LITTLE NIGHTMARES Ⅱ

 不気味で歪んだ悪夢のような世界をさまよい、不気味で歪んだ悪夢のような敵から逃げまわる、不気味で歪んだ悪夢のように美しいアクションアドベンチャーゲーム。

 プレイヤーが操るのは、モノという名前の少年。両眼の位置に穴を空けた紙袋をかぶっている。陰気で憂鬱なシリアルキラーみたいな風貌だが、かわいらしい。

 モノと行動を共にするのは、シックスという名前の少女。フードのついた黄色いレインコートをまとっている。廃墟に現れる幽霊みたいな風貌だが、かわいらしい。

 モノ、シックス、と名前を記したが、紹介文の受け売りである。ゲーム本編には台詞なんて一切ないので、名前も呼ばれない。無名の少年少女といってもいいくらいだ。

 黄色いレインコートが素敵なシックスは、前作の主人公でもある。今回は主人公のパートナー役だ。二人で助け合いながらステージのギミックを解いていく。手をつなぐこともできるから、なんとなく『ICO』という名作ゲームを思い出す。少年少女が手をつないで先へ進む、囚われた世界から脱出しようとする、難しすぎず簡単すぎない謎解きがある、独特な静謐感がある、などから『ICO』を連想したのだが、しかしもちろん『ICO』はこんなにダークではない。 なんといってもこちらはナイトメアだ。悪夢なのだ。死ぬこともたびたびある。

 陰影を繊細に表現したグラフィックは、前作の頃から十分に魅力的で完成されていたけれど、今作は学校や病院というホラー向きの場が丹念に描かれていて、巨大な船の中という舞台設定だった前作よりも、空間的な魅力が倍増している気がする。自分は二作目の方が好きかもしれない。といっても、前作をプレイしたのはだいぶ前なので、記憶がちょっと曖昧だ。また遊びなおすべきかもしれない。とはいえ、いまは二作目に浸りたい。

 このゲームをプレイしていて特に感動したところが二つあって、そのひとつはピアノが出てくる場面だ。このゲームの世界は、出てくる家具や扉が主人公たちの背丈よりもだいぶ大きめなので、巨人の国に迷いこんだような心細さがある。ピアノも大柄だ。そんなピアノを足場として利用する場面があるのだが、鍵盤を踏むと、ちゃんと音が鳴ってくれるのだ。思わずはしゃいで、モノに鍵盤を走りまわらさせてしまった。

 もうひとつ感動したのは、雨の表現だ。モノとシックスが連れ添って、雨の降りしきる街を歩く。そこかしこに廃墟。しとしとと水の音。弾ける水滴、広がる波紋。見渡すかぎり、仄暗い青。冷たい風の心地さえ伝わってくる。その空気感だけで、このゲームを遊んでよかったと、こころの底から思えた。

 世界に佇むことができる、立ち止まることができる、ぼんやりすることができる。そんなところが、ゲームの素晴らしい美点であり、愛すべき部分だと思う。クリアを目指して進むのは一旦やめて、しばらくぼんやりと雨を眺めていた。放置されたままの少年少女は、ずぶ濡れでちょっとかわいそうだったけど、こんな綺麗な悪夢に永遠に佇めるなら、ゲームキャラクターというのも悪くない一生じゃないかと思える。

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