第7話 決戦

 出たッスね……。


「彩、気をつけて」


「了解ッス」


「ジュマ!」


「それじゃあ、巻き込まれないように下がってほしいッス」


 文姫ふみひめさん、ジュマを隅に下がらせ、前に出る私。


 コピーした地下駐車場の空間は壁際に車が停められ、中央がいい感じに広いんで、戦うにはちょうどいいッス。


 夜獣やじゅう長谷川高介はせがわこうすけ


 ざっくり言えば、身長三メートル大の獣人幽霊みたいな感じッス。


 本人自体は瞳が細くなって紫色になり、全身がオーラに包まれ手足をだらりと下げたまま一メートルほどの高さで宙に浮いているッスが、ヤバいのは四肢しし


四肢はオーラが元になっているッスが、見た目、筋肉が発達しているうえに黒く毛むくじゃらで、顔のない大猿を連想させるッス。


 そんで、殺気が半端ない。


 気を張っていないと肉体が反応して傷をつくり、血を吹いてしまうッス。


「────何をしただって」


 私は精神防御を展開しながら復讐者を演じ続ける。


「寝てる娘にこいつを撃った。だから死ぬんじゃない」


 パイソンをくるくる回しながら悪びれることなく言う私。


 身体を震わせ物凄い形相ぎょうそうにらみつける夜獣・高介氏。


「貴様────、殺す!」


 オーラの右拳が私に襲いかかる!


 寸前、横っ飛びでかわす。


 受け身をとって体勢を整えるのと同時に、引き金を引く。


 重なり合う聖属性の光が高介氏の左腕、オーラの部分を貫通。


 腕は消し飛んだッスが、また生えてきたッスね。


「殺す!」


 今度は左右から拳を振り回す高介氏。


 私は駐車している自動車に隠れつつ移動。


 構わず高介氏は私を追って自動車を殴りつける。


「穂波はな、とてもいい娘だった。明るく美しく、優しい子だった」


 窓ガラスが砕け、変形する自動車。


「成績優秀で、家事が好きな子だった。自慢の娘だった」


 二台分、先に移動したッスが、高介氏は変わらず拳を振る。


「それを、貴様ら覚醒者かくせいしゃが!」


 と、ここで高介氏、セダンの車をつかみあげ、私が隠れているであろう場所めがけて投げつけてきたッス!


 車どうし激しくぶつかり合い、めっちゃり潰れて横倒しになる。


 ガラス片が散乱するも、私は魔力を使って素早く反対側へ逃げたんで大丈夫ッス。


「この気持ち、貴様らにはわかるまい……」


 ひと通り暴れて、言いたいこと言って、ちょっと落ち着いたッスかね。


 でもね高介氏。


 言いたいことがあるのは、あなただけじゃないッスよ。


 私はパイソンのシリンダーを回転させ、金聖魔法に切り替えて引き金を引く。


 高介氏の腹部に着点し、金色の炎が燃え上がる。


「覚醒者、そこか!」


 再び私を追いかけようとする高介氏。


 しかし私は自動車の屋根にのり、一台一台、飛び移りながら魔法を放っていく。


「くっ、覚醒者め」


 四発の金聖魔法を受け、業火となった炎は視界をさえぎり、魔力探知を乱す。


 これで倒せるわけではないッスが、時間は稼げるッス。


 空間倉庫から357マグナムのを取り出し、シリンダーに装填すると、私はパイソンを額にあてて目を閉じ、多くの思いを込める……。


 生まれてから十八年間、多くの人が私を支えてくれた。


 嬉しいこと、楽しいこと、辛かったこと、悲しかったこと。


 いろいろあったッスけど、笑顔になれたッス。


 母さん……、映二えいじ……。


 ────私はその温もりに帰る!


 パイソンを両手で構え、引き金を引く。


 場内に鳴り響くマグナムの銃声。


「……」


 小さくなっていく金聖魔法の炎から見える高介氏の顔。


 口を大きく開け、呆然としているッス。


 そして、禍々しかったオーラが消えていき、宙に浮いていた高介氏はそのまま落下して、両手両膝をつく。


 ────私がしたのは銃声による精神の伝達。


 つまり銃声の音にのせて、私の生きてきた記憶と思いを高介氏に送ったってわけッス。


 その目的は高介氏の父性に訴えること。


 穂波さんは娘でしょうが、私だって『娘』ッス。


 父さんは亡くなり、親は母さんだけッスが、私が娘という位置にあるのは変わらないッス。


 しかも、ハーフでもないのに金髪、褐色肌なんで変に気遣きづかわれたり、からかわれたりしたッスからね。


 生活だって収入は母さんの給料だけ。


 そういった意味では穂波さんより、きついッスよ。


 そう。


 悲劇を背負っているのは、辛いのは、ってことッス。


「……」


 頭が下がって表情は見えないッスが、目からこぼれるものが見えるッスね。


 ────私は空間倉庫からブーストサプレッサーを取り出してパイソンに装着。


 さらにヤエさんが貸してくれた効果筒こうかとうを装填するッス。


「その呪縛、解き放ってあげるッスよ」


 そっと呟き、私は高介氏の頭部にパイソンを向け、引き金を引く。


 穂波さん暗殺の時と同様、音もなく花びら散り、高介氏はドサッと横へ倒れたッス。


 黄色の花びらッスね。


「オトギリソウね」


 決着がついて、文姫さんやってきたッス。


「花言葉は、恨み、敵意、秘密ね」


 なるほど。


 いま高介氏から、それらが散ったってわけッスね。


 そして桃の花が被弾部に咲き、高介氏の中に浸透していく。


 確か、桃の花は邪気を払うし、花言葉は天下無敵とかだったッスね。


 魔の気持ちに負けないでほしいッス。


「ジュマ!」


 おっと。


 ジュマが言うと、空間が左から右へ移動したような感覚があったッス。


 ハローの空間複写転移魔法が切れたみたいッス。


 元の世界夜セカイヤに戻った私たち。


 壊れた自動車なんかはなく、そのままの形であるッス。


 灯りもあるんでいいッスが、高介氏、放っておくわけにもいかないッスね。


「ジュマ!」


 するとジュマ、高介氏の身体に両前足をぽんと触れると、空間倉庫を利用して高介氏を移動。


 高介氏が乗ってきた自動車の運転席に座らせたッス。


「あそこなら大丈夫ね」


「ジュマ!」


 ハローを空間倉庫へ収納しながら答えるジュマ。


「それじゃ、帰るッスね」


 文姫さんとともに安全を確認して、私はパイソンのシリンダーをスイングアウトし、引き金を引いたッス。


 蒼い半透明の球体結界が私たちを包み、居住空間へ転移させる。


 その時に見た高介氏。


 憑き物がとれた、穏やかな顔をしていたッス。


 空砲で精神を伝達する時、穂波さんが生きていることも含めておいたッスからね。

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