第60話 結婚してくださいといきなり言われても
「だ、誰なの?あなたは」
ジゼルが問いかけると、仮面の男は仮面を外した。
澄んだ水色の髪色は、よどみのないアクアマリンのような青い瞳と相まって、整った外見はまさに王子様そのものだった。
背はジゼルより10センチ程高い、170センチほどのその男性はジゼルに視線を合わせるように少し膝を曲げた。
「仮面舞踏会の時、あなたに一目ぼれしてからずっと、あなたのことを探していました。やっと見つけた・・・ボクの姫!」
「ひ、姫?」
ジゼルの手をとった男は、ジゼルの手を口元に持っていき手の甲にキスを落とした。
「ひっ!?」
ジゼルは驚いて右手を振り上げたが、男はそんなジゼルの手を優しくつかんで止めた。
「な・・・何なのあなた」
「だからあなたに会いにきたんですよ。ボクは」
男はそういってにっこりと微笑んだ。
「ボクの名前はエリック・キラー」
「エリック?」
聞いたことのない名前だったが、エリックは首を傾げたジゼルを見て少し寂しそうな顔をした。
「ボクと結婚してください」
「結婚!?」
ロゼッタは、しばらく廊下の壁からその様子を隠れてみていたが、手の甲にキスした辺りで急いで電話に向かった。
早く・・・早くシスカさん帰ってきて。シスカさんの好きな人であるジゼルお嬢様が変な人に絡まれています。不審者です。王子様を名乗った変質者です。
「って、こっちからは電話できないじゃないですか」
病院の電話でこっちにかけてもらわない限り電話が使えない。
小型で持ち運びのできる電話をどこかで発明してほしい・・・ロゼッタは自分が焦って思考が落ち着かないことに気付き、とりあえず深呼吸した。
そして、電話の近くに書いてあるメモを見て、とある電話番号に電話した。
***
「わたしには既に好きな人がいるの」
ジゼルは自分の胸に手を当て告白した。
「好きな人って?」
「あなたと同じ・・・仮面をした・・って、あなたはどうしてその仮面をつけているの?」
ジゼルがエリックの持っている仮面を指さした。
「どうしても何も、これは元々ボクの仮面ですよ」
エリックはそういって怪しく笑った。
「わたしの好きな人も、それと同じ仮面をつけているの」
「じゃあ、それはボクから盗んだことになりますね」
エリックはそういって仮面を左手に持ち直した。
「いいがかりはやめてちょうだい」
「いいがかりではないとしたら?」
エリックは真剣は表情でジゼルを見つめた。
「いい加減にしてちょうだい。わたしがあなたを好きになることなんてないわ」
ジゼルははっきりと宣言した。
ジゼルの心はあの時、マスクに助けてもらって彼のことを好きになったあの時から決まっていた。
「そうか・・・ではまたお伺いします」
「来ないでちょうだい」
そういってエリックはくるりと背を向けた。
だがそこに立っていたのはエイズラとレズリ―だった。
「不審者がこの屋敷に来ていると電話があったわ」
レズリ―は腕を組んでブチ切れていた。
「あなたね、顔がかっこいいからっていきなりジゼルの手の甲にキスをしたそうね。ただじゃ済まさないですわよ」
「いや、レズリ―。もう彼は帰るといっているわ」
ジゼルの声は届かず、レズリ―は怒りに任せてエリックを指さした。
「エイズラ、二度とジゼルに近づかないよう痛い目を見せてやりなさいですわ!」
「かしこまりました。お嬢様」
そういって頭を下げたエイズラは、キッとエリックの方に視線を向けた。
エリックは、微笑みを絶やすことなく向かってくるエイズラを見つめた。
エイズラは、エリックを組み敷くために素早くエリックのフリルシャツの襟首に手を伸ばした。
だが、その手を逆に両手でつかまれ、ぐいっと引っ張られ逆に組み敷かれそうになった。
エイズラはエリックに向けて蹴りをいれようと足を振り上げたが、エリックはそれも見切っているような余裕の笑みでとんと地面にかかとを落とすと、その蹴りに自分の蹴りをぶつけてきた。
「いっ!」
エイズラの蹴りとエリックの蹴りはぶつかりあって力を粉砕しあったかに思われたが、エリックのブーツのかかとに小さい刃物が仕込まれており、その刃物を容赦なく、思い切りエイズラの足にぶつけたエリックはそのまま今度はその足でエイズラの腹を突き刺そうとしていた。
エイズラはたまらずエリックから距離をとった。
またとんと地面にかかとを落とし、刃物をしまいエイズラを見上げるエリックは、ジゼルからは見えなかったがぞっとするような表情を浮かべていた。
「ボクの邪魔をするやつは誰であろうと許さない」
こいつは、本気だ。
エイズラは大きく目を見開いた。
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