第6章 魔王降臨編

地獄の66丁目 6つの絶望

 深い絶望。これは、駄目だ。もう終わった。俺は目の前の現実を


「あ……、ああ。なるほど。だんだん分かってきたぞ。状況が、何を成すべきか。俺が何を言うべきか」


◆絶望その1、ダママ


 分かる……。こいつ臭いで分かる。こいつメチャクチャ強い。もしかしたら今のデボラ様よりも。


 ええ、迂闊に手を出しちゃ駄目ね。


 グゥゥゥゥ……。すげえぜ、すげえぜ……。


◆絶望その2、ベルガモット


 まさか、これほどの魔力とは……。噂には聞いていましたが、私やローズは足元にも及びませんわね。なんと禍々しいオーラ。それに……、くっ……。


◆絶望その3、ローズウッド


 えぇ……。ナニこのおっそろしい魔力……。もう結界がどうとか言うレベルじゃないでしょ、これ。そして、何より絶望的なのは……。


 敵なのにイケメン!!!! やだ、私ったら、どんな人物かもわからないのに!!ローズのバカっ! 冷静になって!! ああ、でも……。目が……。


◆絶望その4、 安楽 喜一郎


 もう駄目だ。おしまいだ。なんでこんな敵が出てくるんだ。いけるか? いや、無理だ。


 何せ、目の前の前魔王は、


 全裸魔王だからだ。


 おまけにマンドラゴラの副作用だろう、俺的には同情の余地があるが、


 スーパーお元気全裸魔王じゃないか。


 これは、一歩間違えると綱を踏み外すぞ……。


◆絶望その5、デボラ


「久しぶりだな。ドラメレク

「お前が俺を助けてくれたんだな! ありがとう! キスしてやってもいいぞ!」

「なっ…………!!」


◆絶望その6、ベラドンナ


「お、お待ちください!!! ドラメレク様!!! ドラメレク様の復活を全力で遂行したのは私でございます!!!」

「えっと……、バーバラ……だっけ? いやー、助かったわ。ほんと。ありがとね」

「ど、ドラメレク様……!?」



  ☆☆☆



 どうやら、みんな等しく驚き絶望しているようだ。約一名、敵ながら同情を禁じ得ない人がいるが。


「あ、あれ? なんだこれ。まあいいか。ちょっとそこのバーバラ。相手してやるから城に行くぞ」

「ベラドンナです!! あなたの忠実なるしもべ!!」

「なんでもいいから行くぞ。お前が誰であろうと興味ない! ご苦労さん!! 僕なんだから無駄口叩くな」


 ベラドンナは絶望を通り越して、笑い出した。なんだか、とっても哀れな人だ。


「ひひひひひ……あなたの為に堕悪全員の命と……私の全魔力をお注ぎしたのに……ふへへへへ……ぎゃはははははは!!」


 この事態に、ようやく皆が動きだす。まずは、コンフリーと禁忌キッズ。それぞれ一歩踏み出し、再会を喜ぶ。


「我が主。お帰りなさい魔せ」

「おお、なんだ。コンフリーか、老けたな。お前も助けてくれたクチか? ありがとよ!」


 この全……いや、前魔王、軽い。あまりにも軽い。禍々しいオーラがはっきりと見えているのに、恐怖で体が動かないのに、どうしてこんな日常感を出せるのか。


「お、お父様……!」

「え? もしかしてリヒトとシュテルケか! 大きくなったなぁ!」

「はい! 僕たちもお父様の為に一生懸命頑張りました!!」

「よし、お前たちも大きくなったことだしやりたいことをやりたいようにやれ! さようなら!」


 な、なんて奴だ。自分の復活の為に尽力した配下や我が子をここまで適当に扱えるとは。自分以外は何に見えているのか。


「お、お父様……?」

「なんか腹減ったな。あそこの犬食えるかな」


 ドラメレクは溶けた氷で濡れた漆黒の髪をかきあげてオールバックにすると、デボラと同じ形状の巻き角をひと撫でした。


「煮て食うか、焼いて食うか……」

「止めろ! ダママに手を出すな!」

「ダママ? なんじゃそりゃ」


 言い終わらない内にドラメレクはダママに向かって高速で火球を投げた。


「くっ……!」


 デボラは一瞬でダママの前に立ちはだかり、火球を蹴り飛ばした。あまりに自然に目の前の命を散らそうとするので、デボラ以外の誰もが、全く反応すらできなかった。


 ヤバい。なんだこいつヤバすぎる。本当に思いついたままやりたいことを一直線に行動に移してやがる。本能で生きてるのか!? 理性が欠片も働いていないように感じる。


「おいおい、今は地獄のキックベースで遊んでる時じゃないだろ。こっちは腹ペコなんだ」

「誰が遊びなものか! このケルベロスはうちの大事な仲間だ! 手出しするな!」

「え、仲間……? 犬が? デボラ、お前面白い冗談言うようになったな」

「ここにいるのは我の仲間、そして我の恋人だ!!」


 ちょっと、ちょっとちょっと! 何どさくさに紛れて恋人宣言しちゃってんの! 最悪のタイミングで最悪の相手になんてことを!


「デボラ、それはちょっと笑えんぜ。今まで散々粉かけても1ミリもなびかなかった奴がよ、まさかバランさんと付き合ってるなんて」

「ドラ君、違う違う」

「は? だって後この場にいるのは女だけじゃ……」


 どうやら人間である俺は幸いにして今のところカウントに入っていない様だ。というかもはや都合のいいものしかあの目には映っていないのかも知れない。


「え、まさかそこのゴミみたいな人間? 流石に冗談きついよな。そこの部下らしき女と付き合ってるって言われた方がまだ理解できるぜ」


 うん、一応ゴミとして認識されていた様だ。この際認識されない方が助かるわけだが。


「ま、こいつが居ない方が話は早そうだな。消えてろ」


 あ、死んだ。地獄に来て何回目かの走馬灯だ。最近、地獄に来るたび走馬灯を見ている気がする。走馬灯を見た記憶さえ、現在の走馬灯にて絶賛上映中だ。やたらスローモーションでドラメレクが迫ってくる。いや、コマ送りだな。一コマごとに奴の顔が迫ってくる。ああ、はっきりと顔が見える。なんだこのタレ目野郎。いかにも女たらしそうな顔しやがって。


 と、俺に辿り着く寸前で、二つの足がドラメレクの顔を挟む。が、それさえも超常的な反射であろうことか手で止めている。


「おっとっと、この蹴りは危ないな。大事な顔に傷がついてしまう」


 ギシギシと音を立てながら顔まで2センチ余りのところでデボラとキャラウェイさんの足はドラメレクに掴まれ、ピタリと止まっていた。


「今日からまた魔王やらしてもらうんでそこんとこ宜しく」


 ドラメレクは掴んだ足をそのまま振り回し、二人とも投げた。洞窟の壁に叩きつけられたキャラウェイさんとデボラは洞窟に大きな窪みを作り上げ、昏倒した。今度こそ絶体絶命だ。おい、俺の物語完なのか!? 理不尽すぎるだろこれ!


「キーチローさん! 逃げて!」

「キーチロー! こっち!」


 ベルはドラメレクの前に立ちはだかり、ローズは俺の手を引っ張って逃げようとする。が、ベルはあっという間に殴り飛ばされ、ローズも同様に視界から消えた。


「なーんで魔族が揃いも揃ってこんな人間なんかを生かそうとするのか知らんが、興味もないんで、さようなら」


 そして、俺は

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