第63話 意外な協力者
「屋敷に戻ったタイミングでまた君の前に現れる」
あの男の言葉を思い出して、シスカは俯いた。
俺が負けたら、ジゼルお嬢様に二度と……。
嫌だ。
シスカは無意識に拳を握りしめていた。
「俺は彼女が好きだ。ジゼルお嬢様と、離れたくない」
決闘を申し込まれたってことだ。
ジゼルお嬢様をかけて。
彼は、あのマーベラス学園で俺同様剣術を学んできたんだろう。
首席だっていっていた。刺された時だって、殺気を全く感じなかった。
きっと実力があるんだろう。
でも、俺は負けたくない。ジゼルお嬢様の為だったら。
俺は、どんな相手にだって負けたくないんだ。
マチルダさんと俺は毎日トレーニングしてきた。体つきも最初に屋敷に来た時と違ってがっちり変わってきた。
「あとは病院でもトレーニングをするんだ」
でも、俺はいってしまった。マチルダさんに屋敷にいてくれと。ジゼルお嬢様を守ってくれと。あの人がもし最悪なにか気を起こしてジゼルお嬢様を誘拐したりしたら、マチルダさんがいてくれないと困る。
でも後俺に剣術の稽古をつけてくれる人なんて……。
「あ」
いや、あの人は――いいっていってくれるだろうか。でも、あの人しかいない。
早速明日電話しよう。
「もしもし、エイズラさんですか」
「入院生活は楽しんでるか」
相変わらず嫌味な人だ。
なんか、もうこの時点で頼んでもダメな気がしてきた。
俺は、屋敷を襲ったあの男とジゼルお嬢様をかけて決闘することになったこと、マチルダさんには屋敷を守ってもらっていること、そして、エイズラさんに訓練をつけてほしいことなどを説明した。
「いいぞ」
「へ?」
あっさり快諾された。
本当に以外に、すんなりと。
「な、なんでですか。え?今いいって言いました?」
「あぁ、断ってやろうか?」
「どうして、そんなに優しいんです?本当にエイズラさんですか?エイズラさん?」
「入院期間を延ばしたいようだな貴様」
嫌味な物言いは完全にエイズラさんそのものだ。でも、俺に剣術の稽古をつけてくれるなんて。どうしてそんなに優しいんだ、本当にあのエイズラさんなのか?
しかもこんなにあっさりと。
「あの男とは屋敷でも対峙したが、大変危険な様子だった。目的の為なら殺人もいとわないような、そんな雰囲気を持っていた」
「……」
「現に貴様が刺されているわけだしな」
エイズラは静かに呟いた。
シスカは、真剣な声色のエイズラに、自分を本気で心配してくれているのだということを悟った。
「ありがとうございます、エイズラさん。退院までしばらくかかりますが、俺頑張りますから」
「当たり前だ、僕がお嬢様の側にいることなくお前の稽古をするんだからな。腑抜けた態度であれば退院はないと思え」
エイズラさんは、いつもレズリ―お嬢様優先だった。
それなのに俺に稽古をつけてくれるらしい。俺はそれがなんだか信じられないようでうれしかった。
「では早速明日からお願いします」
「あぁ」
***
「シスカさーん」
病室に様子を見に来た看護師は、驚愕に目を見開いた。
「あの、シスカさん」
「なんでしょう」
「どうして入院してきた時より傷が増えているんでしょう」
「僕にもわかりません、わんぱくだからかもしれませんね」
看護師は、ぴくりと眉を動かした。
「あの、シスカさん」
「冗談ですよ、冗談に決まっているじゃないですか!あはは……」
っていっても、怪我をせず強くなることなんてできないんだ。俺はこの屋敷にきて今までで学んだ。
どんなにボロボロになっても、決闘の時までには成長しなくては。強くならなくては。
警察の方々には、犯人捜索は断った。
通り魔ではないことなどを説明し、自分たちでけじめをつけることを話した。
俺たちのことで沢山の人を巻き込んでしまったのは申し訳ない。本当に申し訳ない。
でも、俺は彼が俺を刺したことは受け止めなくてはならない。俺は彼の仮面をずっと黙って使っていたのだから。
***
「毎日来るのね、あなた」
一方その頃、ジゼルは毎日屋敷に会いに来るエリックに頭を抱えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます