第3話 カイ *別視点あり

 目まぐるしく移り変わる周囲の景色。とても速いです。

 私たちは、白虎に乗って目的地に向かっています。

 あの後、結局白虎を連れていくことにしました。神獣がいなくなることで国は混乱するのではないかと考えました。

 しかし、正直なところ私にはあまり関係のないことだと思いました。

 国民には少し罪悪感を感じましたが、皆さんお強いので何とかなるだろうと。

 貴族たちに関してはざまぁみろと思いました。彼らの自業自得ですね。

 ……少しはしたなかったですね。

 貴族のおバカさんたちも神獣が私についてくるなんて想像できないですね。

 致し方ないことですので、受け入れていただきましょう。


 白虎には「カイ」と名付けました。

 特に意味はありません。呼びやすいし、ぴったりだと思っただけです。

 ただ、神獣や魔物に名づけをすると「契」で結ばれるということになるみたいです。

 契とは、簡単にいえば主従関係になるということです。いろいろと何か力が得られるとかなんとか。

 別にいらないんですけどね。私は戦ったりしたくないですし。それに一つだけ誰にもない能力がありますし。今はまだお教えしませんけど。

 あと、寿命が延びるそうです。どのくらいかはわかりませんが、相手は神獣なのでかなり長いのではないでしょうか。

 そんなに長くても困るのですが、まあこの際良しとしましょう。


 そういえば、まだ私たちの目的地を話していませんでしたね。

 私たちは「聖魔の森」という場所に向かっています。

 王国から遠い東の地にあり、そこは人が訪れることがない聖地だとか。森の中心には神聖な大樹が聳え立っているとか。いろいろな噂があります。

 あくまでも噂なのでわかりませんが、人が来ないというのは魅力的ですね。極力面倒な人付き合いは避けたいと思っていたのです。

 そこでなら私の夢も叶うはずです。

 今はまだ内緒です。森に無事たどり着いたらお教えします。


「お嬢様。そろそろ国境です。そこを越えたら一旦休憩しましょう」


「わかったわ。カイ、国境を越えたら一回止まってね」


『……我は疲れておらぬが』


「カイ?」


『……わかったよ。まったく。僕は神獣なんだぞ。神獣をこき使うなんて』


「あら。私についてくるのなら当然、それなりに働いていただきます。たとえそれが神獣だとしても、ね」


 これは私のポリシーでもあります。

 労働には正当な対価を。当然ですね。頑張った人にはちゃんと報酬を与えるのです。

 ミシェルにもいつも言っていることです。しっかりと仕事をしてくれているのなら、私への態度なんて気にしなくてもいいと。

 なので、屋敷で二人きりの時のミシェルはいつもだらけていました。

 公爵家のおバカさんたちはそれをしなかったために、屋敷の大半の従業員から疎まれていました。

 おバカさんたちの代わりに私が正当な報酬を与えていましたが。感謝もしていましたよ。屋敷のお掃除とかいろいろ大変だったと思いますしね。

 今頃、従業員がいなくなって困っているのではないでしょうか。


「ここら辺でいいかしら。カイ、止まって」


 国境を越えた少し先の茂みで止まり、少し休憩です。それにもうお昼になりますし。

 夜に王都を出てから、約半日といったところかしら。順調どころじゃないですね

 かなり早いです。カイのおかげですね。


「もう国を出ることができるとは。このまま森までもすぐにつきそうですね」


「それは分からないわ。正確な位置は記されていないのだから。探しながら行くのよ」


『それなら問題ない。聖魔の森であれば我が把握している』


 ……。

 ……どうやら短い旅になりそうですね。


「とりあえずお昼ご飯作ります。少しお待ちくださいね」


 ミシェルがご飯を作っている間、私は暇ですね。

 カイの毛繕いをして待っていましょう。




 ◇◇◇




 *side 王太子


「――神獣がいないだと?」


「はっ。朝、食事を運んだ侍女からそう報告がありました。未だ姿が見えないと」


「大方、どこかに出かけているのだろう。国を出ることはないはずだからしばらくすればもどってくる。気にしないでお前は仕事に戻れ」


「はっ」


 いつまでたっても戻ってこないことを王太子はまだ知らない……。





 ◇◇◇



 *side 公爵家



「――今までお世話になりました。失礼します」


 侍女が書斎を出ていく。

 さっきから同じ言葉を聞いている現公爵。


「おい、今ので何人目だ?」


「三十五人目です」


 アマリリス公爵家の従業員の数は多く、本邸別邸それに公爵領の屋敷も合わせると百人近くいる。


「多すぎないか? いきなりどうしたというのだ」


「おそらくユミエラお嬢様がいなくなったことが原因でしょう。今日だけでこれですから、一週間後にはほとんど去っていることでしょう」


「どういうことだ! あやつが何かしたというのか!?」


「いえ。皆、ユミエラお嬢様をお慕いしておりましたから。勘当されたとなればこれも自明の理。

 ――では、私もお暇をいただきます。お世話になりました」


「待てっ!」


 公爵が声をかけるが、執事は書斎を出て行ってしまった。


「―――クソッッッッ!!!」


 公爵の叫びが静かな屋敷にむなしく響いた……。






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