EDONO牙

 西暦二千五十年の東京は、テロリズムの横行する魔都であった。警視庁の擁する対テロ特殊部隊「エドノキバ隊」の一員である主人公は、パワードスーツを身にまとい、ビームサーベルを手にして、強奪された新型パワードスーツの行方を追いながら、立ち塞がる悪を斬り伏せていく。そんな和洋折衷SF強制横スクロールアクションゲーム。

 なんといってもタイトルだ。「EDONO牙」である。ローマ字と漢字の交錯するこの字面。絶妙にダサい。いや、カッコいい。断じてダサくない。

 もしもダサいのだとしたら、それはなぜだろう。「江戸」という固有名詞だけではなく、「の」という助詞までローマ字表記にしてしまったからだろうか。しかし、「EDOの牙」だとそれはそれでダサい。やっぱり「EDONO牙」はカッコいい。「平安京エイリアン」がアリなら、「EDONO牙」も全然アリである。

 タイトル画面が映ると、「エドノキバッ」とくぐもった声が聞こえる。妙に片言なタイトルコール。すでにワクワクする。

 ステージが始まるといきなり主人公が道路を疾走している。右側に向かって。強制スクロールなので後戻りはできない。流れていく街景。急かすようなテンポの音楽。脇目もふらず疾走するエドノキバ。快調な幕開けだ。

 現れる敵たちもパワードスーツを身にまとっている。メカメカしい外見の雑魚たちが、次々とエドノキバに並走する。バイクに乗っているやつもいるが、走りと同じようなスピードである。乗る意味あるのか。突然、パワードスーツなどいらんと言わんばかりに、上裸で筋肉を誇示した男がバイクに乗ってやってくる。強敵の予感に戦慄が走る。しかしバイクを破壊すると、すぐにフェードアウト。何しに来たのか謎である。

 この調子で語っているときりがないが、「EDONO牙」でもっとも印象に残るのは、中盤に襲いかかってくるボスである。なんと、観音さまなのだ。周りに小型のミニ観音たちをくるくる従えた巨大観音さまに、空中戦を仕掛けなければならない。だれが考えついたのだろう。ビームサーベルでぺちぺち観音さまを叩いていると、「自分はいったい何をやっているのだろう」と実存的不安に駆られるが、これもある種の修行なのかもしれない。だいたい、こちらをビームで攻撃してくる観音さまなんて、どう考えても偽者に決まっている。偽預言者に心せよ、とは聖書の言だが、偽観音にも注意しなければならないのだ。この罰あたりなボス戦の教訓はそんなところだ。倒すと観音さまは独楽のようにくるくる回転しながら、ド派手な爆風と共に消滅する。廃仏毀釈のような悲劇が二千五十年にも起こるのだろうか。

 そんなふうに、珍妙な味わいのある「EDONO牙」。西暦二千五十年といえば、三十年後だ。そのとき自分は生きているだろうか。たぶん死んでいる気がするが、もし生きていたら、「EDONO牙」のことを少しくらいは思い出してあげたい。どう考えてもゲーム史に残るような作品ではないが、無名の個人と同じように、埋もれたゲームにも思い出される価値はあるのだ。

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