第9章 奪還編
地獄の105丁目 煉獄第一層 ~傲慢~
気が付けば地獄と天界の境、煉獄に着いていた。何者でもない俺が天界へアクセスする手段はたった一つ。地獄から煉獄を越えて天界に辿り着くのみだ。デボラもここを通って天界へ行っていたらしいが、今は職員用ルートは封鎖され、フリーパス状態は無くなっていた。となると亡者が溢れかえる通常ルートをひた走るのみだが――。
「キーチローさん!」
煉獄の入り口に立っていたのはベル。直立姿勢で待っていたのか、駆け寄る際に少し足がもつれる。
「ここで待っていれば会えると思っていました! 急に通話を終了して!」
「ごめん、気が付いたら飛び出してた。他のみんなへの連絡は?」
「先ほど済ませました。その際にキーチローさんが飛び出していったと」
う、頭に血が上ったとはいえ後先考えない行動だった。ここにベルがいてくれて良かった。
「悪いけど状況を説明してくれる?」
「はい。デボラ様と私は査察における曇天側の不備と内部の説明を関係各所にして回っていたのですが……」
ベルが言うには天界を訪問中に突然、曇天の一味に囲まれたそうだ。その中にはあのクロードの姿も。
「デボラ様は『心配ない、すぐ戻る』とおっしゃっていたのですが、その後拘束されて天獄に送致されたと聞いて」
ベルの手が震えている。
「心配ない。デボラは俺が取り戻す」
「キーチローさん」
「今回の件、曇天より上は関わっていそうなの?」
「詳しくは分かりませんが、私達の見解では曇天の独断専行ではないかと」
「なら話は早い」
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「待ってください! 私も行きます!」
「荒事になると思うけど」
「こうなったら構いません! それに私には少々、裏ワザがあります」
そういう事なら、まあいいか……。
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃちるぉぉぉぉぉぉおおおおおおさああああああああん!!」
ん? ま、まさかこの声は……。
「でっ、でっ!! んデボッ!! デボラ様がっ!!」
やべえ、目が血走ってる。
「デボラ様が!! (私以外に)捕まったと言うのは!! 本当ですか!!!」
「よ、妖子さん。ちょっと落ち着いて」
さっきまで取り乱していた俺の百倍取り乱している。やばい。刃物持ってる。
「おのれェ……。我が尻尾より変化させた九尾の鎌と九尾の小太刀の錆にしてくれるぅぅぅ」
これは一緒に連れて行かないと俺の命がヤバそうだ。
「こ、今回はこの三人でデボラを救出しに向かおう」
「はい、デボラ様を敬愛するこの三名で!」
「という事は我々は“デボラブ・1000%”を名乗ればいいんですね!?」
いや、良くない。なんだその恥ずかしいパーティー名は。
「ともかく急ぎましょう」
かくして、怒り心頭の三人で徒党を組み、煉獄を抜けて天界を目指すことになったのである。
「この先に煉獄への入り口があります。七つの層を経て天界へと至るのですが……」
「曇天が邪魔をしてるってわけね」
「ええ、その通りです。各層に刺客を送り込んで、通り抜けるものを監視しています」
「うぬぅぅぅぅ! 許すまじ!」
結構な組織力だな。本当に独断専行なんだろうか。どちらにせよ吐かせてでも先へ進むが。
「煉獄は人間として生きていたころの七つの大罪を清めて行く浄罪の山です。第一層は傲慢。驕り高ぶり、人を見下していたものが裁かれます」
うーん、自覚は無いけど気を付けよう。
「さぁ、見えてきましたよ!」
「えーと、敵の姿も見えてきたようだ」
煉獄の山を登り始めてしばし、開けた場所に出た。山の傾斜に沿って数々の傲慢に依る悲惨な最期をかたどった彫像が並んでおり、その彫像に挟まれた道では人々が岩を背負って歩いていた。
「ここは生前の傲慢の罪の重さを背負って登りきるまで何度でも登る羽目になる。岩に潰されるたび、多少岩は軽くなるがな!」
傾斜の手前に立っている腕組みをしたその男が言う通り広くなった道を何人もの人間が何度も力尽きながら進んでいた。
「お前が、安楽 喜一郎だな! 俺は曇天のボルクだ。貴様らのような下等な人間や下賤な魔族が天の意思に逆らうなど! 笑止!!」
傲慢が服を着て立っているのだろうか。思わず吹き出しそうになるくらいブーメランが刺さっている。
「天界の奴ってみんなこうなのか? ベル」
「まぁ、変にエリート意識に凝り固まった奴は居ますね。特に曇天の連中は顕著なようですが」
「さぁ! さっさと引き返すか、俺に叩きのめされるか選べ!」
俺は、その男の上に魔法で岩を落としてみた。案外上手くいった。
「くっ……ぬおおおおっ! 卑怯な! 無言で攻撃を加えてくるとは!」
「一応、俺の主観で傲慢な心を感じるように設定しておいた」
「何が傲慢か! このような岩! 軽すぎて物の数ではないわ!」
岩が少しずつ大きくなる。
「ぬ、ぬおおおおおっ!!」
「ほっといて先を急ごう」
「待て! 貴様ら!!」
先を急ごうと斜面に向かったその時、背後で大きくズシンと岩が落ちる音が鳴り響いた。潰れてるとしたらあまり見たくないが……。
「我ら曇天を舐めるなよ! このような岩……! ハァッ、ハァッ」
声がしたので無事の様だ。ある意味良かった。
「そうか、ちょっとこれじゃ軽かったか」
俺は片手で岩を持ち上げると二、三度上下させた。
「何ッッッッ!!!!!!?」
「じゃあ、こんなもんで」
俺は岩に少し重みを足して、ボルクに渡してみた。
「ぐおああああああああああああっ!!」
「じゃ、潰されないように頑張って」
「うぬうううううううう!!!」
ドシャッ!!
ボルクは力尽きて倒れたが、岩は小石レベルになってボルクの上にちょこんと乗っかっていた。どうやら直前で傲慢な心が折れたらしい。俺も岩に潰されて死ぬなんて凄惨な場面は見たくなかったので直前で消すつもりではいたが、俺が片手で実演したことが功を奏したらしい。
俺達は情けない姿で倒れているボルクを放って先を急いだ。
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