ある一人の探理官による手記 2
上司の様子が変わった。
仕事に対し冷徹でスマートに処理するのは以前からだったが、より一層、厳しくなっている。
それは、われわれ部下にではなく、対象者に対してである。
対象者、つまり魔法犯罪者というわけだが、容赦なく罵声を浴びせ実弾を放っている。
やはり娘さんのことがあるのだろう。
去年、暴走した魔導具から魔獣が召喚され人々を襲った、あの事件の渦中に上司の大切な一人娘がいた。
娘さんは左の手足を欠損し、左目を失明。
生きてはいたが、肌は赤黒く変色し、美しかったその姿は見る影もなく失われたという。
その時、生命の危機に瀕して能力を覚醒させた娘さんの友人が、その力で魔獣を消し去った。
被害を最小限に食い止めた。
だが、もともと一般人であった友人は力を制御できず崩壊してしまったし、そばにいた娘さんはそれに巻き込まれて希望を失ったのだ。
魔獣に食いちぎられるのも地獄だが、高熱の光で焼き切られるのも激烈な痛みであっただろう。
いま、娘さんは心を閉ざし、自宅で静かに暮らしているという。
上司の、父親としての怒りや憎しみ悲しみを思えば分からなくもないが、もしこの先の人生もそのままだというなら、あまりにも哀れではないか。
私の上司────
彼が救われる日はくるのだろうか……。
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