第29話 結界の城 2

 城の中は、人影もなくひっそりとしていた。

 大きな広間を降り、天井まで届きそうな扉を開けると、更に長い階段があり、その先の城門を抜けると――そこには森ではなく城下町が広がっていた。


「何で町が?」

 その呟きに誰も答えてはくれない。

 いいけど別に。ここに来て、ことごとく無視されてるし。

 それでもこれだけは聞きたい。


「歩いていくの? 馬車は無いの?」

 いや、だってね、足の長さが違うのよ。私の一歩は二人の三歩位だ、どう考えても不公平でしょ。


「馬は瘴気に弱い」

 短く答えると、ルークはまた歩き出す。


「おんぶしましょうか?」

 見かねたエルフが声をかけてくれる。

 そこは、お姫様だっこじゃないの?

 と思ったが、本当にされたら私が耐えられないし、おんぶも恥ずかしいので丁重にお断りする。


 30分も歩いた(実質小走り)頃、黒い霧が立ち込め、いかつい魔族や獣族、エルフが霧が拡散しないように必死に結界を張っていた。


 ここまで町並みも、綺麗に石畳がひかれ、こざっぱりした店が並ぶ。

 これなら商売できるかも。


「おい、浄化できそうか?」

「は?」

「浄化はできそうか? って聞いてる」

 ルークは私に言っているようだった。

「私が?」

「他に誰がいる。魔族は浄化魔法は使えない」

 そうなの?

 嫌な予感。

 これってもしかして、聖女のイベントだったんじゃない?

 ララ様かリリィ様を呼んでくる?


「早くしろ!」


 えっ。でもフラグがたっちゃうのは遠慮したい。

 私は、エルフに助けを求めるように視線をやる。


「私は浄化は不得意です」

 きっぱり言われる。

 迷っているうちに、結界を張っていた魔族が次々脱落していく。


 ああ、もう仕方ない!

 私は、本当に仕方なく瘴気の前で、手を出して「浄化」と叫んだ。

 学院のグランドくらいに、広がっていた瘴気は、数分とかからず音もなく消えていった。


「地味ですね。光魔法ってもっとこう眩しくてキラキラしているのかと……」

 エルフが呟く。

 地味って言うな。

 効率的って言ってほしい。


「亀裂はふさいだのか?」

 ルークが横から口を挟む。


「そこまで私がするの?」

「当然だろう、このままならまた出てくるだろ」

 分かりきったきとを聞くな。と言わんばかりに睨まれる。


「何で私が! ダイヤ分の働きはしたでしょ。だいたい何様のつもり?」

 ビシッといってやった!

 ふん!


 何でも思い通りになると思うなよ。


「ご存じだと思っておりましたが、こちらは第三の魔王で、ルーク様でございます」

 うやうやしく、エルフは言った。

 やっぱり、魔王様でしたか。


「あのダイヤの価値を知らないのか? 一生かかってもお前には払えきれん」

 どや顔を決めて、ルークは片手で、シッシと亀裂へおいやろうとした。


 悔しい!


「亀裂はふさぐから、ここでの商売の許可を頂戴」

 そうだ、転んでもただじゃ起きないのが商人だし!


「商売? 人間のお前がか?」

 鼻でルークは笑う。


「いいだろう、亀裂をふさいだら、商売を許可しよう」


「ルーク様!」

 エルフは異義を言いたそうだったが、ルークが楽しそうなのを見て、何も言わなかった。

 私は瘴気が吹き出ていたところまで行くと、シールドで亀裂をふさいだ。


「嬢ちゃんすごいな、ありがとよ」

 何人かの魔族が感心するように私にお礼をいってくれた。


 よしよし、つかみはいい感じ。


「おい、ついてこい城に戻る」

 ルークはまた、歩いて帰えるらしい。

 ちょっと勘弁してほしい。


「転移して帰らないの?」

 転移の着地地点は、人混みでは無理だ。大抵は人が入れない個室を着地地点にしている。行きは無理でも、帰りならもといた部屋に帰ればいいので転移可能だ。


「あ、私なら大丈夫です。ゆっくり帰りますから」

 エルフは慌ててルークと私を見る。

 どうやら転移は苦手らしい。


「そうか、じゃあ今度はお前が俺を一緒に転移してみろ」

 全く図々しい。

 私とルークは一瞬でもといた部屋に戻ってきていた。


「なかなか安定している。全く無駄のない魔方陣だ。完璧と言ってもいい」

 絶賛なのは嬉しいけど、魔法馬鹿はガリレだけで十分。


「ありがとうございます」

 いまさら遅いかもしれないが、敬語で話そう。


「いまさら遅い、敬語はいらない」

 そうでうよね。


「それにしても、お城も驚いたけど、城下町にも驚いた。あれは、魔界と呼ばれる空間?」

「まあな」

「……」

 説明なしかい?


「瘴気はいつから?」

「半年くらい前かな、もともと魔の森には薄い瘴気が漂ってはいたが、ここまで濃いものはなかった。城下にまで出て来るようになるとは、何かしらの意図を感じるな」

 そうなんだ。

 どこにでも陰謀みたいなものはあるんだな。


「瘴気のもとは、わかっているんですか?」


「ああ、森にある古いダンジョンからだ。誰かが許可なく入り荒らしているのだろう。十中八九、上位の魔族の仕業だな」

 巻き込まれないようにしないと。


「いつもは瘴気が出たらどうしているの?」


「いつもは小さいものなら、エルフや獣族が浄化するな。今日みたいな大きなものだと、瘴気ごと俺が転送して消す」

 なんと、そりゃ凄い魔力だ。


「だが、それだと瘴気そのものがなくなるわけじゃないからな。森が瘴気だらけになる。森には浄化作用もあるが、それでも多く魔獣が飲み込まれる」

 それは大ごとだな。

 見ると、ルークは何やら考え込んでいる。


「よし、お前俺と結婚しろ」


「はぁ!?」

 何を言い出すんだ、こいつは。

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