地獄の98丁目 驚きの天界③
「仕事の出来るやつらだったな」
「うん、まさかあの時間で盗聴器3個、カメラ4個仕込んでいくなんてね」
野郎の部屋にここまで厳重に監視体制を敷くとはただ事ではない。俺の生活なんてくそツマラナイ平々凡々な日常な訳だが、ここにはたまにデボラも来る。俺の事はいいが、アイツらにデボラの日常を見せてたまるか。アレは俺だけのものだ。
「しかし、ここにはカメラもあったわけだから取り外したことはもうバレておるのだろうな」
「いや、バレるも何もコレはやり過ぎでしょ。普通に」
この規模で仕掛けていくとなると、二人でやった可能性が高いが……。
「どうせ追及したところで口は割らんだろう。それどころかやましい事があるのかと開き直ってこられても厄介だ。腹は立つが静観しかないな」
「最後にケツのアップでも拝ませてやるんだった。失敗したな」
というわけで全ての発信機を破壊し、何かあったらプライバシーの侵害で訴えていくつもりだ。天界と言えど、こんなことはまかり通るはずがない。
「さて、やっと色々落ち着いたところで少しまったりする?」
「いや、我はドラメレクの後始末と関係各所への挨拶回りだな」
「そっか。こっち来れたら帰って来て。待ってるから」
「しかし、後始末の方は大変そうだ。しばらくは帰って来れんかもな」
「んじゃ……」
俺は監視カメラと盗聴器の存在をもう一度確認してさらに電気を消し、デボラにしばしの別れの挨拶をした。
☆☆☆
「勘の良い奴らでしたね」
「ああ、あっさり全ての仕込みを撤去されるとはな」
ちっ、野郎の方はともかく魔王の方は素晴らしいボディラインだったのに。尻の一つでも映り込んでいれば……。
「とりあえず、次に会う時は俺はしらばっくれる。お前単独の犯行って事で宜しくな」
「はい、それは全然構いませんが。奴ら信じますかね」
「証拠は何もない。信じさせるさ」
「仰せのままに」
曇天の会議室にて、今回の調査検討会とモニタリングが行われる予定だったが仕込んできた“目”と“耳”は早々に撤去されてしまった。使用されることのほぼなかった機器だけが空しく机を占領している。これから調査報告書を書くのが憂鬱だ。なにせ、今回は経費でモニターを一台増やしている。これ、落ちなかったら自腹だ。今後の別件で生かしていくと強弁するしかないッ!
それにしても次回は私、白い目で見られるんだろうな。別にいつもの事だからいいけど、あのサキュバスは惜しいな。
さて、私は私で色々やる事があるので会議室の片付けを始めますかね。隊長も当然のように機材の片付け任せていきましたからね。この機材重いんですけどね。全っ然気にしてませんけどね! はぁーーーーーーーあ! 隊長ぶち抜いて偉くなりたい! そうしたらあのくそ生意気なミストもこき使えるし! 色々権限ももらえるし! 次回の査察から本気出すもんね! ハァッ! この機材なんでこんなに重いんじゃ!
☆☆☆
今回の査察は30分とは言え良い査察だった。収穫は結構あったな。特にあのクロードについていった職員。我々に近いような……決してそうでもないような……。何かおかしな気配がした。しかも弱いながらも魔力まで。何の参考にもならない程度の魔力だったがアレが噂の復活した人間だろうか? しかし……うむ。なんにせよ、地獄の一組織が神の領域たる命の再生を再現するフェニックスを所有しているというのは気に食わん。徹底的に洗ってあわよくば我々の管理下に置いてやる。ああいう手合いはいつか力を持て余して外へ向かうに決まっている。
我々のように
天界の影の仕事を請け負う事、幾星霜。その間に秘密裏に処理した案件には非常に有益な魔法、体術、生物、法則が含まれていた。もはやこの奇跡の数々を駆使すれば、天界の支配も容易なほどに。だが、まだだ。まだ早い。アスファルトにも根を生やすがごとく我々は静かに確実に自分たちの領域を拡大していかねば。そしてその暁には我々は曇天から晴天へと成り、やがて聖天へと至るのだ。我ら『曇天』、時が来れば雨天決行である。
☆☆☆
デボラが地獄巡りを一人で行っている間、俺はというとデボラの助言通り、魔力をひた隠し、トラブルの種を避けて人間としての生活を取り戻していた。今日も元気に6時半、起床である。会社へ向かうため、スーツに腕を通す。鞄を手に取る。革靴を履く。いつもの時間のいつもの車両に乗り込み揺られ揺られ、寝ぼけて隣のお姉さんに寄りかかると舌打ち。舌打ちで済んで本当に良かった。その気になれば痴漢扱いでそのまま御用という未来もあり得る。気を付けないと。
8時半、いつものように出社。今日も広瀬さんは可愛い。休職期間中は迷惑をかけたという事で色々奮闘するつもりだったが、結局魔王決定戦やら査察やらで残っていた有休を消化してしまった。会社的にはなんらかのリハビリという事になっているらしい。多分ベルのおかげだ。素晴らしく優秀な魔王様の右腕だ。。俺の席からは表情がよく見えるが、感情は全く読み取れない。会社ではかなりドライな関係のままだ。その方がお互い仕事もやりやすい。
滝沢パイセンや皆川部長は俺の事を気遣ってくれるし、申し訳ない気分。阿久津は今でもベルの支配下だ。もはや以前の評価はどこへやら。真面目な社員に磨きがかかっている。会社を一歩出ると徐々に素行が悪くなるらしいが、視界で悪さしてなければ、まあ良し。目に余るようなら直々に成敗だ。
「ねぇ、安楽君てやっぱり少し変わった?」
こういう時、女性の勘は侮れない。
「休職期間に色々ありましたからね」
俺はとりあえず苦笑いで返してみた。
「あ、ゴメン。でもなんかそんなネガティブな意味じゃなくて、なんていうんだろう。凄味が出てきた?」
うう、この人やっぱり地獄かあるいは天界の関係者何じゃなかろうか。いや、多分天界だな。天使だな。今の俺には多少相性がいいとは言えないが。
「まるで修行でもしてきたみたい!」
笑いながら冗談めいて話しているが、それ正解。
「まぁ、リハビリもある意味修行ですかね、ははは」
俺から絞り出せたのは不自然な乾いた笑いだけだった。
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