て、近くのファミリーマートに入る。

わかんねえだろうなオジサンが現れた、彼を横目で見てひたすら「わっかんねぇ~だろうなぁ~わっかんねぇ~だろうなぁ~」とぶつぶつ言っているのである。

「行くしかない!」浩は意を決した。すると住み慣れた本八幡の街が魔界のように感じられた。

新宿線の本八幡駅に向かうお昼時を、通りすがる人通りすがる人から、異様な罵りの念を感じながら浩は行く。

駅ビルのシャポ~にたどり着いた、学生達が群れをなして闊歩している、浩は同級生に見つからない事だけを祈りつつ、やたらにカラフルな、コンコースと一体になった商店街を一人行く。

新星堂では宇多田ヒカルのファントムを大々的に売り出していた、浩の頭になぜだか、ファンと無、と言う文字が浮かんだ、そう彼にとって楽しかった事は意味が無かったのだ。

そして彼は、新宿行きの都営新宿線に乗り込んだ、まばらに空いた席に腰を下ろすと丁度前方に、可愛い女の子が座っていた、彼女は本を読んでいる、タイトルは「パラレル新宿線」だった、浩と目が合いニコッと笑う、浩は電光掲示板に目を逸らす、「次は瑞江」と表示されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る