第50話 素直な君と花束

「9月14日。誕生日に一緒に過ごしたいです。少しだけお時間ください・・・か」


1日デートは気をつかって諦めたとか恥ずかしくて書けなかったとか、どうしてそういうところだけ弱気なんだ。

シスカは手紙を見つめながらふっと微笑んだ。

何度も読み返したこの手紙。

ついに明日がジゼルの誕生日だ。

レターセットで手紙の返事も書いていた。

シスカは、返事を書いてポストに入れておくのが日課になっていた。


「予定をあけて必ずお伺いいたします」


また窓から不法侵入することになるんだろうな。シスカはなんとなく想像していた。

屋敷からピンポンして入ってくるのはなんとなく違う気がするし、マチルダさんが前に言った通り、窓から侵入していこう。

こっそりといこう、こっそりと・・・。


シスカはそういうことを考えるたびにいつジゼルに本当のことを言おうかという考えが浮かんで胸を痛めた。

ジゼルお嬢様はあの時助けてくれた王子様のようなマスク様が好きなのであってそれは俺ではないわけで。


だが、俺にはまだもう1つやることが残っている。

シスカとして、海に一緒にいったメンバーでジゼルをお祝いするというお誕生日パーティがあるのである。

このイベントはなんとしても成功させたい。そして夜に誕生日プレゼントを渡しに行こう。


「お誕生日おめでとう!ジゼル」


レズリ―お嬢様とエイズラさん、そしてライムさんと、ジゼルお嬢様の屋敷のメンバーで誕生日会を開いた。


「ありがとう・・・!」


ジゼルは、まさか自分の誕生日パーティを使用人や、レズリ―たちが開いてくれるとは思わず、感動していた。

毎年マチルダがプチパーティを開いてくれるが、今年は凄く賑やかな誕生日になった。


「ジゼル、これ・・・プレゼントよ」


レズリ―は恥ずかしそうにジゼルにプレゼントを渡した。

ロゼッタに相談したレズリ―は自分が似合うと思ったドレスを、ジゼルにプレゼントしたのだった。


「ありがとう・・・レズリ―」


今年は運命が大きく変わった年だわ。ジゼルは思った。

友人も、使用人も、増えて、好きな人もできた。

本当に素敵な年――。


シスカは、感動しているジゼルとは対照的に汗をだらだら流していた。

忘れていた。いや、忘れていたではすまないことはわかっているんだけれど!シスカは、ジゼルにシスカ宛ての誕生日プレゼントを買い忘れていたのである!!

ロゼッタに花をプレゼントするように渡したシスカは自分だけ何も用意してないことを申し訳なく思った。と、同時にプレゼントを買いに行ったのに渡さない俺を、ロゼッタくんが凄く不思議そうに眺めている視線が申し訳ない。


「ロゼッタくん・・・」

「はい、シスカさん」

「俺がプレゼントを買っていたこと、ジゼルお嬢様には内緒にしておいてくれないかな」


シスカがロゼッタとプレゼントを買いにいった時と同じことを言われ、ロゼッタは首を傾げた。

前回は、シスカさんと買いに行ったことがバレるとサプライズにならないからって意味だと思っていたけれど、もしかしてそれはボクの勘違いだったのだろうか。だとしたらどんな勘違いになるんだろう。

ロゼッタは少し考えたが、シスカさんがそういうのならそうなんだろうと一言、


「はい!」


そう答えて頷いた。

パーティも終わり、レズリ―達が帰った後、シスカは花束を抱きしめて座っているジゼルに近づいた。

その花束の色はオレンジ。シスカがレズリ―の屋敷でオレンジ色のドレスを着ていたジゼルを思い出して買ったものである。


「ジゼルお嬢様、俺・・・誕生日プレゼント買い忘れてしまって」


きょとんとしてシスカを見上げたジゼルに、シスカは申し訳なさそうに俯いた。


「いらないわ」


ジゼルは首を振った。


「私の屋敷に来てくれてありがとう、シスカ」


!?

いつものジゼルじゃないぞ!?シスカは衝撃を受けたが、そのキラキラした瞳に、本当に誕生日パーティを楽しんでくれたんだと、シスカは嬉しくなった。


ジゼルの誕生日を最後の最後で台無しにしないように、シスカは夜ジゼルが寝室に行ったのを見届けて、プレゼントを持ってジゼルの部屋の窓をたたいた。

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