第11話 僕と彼女と再会と
終礼を知らせるチャイムが校舎に鳴り響いた。
終礼を終えたクラスから飛び出すように廊下へ人が出ていくのがわかる。早く部活をしたくて我慢ならないのか、声を挙げて走っていく者も見えた。
僕らのクラスも先生の一言が終わると解散するのだが、今日は少し長引いていた。どうやら提出物を出していない人がいたらしい。僕はしっかり期限までに提出する性格だから遅れるということはないのだが、数人手を挙げていた中に
慧悟は特段勉強が苦手ということはないはずなので、どうせ面倒くさいとかいう理由で出さなかったのだろう。
勝手にそんなことを考えていると、終礼が終わると同時にすぐさま慧悟が僕の机に飛んできた。
「おいおい、期限過ぎてるとか聞いてないんだが?」
「いや、僕に言われても……」
「なんで教えてくれなかったんだよ」
「聞かれてないから。というか、後ろの掲示に全部乗ってなかったっけ?」
どうやら面倒くさかったのではなく、単に忘れていたようだった。
「くっそ、今週中に提出するのは厳しいな」
僕が指さした掲示とにらめっこを繰り広げながら、そんなことをつぶやいた。
「よし、じゃあ行くぞ」
急にそんなことを言う。
「え? どこに?」
「決まってんだろ。『探求部』にだよ」
自分のことを差し置いて、さらっと言ってのけた。あくまで僕の用事の方を優先してくれるのか。自分のことでもないのにどうしてこうまで積極的になれるのだろうか。僕には絶対できそうにないな。
慧悟があまりにも急かすため、僕は慌てて自分の荷物を鞄に放り込んだ。
二人して静かになっている廊下へ出た。
「今日は部活無いの?」
歩きながら聞いてみると、慧悟はどこか呆れた表情で僕の顔を見てくる。まるでコイツなに言ってんだとでも言いたげな感じだ。
そんな変なことを言ったとは思えないんだけど……。
「ホントになに言ってんの? 今日はお前の案件が部活になるんだろうが」
「………あ」
そうだ、てっきり僕のために手伝ってくれるという認識でいたが、これは探求部に依頼しに行くことになるのか。
「お前のためにやる、っていうと恩着せがましいけどな。俺は俺がやりたいから、手伝うんだよ」
慧悟は友達のためならば一度決めたことは絶対に通す。前にそう言っていたっけか。自分のことさえも後回しにしてしまうのを厭わない。
自己犠牲の精神とはちょっと違うんだろうけど、それに似た何か、彼なりの信念を持っているように思う。中学の頃はもっといろいろ突っ走って、いい意味で周りを巻き込んでいたんだけど。
どこか変わってしまったように感じてしまった。
そのままたわいもない話をしながら、講義棟を抜けて渡り廊下を通って課外棟へと向かう。
講義棟と課外棟の二つをつなぐ橋からは校舎の中を全体的に見渡せるため、かなり気分がいい。それに下校している途中の生徒を上から見下ろす形になるため、彼らがなんだかちっぽけな存在に見えた。
まあ、高所恐怖症の人にとっては例外なんだろうけど。
今僕たちが向かっている課外棟には、多くの実験室や文化系の部活動で利用する教室が並んでいる。
コンピュータ部、美術部、書道部、将棋部、などなど。
今までこっちの棟に来たことがなかったためか、この学校にこんなに多彩な部活があることを知らなかった。というよりはこれくらいあるのが普通なのかも。
続けざまに並んだ教室のプレートを見上げながら歩いていると、慧悟がそれをみていたのか教えてくれた。
「すまんな。我が部室は一番奥にあるんで」
「え? ああ」
しばらく黙ったままだったところに話を振られたせいで、なんだか生返事になってしまった。
そうしてもう少し歩いた先に探求部はあった。いや、ここって確か……。
「指導室じゃん」
「もとな」
ええっと、どういうことなんだろうか。
「まあ話すと長くなるから手短に言うと、ウチの部長が交渉して使わせて貰ってるわけだ。もともとあった方は、違う部が入っているらしい。あれでもあの人一応学年主席だから」
なるほど、成績優秀な人ならば学校も多少の無茶を聞いてくれるわけか。いや、そんなことあっていいのか!?
「んじゃ、入るか」
慧悟はそう言ってドアを二回ノックしてから開けた。
ここまで来て迷いやためらいはもうなかった。一刻でも早く彼女を見つける手がかりが欲しい。
「こんちはー。ありゃ、
部屋の中には机と椅子がセットで五つ。それと大きめの長机が一つあり、その上には古い型のパソコンが置かれていた。
まわりには何かが収納されているのか、大きめの段ボールがいくつか積み上げられていた。指導室には入ったことがないため、知らなかったが、けっこう大きめの部屋なんだな。
そうして一通り部屋を見渡して。
慧悟が行ったとおり、
「ああ、慧悟くんですか。本日の案件の準備を……っ!」
椅子に座っていた彼女と目が合う。
数秒口を開けたままで固まった彼女は、僕をじっと凝視して
「へ、変質者さん!? どうしてここに!?」
そう。
この部室にいたのは探求部の部長にして、ストーカー騒動で出会った彼女だった。
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