表?裏?
ピート
第1話 あれれ?
オモチャ屋さんに来るなんて何年ぶりだろう。
姉の子供、甥っ子の誕生日プレゼントを買いに来たのが目的なのに、ついいろんなモノに目がいってしまう。
とはいえ、テレビゲームが大半で、私が子供の頃に遊んでいたようなオモチャはずいぶんと減ってしまっているようだ。
日曜日だからなのか、奥の方で男の子の遊んでいる声が聞こえる。
どんな遊びをしてるんだろう?TVゲームぐらいしか思いつかないのは、成長した証拠なんだろうか。
目的の買い物を済ませる前に、店内を見て回る事にした。
奥に近づく程、子供達の楽しそうな声が聞こえる。
と、突然、大きな声が店内に響いた。
「そんなのありかよ!!」
「気付かなかったお前が悪いんだろ!」
「本当にあってるのかよ!?」
?何のことかわからないが、ケンカみたいだ。店員さんを呼ぼう。
と、振り返ると、エプロンをした男性が苦笑いを浮かべ、私に声をかけた。
「すいませんね、驚かせてしまって」申し訳なさそうに頭を下げる。どうやら店員のようだ。
「止めなくていいんですか?」子供達の怒鳴り声は店内に響きわたったままだ。
「僕はあのゲームには詳しくないんですよ。今日は常連の詳しいお客さんがきてるんで、彼に任せた方がいいですしね」
「詳しくないとダメなんですか?」ケンカとは違うのかな。
「ケンカというより、ルール上の問題だと思いますからね。詳しくない人間が口出しても意味ないですから」
「でも…」言葉が出てこない。そうなのだ、彼らがルールに基づいてゲームで遊んでるのなら、ルールを理解していなければ、収めようがない。言われてみればそうだけど…いいのかなぁ。
「ほら、静かになったでしょ?秀さんがいる時は楽ができるんで有り難いです」店員は小さく笑うとレジの方に戻っていった。
いったい、どんなゲームなんだろう?
好奇心と興味本位だけで、私は店の奥へと進んでいった。
「秀さん、コレあってるよね?」
「おいおい、自分のデッキに入れてあるカードぐらい把握しとけよ」
「やっぱり、よくわかんないまま使ってたんじゃないか!」
「タカシも落ち着けよ。いいか、このカードは・・・」
子供達の中で説明してるのは、驚いた事に社会人らしき男性だった。
いや、社会生活を営んでるかどうか私にはわからないんだけど。
でも、この声・・・どっかで聞いたような気がする。
彼らのテーブルには、小さなビニールの袋に入ったカードがたくさん並んでいる。
おはじきや、ソロバンを小さくしたようなモノ、数字の書かれたメモ、変な形のサイコロまで置いてある。
いったいどんな遊びなんだろう?
「わかったか?テキスト読めばわかる事なんだから、もう少し国語の勉強をするんだな。もしくは英語のカードを使用するなら、英語の勉強をしっかりした方がいいぞ」
「だって英語の方がカッコイイだもん」タカシと呼ばれた少年が呟く。
?…海外でも販売されてるって事なのかしら?
「そういう事言うなら、使ってるカードのテキストは頭に入れとかなきゃダメだよ。大会じゃ説明してくれないから、使用できるカードは覚えておかないとヒドイ目にあうぞ。最低ライン必要な単語だけでいいから覚えた方がいい」何やら子供達に説明している男性の横顔が見えた。
「しゅ…主任!?」
「え?…た、高瀬君…変なトコ見られちゃったなぁ」
苦笑いを浮かべるのは間違いなく林主任だ。
こんな風に主任って笑うんだ、笑顔なんか初めて見た気がする。
「主任?秀さん、そんな偉かったの?」
「当たり前だろ?」
「平日にココ来てるじゃんか」
「バカ!そういう事は言うんじゃない!」
会社では絶対に見る事の出来ない姿だ。
子供達にいいようにからかわれてる。なんだか微笑ましい姿だ。
「主任サボってたんですかぁ?」思わず子供達と同じように茶化していた。
「いやいや、遅めの昼休みをだな。…皆には内緒な」そう言うと、主任は悪戯が見つかった子供みたいに小さく微笑んだ。
「やっぱりサボってたんじゃんか!」
「お前等がメールで呼ぶんだろうが!」
「だからって、デッキ持参なんておかしいやんか。会社帰りじゃないんだからさ」
子供達と主任の大人げない言い合いが続く。
「主任って、そんなに頻繁に来てるの?」
「ほとんど毎日来てるよ。彼女いないんだから仕方ないよね、他にやる事ないみたいだしぃ」タカシと呼ばれた少年が答えてくれた。バカにしてるというより、仲がいい友達だから茶化してるといった感じだ。
「タカシ、お前が一番俺を呼び出すんじゃねぇか!」
「秀さんがヒマなの知ってるからだよ」
「俺はお前らが心配で心配で・・・」冗談言ってる主任なんて初めてみた。
「で、主任は休日も入り浸りなんですか」
「いや、今日は大きな大会がなかったから…高瀬君、会社の連中には内緒な。主任の威厳が…な?」
「秀さん、威厳なんてあるの?この前の大会、中学生に負けて真剣に悔しがってたやん」
「だから、そういう事は言うなって」照れたように笑う主任って…可愛い。思わず笑いがこみ上げてしまう。
「ほら見ろ、笑ってるじゃねぇか。ジュンも理解できたなら試合の続きやれよ」
「で、秀主任はお姉さんとデートなん?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ、高瀬君とはそんな関係じゃないよ」どう見ても、同世代の友達との会話だ。
会社で黙々と仕事してる姿からは想像もつかない。
「アレ?デートじゃないんですか?」
「な!何言って…高瀬君までこいつらと一緒になってからかうんじゃないよ」
本当に素の主任って可愛い。
「良かったらなんですけど、甥っ子の誕生日プレゼント選ぶの付き合ってもらえませんか?」
「甥っ子?いくつぐらいの子なんだい?」
「小学二年生なんですけど・・・」
「う~ん、もう少し学年が上ならこのカードゲームでいいと思うんだがなぁ」
「小二じゃ、ちょっと難しいよねぇ・・・でも、お姉さんが覚えて、じっくり教えてあげれば問題ないけどね♪」そう言ったのはタカシ君だった。
「簡単に覚えられるの?」主任がこんなに楽しそうに遊んでるのだ、興味がわかない方がおかしい。
「秀兄がいるから大丈夫だよ」タカシ君はそう言う。
「おいおい」
「主任教えてもらえますか?」迷惑かなと思いつつ聞いてみる。
「ここで会った事は内緒にしておいてくれよ。それが約束できるなら別にかまわないさ」よほど、遊んでる事を会社の人間には知られたくないらしい。
「わかりました、約束します」
「二人だけの秘密ってヤツだね」タカシ君はそう言うとニヤニヤと主任を見つめる。
「あのなぁ…こんな小僧ばっかなんだよ、ココ」困ったように笑うと、店員さんに何かを頼んでる。
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