THE スナイパー

 SIMPLE1500シリーズの一作。SIMPLEシリーズといえば、「THE ○○」というタイトルを冠して廉価で発売された作品群のことだ。ゲーム好きなら、一度は触れたことがあるのではないか。

 「THE 麻雀」、「THE 推理」、「THE 鬼ごっこ」などなど、多彩なラインナップであるから、どの作品を選ぶかでその人の性格がある程度わかるかもしれない。SIMPLEシリーズ占い。「THE スナイパー」を選ぶ人間は、きっと陰険で暗いやつに違いない。自分がそうだから間違いない。

 そんな偏見は置いておいて。「THE スナイパー」。タイトル通り、標的を狙撃するゲームである。タイトルに偽りなし。偽りがなさすぎるくらいだ。やることは本当にそれだけなのだから。

 プレイヤーが操作できる部分はそれだけだが、しかしそのシークエンスを挟んで長々とハードボイルドを模したようなカットシーンが挿入される。主人公の声を演じているのは、ベテラン声優の池田秀一氏。このキャスティングで予算を使いきったなどともささやかれている熱演だ。目を閉じてその渋い声とジャズ調の音楽に耳を澄ませていると、ずいぶん洒落たゲームを買ってしまったのかと錯覚しそうになるが、目を開ければ視界に入るのは貧寒としたポリゴンなので安堵する。そうだった、自分が購入したのはお洒落なドラマなどではなく「THE スナイパー」だった、と現実を再認識できる。

 もともと連続ドラマのような雰囲気を目指して作られたようなので、ひとつのステージをクリアするごとに、なんと次回予告まである。黒バックの背景にでかでかとワイングラスが映り、池田秀一氏の声で定番の決め台詞のように「君は闇の向こうに何が見える?」などと語りかけられると、やはりお洒落なドラマか何かと間違えたのだろうかと不安になるが、自分で操作できるパートに差し掛かると、やはりこれは「THE スナイパー」なのだとほっとする。

 さて、その肝心のゲーム部分。始まると主人公はすでに高層ビルの屋上にいる。携帯電話による指示を聞きながら(やけに棒読みな女性の声を聞きながら)、ライフルのスコープを覗いて標的を探す。びゅうう、びゅうう、という高層に特有の風音が孤独感を強める。それ以外の音はない。ついでに街にも人気はない。標的と、その周りの取巻きくらいしかいない。ゴーストタウンのように寂しいポリゴンの凍りついた街並み。世界が終わった後のようだ。

 神経を研ぎ澄まして標的を見つけ出すと(わりと簡単に見つかる)、あとは引き金を引く(ボタンを押す)だけだ。狙いをつけて、冷酷な意志を込めて撃つ。目視可能なくらいに遅い銃弾が標的に向かって飛んでいく。見事撃ち抜くと、「HIT!!」という表示。そして、「今日のハイライトをもう一度!」と言わんばかりに、射殺された標的の倒れるリプレイシーンが様々な角度から三度も繰り返し見せつけられる。くどいくらいだ。水増し演出のかがみである。

 実質、一、二分で狙撃パートは終わる。ドラマとドラマで狙撃を挟んでいるわけだが、短すぎて存在感が稀薄だ。すべてのステージをクリアしても、一時間ほどである。「本当にシンプルだ……」とあまりの簡素さに絶句した。

 ところでスナイパーというのはゲームプレイヤーに似ていないだろうか。自分は安全な場所にいながら、敵を覗き、冷徹に殺す。残忍な傍観者であるプレイヤーにふさわしい行為だ。ヒッチコックの「裏窓」という映画は、「映画の観客だって覗き魔にすぎない」と暗に語っているような作品だったが、狙撃を主題にしたゲームもプレイヤーを遠まわしに批評しているのではないか。ゲームがシンプルすぎるとそんなことまで考えてしまう。

 まあ、実際のスナイパーは決して安全というわけでもなく、戦場の狙撃兵はとても憎まれるから、捕まるとなぶり殺しにされるらしいし、ゲームプレイヤーだって実生活では何かに操られているような不自由さに囚われているわけだから、駒のように人を操って駒のような人を殺しても、そんなに気に病むことはないのかもしれない。自分だって同じようなものだから。「THE 人生」というゲームもSIMPLEシリーズにあるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます