異世界召喚事情は俺の思ってたのと違うらしい
黒有/人。
001 チートしちまっても仕方ねえよな
「……んぁ」
眠りから覚めるとどうやら授業が終わっていたようで昼休みになっていた。
窓から差し込んでくる光は容赦なく目にダメージを与えてくる。
昔から日の光には弱い質で、正直「太陽の光気持ちいいー」とか言ってるのが信じられない。
曇りの時だって空を見上げると目が痛くなる時がある位だ。
「また寝てたのかよ、
前の席の奴が馬鹿にしたように、自分の口元から涎を垂らしてるようなジェスチャーをしてきた。
こいつは
知り合ったのはこの高校に入ってからだが、何かと気が合いつるんでいる。
「うっせ……ふあぁ」
悠司が言った通り口元に違和感があったので制服の袖で拭う。
実は夜通し一緒にゲームをしていたのだ。それなのに全然眠そうじゃない。
日頃ショートスリーパーとか嘯いてるこいつは、やっぱりズルいと思う。
「お前と朝までPUWやってたんだから眠くもなるわ。俺はどっかの万年元気野郎とは違って精密機械だからな、少しでも崩れたら不調になってしまうという訳」
「いや、今日だけじゃないだろお前は。特に何もしてなくても眠そうだし、毎日なんかの授業は寝てんだろうが」
「いーや今回はお前が朝までレイドに付き合わせたから眠いの。だからなんか奢れ、な?」
「はぁ?今回の報酬はきっと人権装備になるからって開斗も乗り気だったろ?それで奢れってのはちょーっと、どうかと思うぜ?」
そう、俺らがなんで朝までゲームをしていたかというとレイド産の装備が欲しかったからだ。
ここでPUWのことについて説明しておこう。
Perfect Under World 略してPUW。巷で流行りのVRMMORPGだ。
名前から予測がつくかも知れないが、これは地下世界が舞台になる。
特徴は一見これだけなのだが、それだけじゃない。
やってみて初めて分かる自由度の高さとゲーム内AIの高度な対応だ。
VRだし自由度はあるんじゃないかと思うだろうが、その辺のゲームの比ではない。
決められたストーリーも無く本当に自分がこの世界の住人になったかの様な没入感。
そしてそれを阻害しないNPC達との対応など、そういったリアル感が流行の原因だ。
過去には没入しすぎで何日もやり続けてしまって病院に運ばれた人もいたらしく、現在はゲーム内タイマーの実装と、連続24時間以上できない様な仕組みになっている。
さて、話は戻るが責任転嫁で悠司に奢らせることが出来なくなってしまった。
完璧な理論を展開したつもりだったのに……いや、まだあきらめんぞ俺は!
「……なぁ、悠司?俺はお前に朝まで付き合ったばっかりに弁当を忘れてしまったのだよ。だからな、君がわたしに昼を奢っても何ら問題はないと思うのだがね」
責任転嫁シリーズその2。
めっちゃ尊大にしてやればこいつは馬鹿だから引っかかるだろ。
「えっ、霧崎君お弁当忘れちゃったの?私の少しだけど分けて上げよっか?」
なんか俺のとなりの席の別なのが釣れた。
「えっ、と…いや大丈夫、片倉さんありがと」
「そう?じゃあ悠司にちゃんと奢ってもらってね」
「おい待て
この釣れた人は片倉 玲奈。
悠司の幼馴染らしく、結構な頻度で言い合いになってるところを見るが基本は穏やかだ。
思ってもみなかった援軍だが、このまま押し切れるか?
「え、だって霧崎君は悠司のせいでお弁当忘れちゃったんでしょ?」
騙そうとしてる俺が言うのもなんだが幼馴染揃ってバカだったのか?
いや、多分純粋なんだろうな。多分そう。話も途中から聞いてたんだろうし。
「うっ、確かに開斗はそう言ってたし……そうなのか?」
「でしょ、ほら何か奢ってあげなさいよ」
なんかこの2人からの信用度高くね?気のせい?
なんか罪悪感というか…別に面倒だっただけだし今日はいいかな。
「なあ悠司、良いよ今回は。別に財布持って来てない訳じゃないし、忘れたのも俺の不注意だしさ」
「えっ、良いの霧崎君?悠司に奢らせとけばいいのに」
「大丈夫だよ、それより早く購買に行かないと。折角買うならカツサンドが良いけどあれって人気だろ?」
教室を見るとクラスメイトの半分位が減っている。
居ない奴らのほとんどは購買勢だからもう俺のカツサンドは無くなってるかも知れない。
席を立って購買に行こうとした時、なんだか違和感があった。
「なんか光ってない?」
クラスの誰かがそんな事言った途端、視界が白に染まった。
―――――――――――――
気が付くと、辺りはほの暗くそしてざわついていた。
周りを見渡しながら目を慣らしていくとまるでゲームの中の様な装飾が見える。
大きな空間の中にはさっきまで教室にいたクラスメイトもいるようだが、他にも人がいて何やら話している。
「皆様、召喚に応じて下さり誠に感謝いたします」
大きな声が響き渡る。
さっきまでのざわつきは消え、静寂に包まれる。
声の主は注目が集まったのを感じ少し笑みを浮かべた様に見えた。
辺りが暗いので実際にはどうか分からないが。
「私はルドーズ。この国の王です。現在、我が国アシュタールは危機に瀕しております。この危機に対応すべく代々伝わる召喚術式で勇者を召喚しました。そう、皆様方の事です」
まさかとは思っていたがこれがあの異世界召喚か。
周りも興奮したのか恐怖故か、ざわつき始めた。
「オホン。さて皆様、この世界に召喚された時、恐らく特別な力を授かったと思います。心の中で『ステータス』と唱えて下さい」
言われるがまま『ステータス』と唱えてみた。
目の前に画面が浮かび上がる。
本当にゲームみたいだな。
――――――――――――――――――――――――――――――
霧崎 開斗 レベル:1
HP:38 MP:18
技能:翻訳 灯火の力 適応力 魔力運用 現状維持
称号:異世界渡り
――――――――――――――――――――――――――――――
……なんか思ってたより簡素だな。 っていうかなんだ『現状維持』って。訳分からん。
『灯火の力』これは思い当たる節がある。
弾かれた様に悠司の方を見ると互いに目が合った。
「なあ開斗、これって……」
「ああ、PUWの世界に似てる。そう思ってみるとここって始まりの城に似てないか?」
PUWで初めてログインする時、始まりの城と呼ばれる場所で目覚めるのだがここはその城にそっくりなのだ。
細かいところは違うかも知れないし、こんなに暗くなかったが。
「だよな!開斗もスキルで気付いたのか?俺はこんな感じなんだが……」
どうやら他人のステータスも見れる様だ。
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幹田 悠司 レベル:1
HP:45 MP:10
技能:翻訳 灯火の力 不屈 怪力 闘神
称号:異世界渡り
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最初の2つは一緒だが後の3つが違うし、悠司の方が強そうだ。
なんか不公平では?
「ぶふっ、何だよこの『現状維持』って。なかなかお前にぴったりなの貰ったな」
俺のステータスを見せてやったらこれだ。
予想はしていたが流石に失礼だよな、まったく。
「なあなあ!スキルも多分強いんだろうしゲーム知識を活かしてチートって奴になれんじゃないのか、俺たち!」
「そう興奮すんなよ。だが俺らが来たからにはPUWの知識が発揮されちまうかもなあ。チートしちまっても仕方ねえよな、うん」
俺は極めて冷静に対応しながらも、まだ見ぬ世界に心躍らせていた。
「ちょっと!!何なのよこれ!何でもいいから早く元に戻しなさいよ!!!!」
おっと、出た出た。これもまあテンプレっちゃテンプレだよな。
唐突な召喚に驚いて元の世界に戻せと悲観的になる奴。
そしてその女生徒をなだめる正義感溢れるイケメン勇者もセットだ。
「まあまあ、落ち着けって
なんかバカが言ってる。
そこはお前じゃないだろ、ほら、後ろで踏み出した足を徐々に引いて行ってるイケメンがいるよ。微妙な顔してるって。
それにさっきまでヒステリックおこしそうだった奴……真田さんか。
真田さんもポカンとしてるもん。
しばしの静寂の後、ルドーズ王が口を開いた。
「やはり、勇者の力があるとは言えあなた方の様な少年少女を頼るのは私も心苦しいものです。皆様は元の世界に帰りたいですかな?」
「そ、そりゃあ帰りたいとは思うけど、それは無理なんでしょ?」
悠司が答える。
意外とあいつ肝が据わってるな。いや、バカなだけか。
「いえ、今ならばまだ送り還すことは可能です!今から準備させますのでお待ちください!」
……ん?
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