第57話 抜け道を探す 2

「殿下この近くで、王家所有の人気ひとけのない屋敷はありますか?」

 この広大な学院の抜け道を探すのは至難の業だ。

 ならば、入り口を探すより出口を探した方が早い。


「出口を見つけるという事か」

 なかなか頭が回るな。


「そうです。ここから東の王宮に行くにも、西に行くにも大きな川を越えなくてはなりません。抜け道は地下通路でしょうから、川の下を通すのは難しい、ならば、抜け道は川の内側にある王家所有の屋敷か、港に抜けるか、城壁の外に抜けるか、教会に出るかです」

 第二王子の後ろに控えている従者が心当たりがあるのか、はっと顔を上げる。


「魔術院はどうでしょう? 学院の2キロほど行ったところに一つ小さな支部があります。そこから魔術院のある砦には民家も少なく馬車でも人目につかずに運び込めます」

 それは限りなく怪しい。


「他に思い当たる場所は?」

「港近くに屋敷がある。確か、そこは王宮からも地下道で抜け道があると聞いたことがある。もしも城が落ちた場合、王族を逃がすための屋敷だ。それにこの近くの教会は兄上の息のかかった司祭がいたはず」

 なるほど、どこもそれぞれ結構距離があるな。


「では、手分けすると致しましょう」

「わかった。ただ、申し訳ないが私の一番の目的はアリスを探すことではない。協力できる範囲で手伝おう」

 第二王子は申し訳ないと言いつつも、はっきりと言い切った。


「そんな、それはどういう意味ですか?」

 第二王子が全面的に協力してくれることを疑っていなかったのだろう。アリシアがいつになく声を荒げる。


「アリシア嬢、すまない。私もアリスのことは心配だ。でも、あの瘴気が兄とソルトの仕業なのか一刻も早く確かめて、事と次第によっては何らかの手を打たなくては」


「……わかりました」


「それに兄の真の目的が何なのかわからないのも気になる。薔薇を手に入れるだけでこれだけのことをするとは考えにくい。もっと違う勝算があるのかもしれない」

 第二王子は、やはり鋭いな。


「最悪、あの瘴気をイスラの街に故意に送るのが目的だとしたら?」

 俺はあえて可能性を口にしてみた。

 殿下は無言で眉間のしわを深く刻み、こぶしを強く握った。

 本人も予想はついていたはずだが、口に出さなかったのだろう。

 だが、希望は重要な局面で判断を鈍らす。きちんと覚悟を決めておいてもらわなくては。


 第一王子は、間違いなく転生者だ。

 リリィが言っていたシナリオとは違うので、未来がすべてわかっているわけではないようだが、大筋は知っているのだろう。だが、所詮はゲームの世界。シナリオが分かっているのはあと数年だ、その間に邪魔者を消したいと焦っているのかもしれない。


「殿下は教会と城にアリスが監禁されていないか、確認お願いします。港には私どもの影を行かせ、私とアリシアは魔術院の砦に向かいます」

 アリスのことだ簡単に連れていかれるはずがない。自分からついて行ったか、一人で乗り込んだのかわからないが、連絡がないのはおかしい。魔力を封じられているという事も考えておかなくてはならない。


「わかった、先に城に寄り状況を王に報告する。それから教会へ行き浄化ができるものを集めよう。それまで私の影をつけよう」


「いえ、その必要はありません。どちらかというと危険なのは殿下の方かと。第一王子がこのような強硬手段をとるという事は、皇太子という立場をはっきりとさせたいのでしょう。ならば殿下の身の安全が一番です」

 従者も頷き、警護を連れて行くように殿下に言う。


「ただ、一つお願いが、リリィ様が魔力不足を起こし休んでおります。動かせる状態か確認して、大丈夫そうなら殿下の力で魔力を補充してもらいたいのです。回復できればかなりの戦力になります」

 俺は何処で、何故魔力不足になったのかは話がややこしくなりそうなので言わなかった。


「わかった。連絡をくれ」

 アリシアはうなずき、殿下に小さな通話石を渡した。


 ***


「第一王子の目的は殿下の暗殺だと思う?」

 俺とアリシアは、魔術省の支部に向かっていた。


「十中八九な、あの瘴気はどう見ても魔界や森を破壊するためじゃなくて、イスラの国に送り込むためだろう」

 第二王子一人を暗殺するには犠牲が甚大だが、瘴気で命を落としても、第一王子の罪を暴くのは難しい。


「殿下は大丈夫かしら?」


「多分な。教会にも城にも浄化魔法を使える人間が大勢確保されているはずだ、魔王にも瘴気を何とかイスラに流れ込まないように言っとくから」

 俺は魔王がアリスに渡したルビーをポケットから出した。


「アランだ。至急の連絡だ出てくれ」

 しばしの間があり、不機嫌な魔王の声が聞こえる。


「なんだ、俺は忙しい。だいたいそれはアリスにやったものだ、早くアリスに返せ」

「残念だが、今アリスと連絡が取れない。今回は誰かさんの時みたく、自分からついて行ったんじゃなさそうだ。そちらに裏切り者がいるらしいぞ」

「何だと」

 魔王の声にはあからさまな怒りがにじんでいる。

 普通の人間なら震えあがって声も出ないだろう。


「アリスの浄化の力といい、瘴気のことといい、明らかにそちらから情報が洩れている」

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