第8話 僕が彼女をストーカー?
「まったく何をやってるのかな、僕は」
数メートル先を歩く彼女に気づかれないように、気配を消して歩いている僕の口からそんな言葉が出た。
自転車置き場には行かなかったから家は近いのか、徒歩で通学しているのだと思い、そのまま後をつける形になってしまったのだが、かれこれ十分以上が経過しても依然家に着く様子はなかった。いや別に家を知ろうという目的はないわけだけど。
こうしてストーカー行為をしている状態では何を言っても言い訳のようになってしまいそうだ。
なぜこんなに帰宅に時間がかかっているというと、彼女は寄り道しているだからだ。それも一度ではなく、何度も。
コンビニ、スーパー、出店のような屋台などといった食べ物を売っているお店を見つけては商品を物色し、なにかを見つけるとそれを買って食べながらまた次のお店へと移動する。それの繰り返しだった。
それにしても不思議な話だ。
女子高生が帰りに買い食いをするのは置いておくとして、なぜ一人なのか。普通は友達と一緒にお店を回ったりするものだと思うけどな。
もっとも友達がほとんどいない僕が言えた義理ではないけど。
この数十分間でわかったことと言えば、彼女がかなり食欲旺盛だということだけだった。
そうこうしているうちに、いつの間にか僕らが問題のあの十字路へと出ていたことに気づく。美味しそうに何かをほおばっている彼女は知る由もない。知っているのは、僕一人だけ……。
もしかしたら今なのかもしれない。
そう思ってほんの気持ちだけ彼女との距離を詰めた。駆け出せばこの距離なら間に合うはずだ。電柱に身を隠して様子を窺う。
その瞬間、遠くから何かが近づいてくる音が聞こえた。自転車でもなく、バイクでもなく、もっと重くて大きいなにか―――――――。
「う、嘘だろ……」
まさか本当にくるのか。そう思った僕は、気づいたら前を歩く彼女に向かって走り出していた。
あと三メートル。音はどんどん近づいてくる。
あと二メートル。音が加速した。
あと一メートル。
間に合えっ―――――――――――。
そして。
ブゥーンという音を立てながら、軽自動車は僕らの前を通過して行った。
彼女がその交差点に足を踏み入れる前に過ぎ去っていったのだ。
彼女は少し驚いた様子で立ち止まる。だがもっと驚いたのは僕の方だ。全速で走り出して急に止まることなど可能だろうか。車は急に止まれないなんていう標語があるけれど、それは人間にも適応するのだと本能に近い部分で悟った。
彼女の数歩手前で足を止めたはずが、僕の体は慣性の法則に従ってそのまま彼女にのしかかろうとする。
「あ」
「ん……?」
最悪のタイミングで彼女が僕の気配に気づいて振り返る。
そして結果的に、決して意図したわけでなく、あくまで結果的に僕らは向き合う形で倒れてしまった。
「いったぁ―い……」
僕がう上に覆いかぶさっている体勢だからか、彼女の方が怪我をしてしまったようだ。すぐに助け起こそうとして、今の現状を認識してしまった。
起きようとして右手にある何かの感触に気づく。柔らかい何か。今まで触ったことはないのに、それが何かはっきりとわかってしまった。
僕らの顔と顔の距離は僅か30センチメートルほどにして、僕の右手が彼女の胸部に置かれていたのだ。
「えっと……」
置かれていること五秒。
彼女も現状を把握したらしく
「な、な、な、な……!?」
という声が耳元で聞こえた。
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