第32話 料理……?

「――ただいまで~す……………………って、何ですか、これ!?」


 いつものように街へ行き、今日は特に用事もなかったので早めに帰ってこれました。

 しかし、帰ってくるといつもとは違う光景がありました。


 一言で言うと、惨状です。

 ええ。酷いです。言葉にするのも憚られる程に。

 物は散乱し、ホールには動物たちがひっくり返っていました。

 そして、ひっそりと残っているテーブルの上には得体の知れないものがありました。

 お皿の上に乗っているからおそらく料理なのでしょう。

 はっきり言って劇物以外の何物でもありません。


 ……ん? 料理?


 はっとした私は急いでキッチンに駆け込みました。

 キッチンはさらに酷い有様でした。

 こちらでもお料理道具が散乱、さらに周囲の壁には何かが飛び散っていました。

 明らかに何か強盗でもやってきたような様子でしたが、その上もっとおかしな光景を見てしまいました。


 なんとキッチンの中央に鼻歌を歌いながら、何かをかき混ぜ錬成でもしているお嬢様のお姿が。

 本来であれば私もそのお姿に興奮し、全力を持って撮影するところですが、今はそれどころではありません。

 一刻も早くお嬢様をお止めしなければなりません!!

 これ以上の被害者を生まないためにも!


「お、お嬢様! ストップです!」


「? あら、ミシェル。おかえりなさい♪」


 がはっ!

 お嬢様の満面の笑み。いただきました。

 ありがとうございますありがとうございます。


 って、そうじゃなくて!


「お嬢様、それ以上はいけません。今すぐおやめください」


「どうして? 今いいところなのよ?」


「いえ、良くありません。何をお作りしているのかわかりませんが良くないです」


「? 何って見てわかるじゃない。生クリームよ。今度はケーキを作ろうと思って」


 な、生クリーム、ですって!?

 生クリームの色は白です。純白なんです。

 何をどうしたら無色透明になるんですか。逆に教えてほしいです。


「い、いいえ、ダメです。お料理をする以前の問題です! 周りをご覧ください」


 私がそう言うと、お嬢様は一旦手を止め周囲を見渡します。

 しかし、おかしなところはないとでも言いたいのかキョトンとしたお顔を浮かべました。

 そのお顔もとても愛らしいのですが、ダメです。今日はお説教です。


「いいですか、お嬢様。まずお料理をする際は私が側にいるときとお約束しましたよね? これは重大な違反です。それにこんなに散らかして。お掃除するのも大変なんですよ。あと、お料理はおいしいものを作るのであって、劇物を製造するのではないのです」


「げ、劇物なんて作ってないわよっ! ちゃんと美味しいものを……。そ、それとミシェルがいると、いろいろとうるさいじゃない。たまには一人で作ってみたかったの!」


「当たり前です。お嬢様はお料理なんてしたことないのですから。まだお一人で作る許可は出していません。もっとちゃんとしたものを作れるようになってから言ってください」


 私が側で見ているのに、完成したものはいつも劇物になっているじゃないですか。

 むしろお料理しない方がいいじゃないかと思うほどです。

 それでもお嬢様がやりたいと言うので私がお教えしています。


「それにホールの惨状も見ましたか? 動物たちがひっくり返っているじゃないですか。一体何をお作りになられたのですか?」


「あれはパンケーキを作ったのよ」


 パ、パンケーキ……?

 私の知ってるパンケーキは丸く平たいのですが。

 何をどうしたら三角錐になるんでしょうか。

 ある意味才能を感じますね。


『あ~。ミシェル、おかえり~。待ってたわよ。早くあたしが食べられるものを作ってちょうだい。ユミのはちょっと遠慮したいわ~』


「ティア様。いらっしゃるのなら止めてくださいよ……」


『あたしが言っても聞かないのよね。ちゃんと説教しなさいよ。今も何が悪いのかわかってなさそうだから』


「わかっていま――って、お嬢様! ダメって言ったじゃないですか! 変な煙出てますから!」


「大丈夫よ。もう少しで完成だから」


「――――もうっ!! お説教です!! そこになおれ!!!!」


 私のお説教がどれくらいかかったのか、ご想像にお任せします。

 …………いつかちゃんとしたものが作れるといいですね、お嬢様。


 ちなみに、そのあとは私の指導の下オムライスを作りました。

 完成したものは――――無色透明でした。


 ……いや、だからどうしてそうなるの!!










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