第19話 魔法学院 秘密の花園 2

「これは頂けません」

 こんなでっかいダイヤ、受け取ったら最後、恐ろしいフラグが立つに決まっている。


「絶対もらえません」

 もう一度、言ってダイヤを押し返す。


「それは無理だよ。これは私があげるんじゃない、薔薇がアリスにもらって欲しいんだよ」

 そんな訳あるかい!


「だってそうだろ、私があげたのは花びらだ。返すなら花びらにして欲しいね」

 チェ、この腹黒王子!

 ちょっとしか一緒にいないが、この王子様は見た目通りの、優しく誠実なだけの、王子ではないとわかった。

 お腹のなかは真っ黒くろだ!

 ああ、何でこんなのと関わっちゃたんだろう――悔やんでも悔やみきれない。


「失礼なこと考えているでしょう」

 爽やかに笑って、王子は出口へと向かう。

 仕方なく、とぼとぼと後に続いた。


「今日はいいものを見せてもらったよ。百年以上この花園は誰も立ち入っていなかったんだ。存在すら疑われていた。ガラスの薔薇のことも、すべておとぎ話かと思ったけど、本当だったようだね」

 そりゃ、そうでしょう。この世界自体おとぎ話の世界みたいなものだ、はっきり言って、何が起きても不思議じゃない。

 いや、むしろ何か起きるのが当然なんだから。


「私がこの薔薇園をどうして見つけたか知りたい?」

 ブンブンと首を横にふる。

 意味ありげに聞く第二王子は、悪巧みを思い付いた子供のようだった。

 これ以上関わりたくない。


「じゃ、この次話すね」

 いえ、結構ですとも言えず、目をそらす。


「聞いておいた方がいいよ、その宝石の力もね」

 私が手に握りしめていたダイヤを指差して、ウインクした。

 凄い。今、パチンって音した時、周りに花散ったよ!

 魅了魔法じゃないよね!

 イケメンのウインク半端じゃない!

 感動したわぁ。


 でも、やっぱりこれフラグだよねどうしよう。

 第二王子を見ると、何故か肩を小刻みに震わせて、笑いを堪えているようだった。

 まったく、この腹黒!!

 脳内で、どうやってフラグを回避するか考えているとシールドの入り口に着いていた。

 第二王子は振り返り、また面倒な事を言う。


「入り口の魔法が少し綻びているみたいなんだけど、アリス直せる?」

「……たぶん」

「じゃ、よろしく頼むよ。できれば定期的に入り口だけじゃなく、全体も点検して欲しい」


「え?」

 定期的に?

 全体も?


「そうそう、いくら時間がほぼ止まっているとはいえ、やっぱり手入れは必要だろ。僕がいないときは、アリスが入れてやってね」

「私が!」


「うん、だって私がいつもこの辺りうろうろしていたら目立つだろ。一様ここの存在は秘密だから」

 私の声にならない抗議を無視して、「じゃ、頼んだよ」と、ヒラヒラと手を振った。

「あの入学式は出ないのですか?」


「うん? 出るよ。でも、ちょっと昼寝をしてからね。時が止まってるって、便利だね」

 今日は諦めよう。

 私はため息をついて、外に出た。


 微かに薔薇の香りがする。

 ごめんね、ヒロインさん。大事なイベント奪っちゃって。

 この埋め合わせはいつかかならず。

 心に誓って、シールドと隠蔽魔法の強化をした。


 教室に戻るとまだ担任は来ていないようだったが、リリィ様は窓際の席に座っている。そして、その横にはマリー様、後ろにはヒロインさんが座っていた。

 ヒロインさん同じクラスかぁ。

 まあ、第二王子がいるのだから当然か、邪魔しないようにしないと。


 それにしても、王子様にヒロイン二人、悪役令嬢、さらに元悪役令嬢までいるクラスって濃すぎ。

 波乱の予感しかしない。


 因縁をつけてきた令嬢に、スクールリボンを渡すと、怯えたように受け取った。

 私のいない間に何があったかはもう聞かないでおこう。


「アリス、おかえりなさい」

「ただいま」

「なんだか疲れてない? 何かあった?」

「話せば長くなるから、あとでじっくり聞いて」

「わかった。見て見て」

 アリシアは嬉しそうに、あらたなヒロインさんを指差した。

 私は二度頷く。


「知ってる、さっき会った」

「やっぱりヒロインよね? 髪ピンクじゃないけど、瞳はピンクだし、あの何とも守って上げたくなる感じはそうよね! 」

「期待を裏切る答えができなくて悲しい」

 アリシアは「何よそれ」と笑いながら私の頭をなぜた。


 それから、絶対攻略対象でしょうと言うがっしりタイプイケメンの担任が現れ、入学式では先生紹介で、紫色の髪と瞳をした、やっぱりねと言う感じのインテリ系イケメンのソルトを見た。

 一日が終わる頃には、イケメンを見すぎてお腹いっぱいだった。


「今日は堪能したわ~ どれがいいかしら?」

 ケーキでも選んでるかのように、アリシアは軽く言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る