第49話 はじめてのおつかい

というわけで俺とロゼッタくんは共に買い物に行くことになった。

ジゼルの誕生日のプレゼントを買いに行ったシスカとロゼッタだったが、前にジゼルといったバザールは、ロゼッタを売っていたあの嫌な男がいそうなので少し遠くのバザールに行ってもらう事にした。

ロゼッタくんは、エルフだと隠すために頭に布を巻いて顎の下で結んでいた。


「あの、ボクのことはお気になさらないでください」


ロゼッタは申し訳なさそうにそういった。


「いや、前見たバザールと少し違うバザールに俺が行ってみたかっただけだから」


シスカはそういって微笑んだ。

少し遠くのバザールは、前回行ったところより広く、店のほかにテントで商品を売っていたり、芸をしている人がいたり、人が多くて多彩な種類の物が売られていた。


「そうだ、ロゼッタちゃん」

「はい」

「俺とこうして買い物に来たこと、買い物で買ったものはジゼルお嬢様には内緒ね」


シスカの渡すプレゼントはマスクとして渡すものだ。それがシスカのものだとバレてはいけない。だが、ロゼッタはそれを聞いてジゼルお嬢様のプレゼントを買いに行くのだから内緒なのは当然だと思った。


色んな商品があって、ジゼルお嬢様の誕生日プレゼントは見つかりそうだけど・・・。

人がとにかく多いな。


「ロゼッタちゃん」


「はい?」


「はぐれるといけないから手を繋ごう」


ロゼッタは戸惑った。

もしこの布がとれたら?ダークエルフと手を繋いで歩いているとシスカさんが恥をかいてしまうかもしれない。

ロゼッタは自分の頭にかぶっている布をぎゅっと押さえて俯いた。


「ボ・・・ワタシは」


シスカは、頭の布を押さえて俯くロゼッタを見てなんとなくロゼッタの考えていることがわかった。ずっと人の多いこのバザールに来てから人の目を気にしては布を押さえている。


「ロゼッタちゃんは、知られたくないんだね」


「はい・・・もしバレたら、シスカさんにご迷惑が・・・」


ロゼッタは、力なく返事をした。


「それは気にしなくていいよ、ただその、ダークエルフだってことをバレたくないというのはなんとなくわかるから俺からはぐれないようにしてね」


シスカは、ジゼルに最初に会ったときのことを思い出していた。

エルフだとバレたと分かった途端に泣きだしてしまった彼女のことを。


「はい・・・」


ロゼッタは、左手で頭の布を押さえて、右手でシスカの服のすそを掴んだ。

ボクは最近周りの人に優しくしてもらってばかりだ。何かバチが当たるんじゃないだろうか。ロゼッタの服のすそを掴む手がやや弱まった。


「花は当日の方がいいかな。誕生日プレゼントが先か」


シスカは先に長くなりそうだが誕生日プレゼントを今日1日で決めることにした。


「ロゼッタちゃんも欲しいものがあったらいってね、俺が買うから。後ジゼルお嬢様の誕生日プレゼント一緒に考えてほしい・・・女性って何が欲しいものなんだろう」


本当に困っている様子のシスカに、ロゼッタは真剣に考えた。

今まで奴隷としていった家では、主人は女性に何をプレゼントしていただろう。


「宝石とか、お洋服とか、お花とかでしょうか」


女性が好きそうなものをロゼッタなりに羅列しただけなのだが、シスカはピンときたような顔をしていた。


「そういえばドレスを欲しいといっていたっけ。ちょっといいドレス・・・」


でも、なんか顔を赤らめていなかったか?

別で自分で買うつもりなのか?全然わからん。


「とりあえずプレゼントを見て回ろうか」

「はいっ」


そうして俺たちはバザールを見て回った。

半分くらい回ってお腹がすいてきたのでレストランに入店して、ロゼッタちゃんとご飯を食べることにしたわけだが、俺は注文を終えると机に突っ伏しそうになった。


「・・・どうなんだ、わからない、全然決まらない・・・ジゼルお嬢様は何が欲しいんだ。わからない」


「シスカさんはジゼルお嬢様のことが本当に大好きなんですね。そんなシスカさんからのプレゼントなら、ジゼルお嬢様は喜んでくださると思いますよ」


ロゼッタはそういって微笑んだ。

マチルダさんもそんなことをいっていたが、そんな感情的に考えていいのだろうか。


「ジゼルお嬢様と毎日会ってらっしゃるんですから、ジゼルお嬢様が身に着けるものや好きな色なんかは把握してらっしゃるんじゃないですか」


流石ロゼッタくん。シスカは、たびたび何か聞くたびにアドバイスや意見をくれるロゼッタを頼もしいと思った。そして考えてみた。

ジゼルは何が欲しいのか。俺は確かに毎日会っている。

だが、マスクはどうだ、手紙の返事もマチルダさんに言われるまで返さず、全然会えていないではないか。


「そうだな・・・そうだな」


ロゼッタは考えながらうんうん頷いているシスカを水を飲みながら眺めていた。

シスカさんは、好きな相手のプレゼントを真剣に悩みながら、本当に楽しそうに選ぶんだな。

ジゼルお嬢様はきっと何をもらっても喜ぶだろうなと思うほどに。


「これにするよ」


シスカは、マスクとしてのジゼルの誕生日プレゼントを無事決めた。


「いいですね」


ロゼッタは、そのプレゼントに太鼓判を押した。


「今日は付き合ってくれて本当にありがとう」


すっかり日も落ち着いて夕方になっている。シスカは近くのアイス屋さんで買ったアイスをロゼッタに差し出した。


「あ・・・ありがとうございます」


ロゼッタは、ピンク色のアイスをじっと見つめた。それは奴隷として売られている時、店で売られているのをちらりと見た、不思議な食べ物だった。

きらきらしていて、パステルカラーで、食べたことがないものだった。自分とは縁のないものだと思っていた。それが今自分の手にある。

シスカが食べているのをじっと見つめてロゼッタはストロベリーのアイスを口に運んだ。

脳が痺れる程甘かった。

こんな食べ物があるのだと、ロゼッタは感動してコーンを両手で持ち、大事に大事に口に運んだ。


「ロゼッタちゃん、はい。今日はありがとう」


シスカはそういってロゼッタに両手で抱えるくらい軽い、ピンクのリボンでラッピングしてある白い包みをロゼッタの膝に乗せた。


「はい、わかりました」


「ロゼッタちゃんにあげるよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


荷物を持ってほしいという意味だと思ったロゼッタは固まった。


「え?」


「よかったら使って」


そういって照れくさそうに笑うシスカを見て、ロゼッタは放心したように包みを見つめていた。プレゼント?ボクに?何故?どうして?何のために?わざわざお金を使って?このアイスだけでも勿体ないくらいなのに。

どうしてこんなことをするんだ。なんのためのお礼なんだ、ボクは今日何もしていない。ただついてきただけだ。色々な商品が見せて、奴隷としてではなく普通の人間としての扱いをしてくれるだけでボクは勿体ないくらい幸せなのに。

それなのに、プレゼントなんて。


「こんなに、優しくしてもらって・・・いいのかなあ」


ロゼッタは、自分でも知らないうちに涙が出てきた。


「後は花だけだから、ゆっくりって・・・あれ?ロゼッタちゃん!?なんで泣いているの!?」

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