第15話 冒険者の街 *王太子視点あり
やってまいりました、冒険者の街ガッフです。
冒険者の街と言うだけあって、すれ違う人たちのほとんどは冒険者のようですね。
そしてすれ違うたびに皆さんの視線を感じます。
私、何か変なものでもついているのでしょうか。
「いやいや。お嬢様のような可愛い子がいたら見るに決まってます。しかし、いけませんね。私のお嬢様をあのような目で見るとは。少し成敗してきます」
「ダメよ、ミシェル。それに私ではなくティアを見ていたのだと思うわ」
『人がいっぱいいるわ! 人間てこんなにたくさんいたのね。森の中ではわからなかったことだわ』
初めての街で少し興奮しているようです。周りの視線も感じないほど。
なんだか危ないのでしっかりと見ておかないといけませんね。
『主。あそこの屋台の肉はうまそうだ。僕は腹が減ったぞ』
「わかりました。ここまで運んでくれたお礼です。ミシェル」
「もう買ってあります。どうぞ、お嬢様も」
「あら、さすがね。ありがとう」
これはなんのお肉かしら。
ミシェルが食べやすいように串から外し、お皿に盛りつけてくれたものを観察します。
カイは気にすることなく一口で食べてしまったみたいです。
『何それ、美味しそうね。一口もらうわ』
「あ、こら。お行儀が悪いですよ。手で食べるなんてまったく……」
ティアの指を拭いてあげます。
タレのついた指を舐めようともしていました。はしたないですから、今度しっかりとマナーというものを教えて差し上げましょう。
「これはロックリザードの肉ですね。岩のようなごつごつした見た目のトカゲとは思えない柔らかさです。お嬢様、美味しいですよ」
「へー、それでは私も……」
確かに美味しいですね。冒険者の方が好みそう濃厚な味付けで、それでいてお肉との相性も良いです。
それにしても、お肉は久しぶりに食べましたね。お屋敷のお食事はパンと薄味のスープしかなかったものですから。
それに忙しくて食事をする時間もあまり。半年ぶりくらいかしら?
「大丈夫です。これからはこういうものもいつでもお召し上がりになれます。それに私がもっと美味しいものをお作りします」
「ありがとう。でも食べすぎては太ってしまうわ。それだけは注意してね」
「もちろんですとも! お嬢様の美貌を損なうような食事は作りません! よりお嬢様が輝くように毎日三食プラス間食の栄養バランスを考えベストな食事をお約束します。具体的に言うと……」
と、ミシェルが一人で話し始めたので少し放置しておきます。ええ、長くなるのでこういうのは触れない方がいいのです。
「ティアは何処か行きたいところはありますか?」
『そうねぇ……こうして人間の街の中に入れただけでいいのだけど、せっかくなら服とか見てみたいわ。ユミエラが着ているのとか可愛いし、あたしもおしゃれしてみたいわ』
「精霊王様もおしゃれに興味を持つのですね」
『そういうわけではないわよ。私はただユミエラと同じことがしたかっただけ……って、い、今のなし! そうじゃなくて! そ、そうよ。人間がどんな服を着ているのか参考にして、自分で作るの! あたしの服は魔力で作ってるからねっ!』
な、なんて愛らしいのでしょうか!
こんなお顔を真っ赤にしてあわあわしている姿はとても、とてもっ。
思わず抱きしめてしまいました。ぎゅー。
『ちょ、ちょっとっ。何してるのよ。いきなり抱き着くなんて』
おっと。いけません。こんな往来ですることではありませんでしたね。
でも仕方ないのです。ティアが私と同じことがしたいだなんて可愛いことをおっしゃったのはいけないのですから。
しかし、変に目立ってしまいました。ミシェルが吐血して倒れているので余計に。
とりあえず場所を移しましょう。
目的はお肉の購入ですが、せっかく街に来たのです。少しくらい楽しんでも構いませんよね。
ということで、まずは服屋さんに向かいましょう――。
◇◇◇
~~クィンサス王国某会議室~~
「さて、集まってもらったのは他でもない。皆も話は聞いていると思うが、聖域が消えたそうだ。原因は神獣が帰還しないこと。そこで諸君らには神獣を探してもらう。どんな些細な情報でもいい。必ず我が国の神獣を取り戻すのだ」
私がそう言うと、集まった貴族たちは渋い顔をして黙った。
せっかくタニアと婚約をしてこれからという時にこのような事をしている場合ではないのだ。
なんとしても早急に事態を収めなければならない。
「しかし、殿下。神獣を探すと申されましてもどこに行ったのかさえ分かりません。痕跡もないとなると不可能ではないでしょうか」
「だとしてもだ。我が国は神獣と共に繁栄してきた。神獣にとって居心地のいい国はここ以外にあるまい。故になんとしても戻ってきてもらわねばならぬ。それにこのような事が国民に知れ渡ってしまっては大変な事になるぞ」
クィンサス王国は建国から神獣と共にある。
故に国民は神獣がいることが当たり前のように思っている。そしてそれは長い歴史をかけ信仰のようなものになった。
それゆえ神獣が国を離れたなどと噂にでもなれば……。
「恐れながら、殿下」
「なんだ。落ち目のアマリリス公爵。何か?」
周りの貴族たちからくすくすと笑い声が上がる。
あの女を追放してからというもの、アマリリス公爵家は屋敷の維持もままならなくなるほど困窮しだした。
大方、あの女に仕事を押し付け豪遊でもしていたのだろう。私も人のことを言える立場ではないが、こ奴らよりはマシだ。
「実は娘がいなくなった日と神獣がいなくなった日が同じだということがわかったのです」
娘がいなくなったか。自分たちで追放しておいて何を……待て。今なんと。
「もしや、あの女と神獣が共にいると言いたいのか?」
「その可能性は大きいかと」
ふむ……。
もしそうならやることは一つだな。
「では、諸君らには人探しをしてもらおう。ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢の捜索。見つけたものには褒美をやろう」
そういうと皆一様にやる気を出す。
あの女がいなくなってからまだ一週間。まだ近くにいるはずだ。
いなくなってさえ私に迷惑をかけるとは傍迷惑な女だ。
必ず見つけ出して報いを与えてやる。必ずだ――。
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