悪役令嬢の執事というブラックなお仕事!
ガイア
第1話 人間夢に向かって努力しているときが一番楽しい
決められた運命に、逆らいたかった。
人の上に立つ人間になりたかった。
この国の中心都市、エクレアでは、マーベラス学園という卒業できたら確実に国のトップ層の人間になることを約束された学園があった。
この国は地区ごとに王子をたて、国の発展を支えている。
王子とはもはや生まれで決まるものなどではなく、しっかり王子としての教育を受けたものが担う職として確立した。
学校を首席で卒業したものは、王子になる資格を得る。卒業した中でも成績のよかったものは、確実に国に携わる上級職に就くことができる。
王子として地区の発展、国民の支持を多く得られれば国全体の王になる為にのしあがっていくこともできる。
過去に行われた愚かな王の愚行。
気に入らない民を虐殺。
女を誘拐して側室にしたり、国の金を遊びに使い多額の税金を徴収。
「そんな愚王を二度と出さないため、国は学校を立ち上げ優秀な人材、つまり俺のような剣術も上手く勉学もでき顔のよい俺のような存在を王にすべく学校を立ち上げたのだった」
「2回言った・・・」
子供たちに紙芝居を読むバイトをしていたシスカ・スチュアートだったが、王様が出てきた辺りから話は脱線し始め、いつの間にかいつものようにシスカの自分話りになっていた。
「どーして国の王になるというお兄ちゃんが公園でぼくたち子供に紙芝居をよんでいるの?」
眼鏡をかけた少年が挙手をした。もっともなことを聞くな。シスカは心の中で毒づいた。
「それはね、奨学金では賄えない分の学校のお金と生活していくためのお金を稼ぐためだよ」
「どーしておかあさんとおとうさんはお兄ちゃんの学費を出してくれないの?」
「僕はおうちから家出をしてきたからだよ」
「どーして家出をしてきたの?」
「・・・・・・・・」
シスカは、あの日のことを思い出していた。
『スチュアート家は代々優秀な執事を育て、名家に仕えさせる家系だ。シスカ、私の代では残念ながら2人しか子供が生まれず、不作だった。お前の兄さんは臆病で泣き虫で頼りない。お前が代々仕えているエヴァ―ルイス家に仕えるのだ。いいな?』
『いいわけないだろ、俺の将来を勝手に決めるな。俺は、他人の指図なんて受けたくない。生まれながらに人の下につく人生が決まっているだと?ふざけるな!俺の人生は俺が決める!もう我慢の限界だ!こんな家出て行ってやる!!』
そしてシスカは家出をした。王となる器を持つ人間を育てるマーベラス学園へ入学願書を既に出していた。
「敷かれたレールの上を歩くことを拒み、自分の人生を歩むことを決断したからだよ。君たちも俺のように自分の信じた道を行くような人間になってくれ」
「シースーカーくーん」
シスカの肩を怖い顔で掴んだのは、シスカに紙芝居を代わりに呼んでくれと頼んだシスカのバイト先の店長、ダイゴだった。
「ねえ、裸の王さまを読んでいっていったんだよね、どうしてそんな結末になるのかな?」
「裸の王様より俺の人生の方がドラマがあります」
どんと胸をたたくシスカにダイゴは眉をぴくぴくさせた。
「そういうんじゃないんだよねえ。さっき出前先で子供が公園で不審者に洗脳されてるって苦情が入ったんだよ」
「え・・・不審者?そんな、子供たちを守らないと!」
「君だよ、君!」
「ヒッ・・・」
ダイゴに指を差されてシスカは意味がわからなくて悲鳴をあげた。
「目に凄いクマがあるし顔も青白いしたまに吐血してるよね、大分無理してるんじゃないの?最近ちゃんと寝れてるの?」
シスカは、生活費や学費を稼ぐべく勉強筋トレ含めて3日に4時間睡眠で働いている。頑張り屋で声も大きく、働き者のシスカは評判もよく、バイト先の人に好かれている。その中でも、一番シスカに目をかけてくれているのが、洋食屋の店主であるダイゴだった。
ダイゴは子供が好きで、公園で夕方紙芝居を読み聞かせているが、出前を初めてから忙しくなり、その役目をシスカに受け渡してみた。
結果はこの通りである。
「大丈夫ですよ!心配してくれてありがとうございます、ダイゴさん」
シスカがにっこり微笑むと、
「お兄ちゃん」
シスカの背中に女の子が声をかけた。
「どうしたらそんなにボロボロなのに自信がもてるの?」
「ヒーローというものはね、みんな苦労をしているものなんだよ。ボロボロなのは努力の証、努力を積み重ねるとそれは自信につながるんだ」
女の子は、そんなシスカを見て俯いた。
「あたしのお父さんとお母さん、お医者さんで、病院をついでほしいっていうんだけどね、あたし・・・あたし本当は、パン屋さんになりたいの。なれるかな?お兄ちゃんみたいに」
シスカは、女の子の前にしゃがんで拳を握りしめた。
「なれるさ!夢を追いかけて努力を続けていればきっと大丈夫だ。俺が王様になったら君のパンを沢山買いに行くからな」
「うん!お兄ちゃん!」
そういって走っていく女の子の背中を見つめていたシスカだが、突然鼻血を出して倒れた。
「シスカくん!?シスカくん!?大丈夫!?鼻血出てるよ?」
シスカは最近特に寝ていなかった。
子供たちの前では笑顔だったが、本当は多大な無理をしていたのだ。
「あ・・・ちょっとあれですね、来週あのあれがあるんですよ、あれ」
「頭まわってないじゃん、今日はもうあがりでいいから」
「そんな、俺・・・まだやれます」
シスカは青白い顔とかさかさの唇で答えた。
「だめだって、来週試験なんでしょ?」
来週は学校で進級するための筆記試験がある。
マーベラス学園では、クラスがSクラス、Aクラス、Bクラスと別れていて、それぞれ成績によってクラスが振り分けられる。Sクラスの生徒こそ王子にふさわしく、その中で首席をとらなくてはならない。
シスカは、実際剣術、武術、勉学、すべて命を削った努力のおかげか今のところ首席であり、先生の評価も高い。
このまま成績を落とすわけにはいかない。シスカは、家に帰ってきても休まず勉強を続けた。
「俺は今日もえらい!よく頑張ってる!その考えの積み重ねだ」
シスカは、腕立て伏せをしながらノートを見て勉強を続けた。
「努力するものは必ず報われる。まだ夢がかなっていないのは俺の努力が足りないからだ」
だが、運命というのは残酷で。
いくら努力をしても、どうにもならないことがある。
努力するものは報われる。
そんなことを言える人間は、成功し報われた人間だけなのだ。
「離せ!!!離せよ!!」
「シスカ・スチュワート。君の退学届けが昨晩受理された。よって、進学試験を受けることは認められない」
「嫌だ!!離せ!!!俺は、試験を受けるんだ!!」
シスカ・スチュワートは学校の教師3人に校門前で拘束されていた。
「シスカ君・・・すまない」
シスカの努力を認めていた教師は、歯を食いしばり固く目を閉じた。
周りの生徒たちは、何が起きたんだという目でシスカを外野から見つめていた。
「誰か助けてくれ!!こんなのおかしいだろ!!」
「おかしくない」
校門の内側から聞こえた聞き覚えのある声。
ここにいるはずのない男の声だった。
「やっと見つけたぞ、シスカ」
「父さん・・・?」
シスカの前に現れたのは、2年前家出して以来会っていなかった父親。ヴァルゴ・スチュワートだった。
「お前の兄が屋敷から逃げて行方をくらました。エヴァ―ルイス家の使用人に空きができてしまった」
「・・・だからなんだよ」
「退学届けは既に提出している。お前を連れていく」
「嘘だ・・・嘘だろ?」
「連れて行け」
いつだって、そうだ。
残酷な運命というのはどんな人間にも平等に、突然牙をむくものなのだ。
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