第30話 プロポーズされました

「俺と結婚しろと言ったんだ」

 ルークはもう一度言った。

 聞き間違いではないらしい。


「あの、結婚の概念が違うのかもしれませんが、どう言った意味ですか?」

「何をいっているんだお前は、結婚とは番になると言う事だろ。お前はいくつなんだ?」

 呆れたように言って、綺麗な深紅の髪をかきあげた。

 気だるさが合間って色気が凄い。


「お言葉ですが、私の名前も知らない人と結婚する気はないです。それに私は愛し合って結婚しますから」

 ふんっと、睨んでやる。


「これは失礼した。私はルーク フランツだ。お名前をお聞きしても?」

 ルークは、くっくっくと笑って名乗った。

 馬鹿にしているのが一目でわかる。


「アリスよ」

 ふてくされて名乗ると、ルークは「アリスか」と小さく呟いた。


「ではアリス改めて、俺と結婚してくれ」

 殴られたいのこいつ。

 それとも話を聞いてないただの馬鹿?


「私はあなたとは結婚しません。それより営業許可書を頂戴」


「俺と結婚すれば、商売なんかしなくても、この国でやりたい放題だぞ。宝石もドレスも何でも買ってやる。」

 馬鹿なんだなこいつ。


「じゃあさようなら」

 こんな奴と話していても無駄だ。

 私は転移しようと大きく息を吸った。


「待った。この話は後日。営業許可書をやろう」

 ルークは仕方ないとばかりに、ため息をついた。

 最初から素直にくれたらいいのよ。


「今税務官を呼ぶ。いったい人間が何の商売をするんだ?」

 ちょっと興味があるのか、首を傾けると深紅の髪がサラサラと肩を滑る。


「まあ、はじめは何でも屋みたいなものからで、その後はじっくり考えるから。それにしても税務官が営業許可書をくれるの?」


「ああ、ここでは税金さえ支払ってもらえば何でも可だ」

 へーさすが魔界。


「何でも屋か。じゃあ俺が初仕事をやろう」

 だから、なんで上から目線。

 いや、そっか魔王様だっけ。でもなんだか凄くムカつくのは何故だろう。


「一応聞きます」

「また、瘴気が発生したら浄化してくれ」

「……それって、結婚を申し込んだ理由と関係ありますか?」

「そうだが」 

 きょとんとして、ルークは返事をした。

 私は左手で左目を押さえて思った。

 馬鹿で、しかも殴られたいんだなこいつ。


「持ち帰って相談して返事します」

「あの薔薇園にいた男とか? あいつが好きなやつか?」


 はぁ? 

 なんでレオン様?


 レオン様……。


「あっ!! 大変。忘れてた!!」

 頭を抱えてしゃがみ込む。

 まずい! まずい! まずい!!


「早く営業許可書」

 がばっと立ち上がり叫ぶ。


「ああ」

 ルークは私の気迫に押され、税務官のところまで転移した。


「何を慌ててるんだ」

 書類ができるまで、座って待っているのだが、私は気が気ではない。


「慌てるにきまってるでしょ! ここに来た状況を考えてみなさいよ」

 こいつが薔薇園に表れて、咄嗟に転移について来ちゃったけど、レオン様からしたら、目の前で攫われたのも一緒。今頃心配して、アリシアやライトに報告に行ったはず。


 あ……絶対にアランに怒られる。


 私はうなだれて、テーブルに突っ伏する。行儀が悪いが、そんなこと構っていられない。

 アランになんて言い訳しよう。


「あ!! 薔薇! 薔薇を返して。あとダイヤの力も教えて」

 せめて薔薇を取り返さないと。

 ああ、そうだ。あのお墓のことも聞かないと。


「せわしない奴だな。薔薇はもともと俺のものだといっただろ」


 えっ! ちょっと待って!?


「あれ、あなたが作ったのなの?」

 どういう事?

 あれを作ったのは魔法使いでしょ?

 なんで魔王なのよ?


 いや待って、こいつが薔薇を盗んだ時なんて言ったっけ。


『俺の力になる。あるべき場所に戻す』って感じの事だ。自分で創ったとは言ってないか。


「急いでるんだろ。そんなことどうでもいいだろ」

「いえ、よくない。ここまで来たけど、結局何もわかってないし」

 このまま手ぶらで帰ったら、絶対お説教だぁ。


「まあ、落ち着け。ほらできたみたいだぞ。話が長くなるから、また今度な」

 悶絶する私にルークは営業許可書をひらひらさせた。

 それを奪い取り、じっくりと読む。

 どんな時でも文章は隅から隅まで読むことがクセなのだ。


「でも、手ぶらで帰れない」

 こいつはアランの恐ろしさを知らない。

 こんな許可書一枚では納得してもらえない。


「じゃ、ほらこれをやる」

 ルークは手のひらに、真っ赤な宝石を差し出した。

 ダイヤよりかなり小さいが、すごく高そうだ。


「ルビーの通話石だ、ピアスにでもしろ」

「一つでどうやってピアス作るのよ」

「いらないのか」

「いる」

 これだけの色の濃いルビーだ、めちゃめちゃ高価だ。

 意地汚く宝石をもらったせいで、アランからさらに怒られるのだが、私はこの時、アリシアにまた一つ宝石を見せられると、ちょっと機嫌をよくした。


「じゃあ、また」

 とりあえず、薔薇園に転移した。

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