地獄の85丁目 忘れ去られた大会
「なーにか忘れてる気がするんだけど思い出せない? コンフリー」
「いえ? 今日も今日とて地獄は地獄でござい魔すが?」
コンフリーの奴は椅子に腰かけ、優雅にティータイムの様だ。
「いや、そういう事じゃなくて」
何だっけな。何かすごくいい事思いついた気がするんだが、忘れちゃったな。地下で色々遊んでいたら楽しすぎて夢中になってしまった。随分長い事籠ってた気がするが……。
「まぁ、いいか。その内思い出すだろ」
「ええ、そういうものです」
「そういや、ベラドンナは?」
「ドラメレク様を楽しませるために色々と動いているみたいですが」
楽しませる、か。なんて良い奴なんだ。捨てなくて良かった。
「地下室では何をなさっていたので?」
「ちょっと色々、な」
色んな種類の色んな反応を眺めていたらついつい。そういえばアイツらを捕らえた時に何か面白いことを思いついたような気がするんだよな。いっぱい集まっていっぱい闘って……。
「あ、そうだ! 祭りだ! 祭り!」
そうだよ! なんで忘れてたんだ。
「祭り……?」
「お前に頼んどいただろ!」
コンフリーはなおも思い当たる節が無いように首をかしげて宙へと目を泳がせた。なんて奴だ。
「魔王の座争奪の奴! チラシ撒いといてくれたよな!?」
「おお! そういえばそんなものもあり魔したな!」
俺がいう事でもないがこいつ少しボケちゃってるのかな?
「で? 参加者いるの?」
「そういえばトンと音沙汰があり魔せんな」
「ええ……みんな魔王に興味ないのか?」
「少なくともデボラさんぐらいは釣れると思って魔したがね」
そうだ、奴らぐらいは乗り込んできてもいいはずだ。ん? 乗り込む?
どうやって? 俺、チラシに場所指定した覚えないな。
「コンフリー、配ったチラシ見せてくれるか?」
「こちらにござい魔す」
コンフリーから奪い取るようにチラシを手に取ると、そこには致命的なミスが記されていた。いや、記されていなかった。
「いつどこでおっぱじめるか書いてなかったな」
「そのようでござい魔すな」
コンフリーが何事も無かったかのように茶をすすっているのが腹が立つ。腕を引きちぎってやろうか。
「まあいい。早めに気付いて良かった。あれから一週間経つけど」
「では、時と場所を追記してばら撒き魔しょう。まず、いつにいたし魔すか?」
「もう地下に籠るのは飽きたから明日にでも開催したいんだが」
「地獄中に撒くのですから明日はちょっと……せめて一週間後にし魔せんと参加者が集まらなくなり魔すよ?」
「ムムム……。では一週間我慢しよう」
一週間我慢できるおもちゃははベラドンナに期待するしかないか。
「場所はどこにいたし魔すか? 人数によってはここは手狭になりますので屋外の方が宜しいかと」
「じゃあ、近くの平原に仮設会場を作ろう。とにかくお祭り感が大事だ。俺を飽きさせない工夫が大事だ」
「屋台なんかも併設しますか」
「そういう事だ! そういうのを待ってた!」
「では、業者の手配ですな。会場はドラメレク様の魔力で何とでもなりましょうし」
「え、めんどくさいな。リヒトとシュテルケ使うか」
「そうですな。坊ちゃん達も退屈しておられるでしょうから」
いいぞ、いいぞ! 計画がどんどん動き出して来た! なんでもっと早く気付かなかったんだ! 地獄中から強者が集まってきてそいつらを蹂躙するなんて最高のエンターテインメントじゃないか! 入場料とってもいいぐらいだな。
「こいつは楽しいことになるぞ! コンフリー! お前も参加するか?」
「もう、年寄りをいじめるのはご容赦ください」
「すぐそうやって年寄りくさいことを言う……。バランさんを少しは見習えよな!」
「あの御方は特別というか化け物というか……腐っても魔王ですからな」
「腐ってもとか言ったな! 言ーってやろ!」
「子供のようですな」
こいつ、何とか大会に参加させてボコボコに出来ないかな。そういえばバランさんは参加しないのかな。もう魔王には興味なさそうだけど、あの人も屈服させたら楽しそうだ。せめて部下になってくれないかなぁ。
「戦いの形式はどうしようか。トーナメント? バトルロイヤル?」
「参加人数にもより魔すからな。その場のノリでいいんじゃないでしょうか」
「それもそうだな! 良し、後は全部その場のノリで決めよう!」
「それでこそドラメレク様でござい魔す」
これ多分褒められてないよな。よし決めた。こいつはエントリー。大会でぶつかったら強めに一発殴ろう。
☆☆☆
「あれから一週間経つが何の音沙汰もないな」
「飽きて忘れちゃったとか?」
「あり得るから怖い」
俺とデボラがチラシを受け取ってから一週間。バトルになるならせめて戦闘訓練ぐらいは必要かと思い、デボラやキャラウェイさんと組手をしてみたり、ダママやカブタン、ヴォルと戦ってみたり、それなりに修行パートをこなしてきたのだが、大会の開催すら危ぶまれる事態に俺達は困惑していた。
やらないならやらないでとっとと城まで行ってぶっ飛ばすだけなのだが、とにかく何の連絡もなく、ドタキャンというは止めていただきたい。もし奴らがどこかで会場を用意して待っているとするならそれはそれで滑稽な光景だが。
「ただ、この一週間で動きにぎこちなさが無くなってきたぞ」
「そう? 魔王様にそう言ってもらえると嬉しいな」
「何を言うか、手加減をしているのは分かっておるぞ!」
「でも、デボラの綺麗な顔に傷がついたら困るし」
「我を手玉に取るとは……お前本当にキーチローか?」
照れくさそうな顔を見て満足した俺は、人間界から持ってきたスポーツドリンクで喉を潤した。もはや修行というよりは日課の運動と言った感じになっているが、こいつが役に立つ日は来るのだろうか。
「そういえば、竜王さんからまた尻尾届いたんだって?」
「ああ、孫夫婦を宜しく頼むと言ってたな」
「一応、こっちに引っ越しては来てもらったけど元気な赤ちゃん生まれるといいね」
「ああ、そうだな」
「竜王の孫か。その子もいつか竜王になるのかな?」
「システムは魔王と変わらんからそうとも限らんな。ただあそこの一族は竜王をたくさん輩出している家系だからそうなる確率は高い」
「へぇ~。プレッシャーとかすごそう」
「誇りは持っておろうがプレッシャーはどうだろうな。さぁ、休憩は終わりにして特訓だ! 次はダママも呼んで一体多人数の訓練をしよう」
「うへぇ、キツそう」
大会開催日のお知らせが届いたのはその翌日のことだった。
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