そうだ、滝を見に行こう
葵 悠静
そうだ、日帰り旅行に行こう
素晴らしい一日を過ごした。一生に一回こんな日があるだろうかという経験をした。だからここに記そうと思う。現時刻深夜1時。
深夜テンションで書いているのは否めないが、温かい目で見ていただければと思う。この体験は共有しなければもったいない。
とある梅雨のある日、連休をもらった私はとある計画を思いついた。
「明日滝でも見に行こうかな」
これはこの街に引っ越してから幾度となく思っていたこと。私が住む静岡は有名な滝がいくつもあるらしい。ネットで観光名所を調べれば、富士山が見える場所はもちろんのこといろいろな滝の名所がピックアップされている。
しかしその滝を見に行くにはいくつか解決しなければならない問題があった。
移動手段、時間、私のやる気、そして現地までの距離……。
現地までの距離としては平均として100kmほど、そして一番の問題は私自身交通手段は最近手に入れた原付しかないのだ。
原付での移動は別に苦ではない。制限はいろいろとあるが風を感じながらの走行、しかも自転車と違って体力を使わずに周りの景色を楽しめるのは素晴らしい。
しかし苦ではないことと問題が解決することはまた別だ。
原付で静岡県の反対側に行くというのは恐ろしく時間がかかる。まず30kmという速度制限、そして一番の強敵、それは県内に蔓延るバイパスという名の原付走行不可ルートだ。
過去に一度この滝を見に行こう計画を立てて実行したことがある。
その時に阻まれたのがバイパスだ。スマホのナビ機能を使って私は悠々と目的地に向かっていた。しかしこのときナビルートが示していたのは車での走行ルートだった。
あとはお察しの通り、自動車専用バイパスに阻まれてしまった。有料コースを避けての走行、田舎から出てきた私は高速さえ避ければどれだけ時間がかかろうとも目的地にたどり着くだろうと信じてやまなかった。
そしてそんな私をあざ笑うように現れた標識が自転車、歩行者に大きく車線がひかれているうえに「自動車専用」の文字。
原動付自転車。
そう、原付はいくらエンジンが付いているとはいえ自動車ではなく、自転車なのだ。二輪自動車ではない。悔しいが自転車だ。
その時の私は雨が降り出したのも相まって泣く泣くそのまま帰路についた。
あの時の失敗を繰り返すわけにはいかない。二度もバイパスに阻まれるなどあってはならないのだ。
必ずかの暴虐なバイパスを何とか攻略しなければならない。
攻略法は一つ、ナビを徒歩用に切り替えて向かうのだ。私は何を隠そう生まれ持った生粋の方向音痴だ。ナビなしで100kmも走行するなど私からすれば正気の沙汰ではない。
とりあえず徒歩用にすればバイパスは避けて通れる。歩行者でも行ける場所を原付がいけないわけがない。私は徒歩用のナビを信じてやまなかった。
そのおかげで痛い目を見ることにはなるのだが……。
ともかくこれでバイパス問題はとりあえずクリアした。次に問題なのは天気だ。
時間? そんなものは私のやる気があればいくら深夜になろうとも戻ってこれる。
冒頭にも書いた通り、今は梅雨真っ盛り。今日も外は雨が容赦なく地面をたたきつけている。
文化の宝刀、スマートフォンを取り出してさっそく明日の天気を調べる。
するとどうだ。直近一週間は雨がずっと降っている予定だったというのに、ちょうど明日は曇りマーク。しかも雲の右上から太陽のマークがちょっと見えている。これは気象庁のお墨付きをいただいたようなものだ。
これは神様もきっと私に滝を見に行けという啓示しているに違いない。
まあ生まれてこの方神は信じていない無神論者である私だが。
しかしここで浮かれるわけにはいかない。今調べたのは私が住んでいる街の天気。現地の天気が雨ならば意味がない。雨の日の原付での長距離走行など恐ろしくしたくがない。そもそも雨の日に家から出たくはない。
私の理想はハメハメハ大王一家のような生活なのだ。雨の日はお休みが一番。
現在の滝候補は二つあった。
一つ目は静岡県裾野市にある『五竜の滝』
ネットの情報によると公園内にある三本の滝が流れるところらしい。私が気に入ったのはもちろん写真から伝わってくる滝の勢いもそうなのだが、何より名前が気に入った。
私が初めて書いた小説と全く同じ名前の『五竜』そこにひどくひかれた。
正直心は半分以上こちらに流れている。
二つ目は静岡県葵区にある『安部の大滝』
ネットの情報によると日本の滝百選にも選ばれていて、日本三大名滝にも選ばれている別名「乙女の滝」とも言われているらしい。
名実ともに行けば間違いないであろう滝スポットだ。
距離的には五竜の滝よりも近い。日帰りで行くならこちらの方が現実的だ。
どちらに行こうか私は決めかねていた。仕方がない。ここはひとつ天気で決めようではないか。
裾野市の天気は曇り時々雨。三時間天気予報によると昼頃からにわか雨に注意とのことだ。
対する葵区の天気は曇り。三時間天気予報で見ても雨が降る予報はない。
私の目的地は決まった。『安部の大滝』だ。『五竜の滝』を見れないのは悔しいが天気には勝てない。私は日本三大名滝の一つを拝みに行こうと決めた。
「明日は9時くらいに出ればいいかな」
目的地までの予想経路時間は約5時間。往復十時間。
安部の大滝のハイキングコースは片道40分かかるらしい。運動不足の私が歩くのであれば片道一時間は見といたほうがいいだろう。
このがばがば計画内ですら既に夜に帰ってくることが確定しているが、そこはまあ気にしない。深夜になろうが早朝になろうが家にたどり着けば日帰り旅行なのだ。
私は明日の天気を案じながら、休日一日目を満喫するべく夜更かしをしっかりとして深夜3時に眠りについた。
きっと遠足前の小学生の気分と同じだったのだ。そのために深夜まで眠れなかったのだ。そういうことにしておこう。ちなみに私の休みの時の生活リズムは夜型だ。
次の日目が覚めると時計は午前11時を指していた。
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