第4話 試射の異夜
「お邪魔しまーッス」
そう言いながら静かにドアを開けて中に入る私。
「お邪魔するわよ」
「お話は
「ようこそ我が主の住まう館へ」
そう言って出迎えてくれたのは黒いゴスロリの格好をした十歳くらいの女の子が二人。
「私の名前はイブ」
「私の名前はヤエ」
「以後、お見知りおきを」
「あ、ども、
「
こちらも一礼し、お互い、初対面の挨拶を交わしたッス。
イブという子は
ヤエという子は
外国人と日本人みたいッスね。
しかも双子のようにそっくりな容姿をしているッス。
まあ、おそらく本当の双子ではないし、本当の人間でもないでしょうけどね。
「早速ッスけど、スピールの試し撃ちをしたいッス。その場所へ案内してほしいッス」
城跡に居座る甲冑姿の
文姫さんが銃神と交渉してもう一丁のスピールを用意してくれたんッスが、さすがに実戦で初使用はヤバいんで、試射ってことに。
ところが試射する場所がない。
私の居住空間じゃ室内がこわれるし、
世界夜と現実世界の
ジュマは留守番ッス。
「────ここでいいわよね、イブ」
「そうね、ヤエ」
「ここ、ッスか……」
そう呟くように言いながら館内を見回す私。
館の位置的にはエントランスってとこッスが、ざっと見て、
その内装は中世ヨーロッパを思わせる作り。
簡単にいえば教会みたいな感じッスかね。
イブさんヤエさんが使っているであろう、黒塗りの高価そうな木製のイスとテーブルがあるだけで、あとは何にもないッス。
ただ館内、魔力がすんごい満ちてコーティングされてるんで、ガンガンに魔法を使っても問題なさそうッス。
「それじゃあ、テーブルを借りて支度するッス。文姫さん」
「わかったわ」
全員テーブルへ向かい、文姫さんがちょこんとその上にのると、手に持っていた緑色の
ポン、と音が出そうな勢いで私の新しいスピールが現れたッス。
一センチ四方の風呂敷から一丁のハンドガンが出たことに誰も驚かず、私はそれを手にする。
SPR-86ボイスワーク・アクトレス。
型番が86なんで語呂合わせで、ハロー、て名前をつけたッス。
魔法軽金属と樹脂で作られた、一回り小さいワルサーP99って感じのやつッスね。
基調は黄色。
そのかわり実弾は撃てないし、魔力がなければモデルガンにしかならないッス。
と、ここまでは一般的なスピールと一緒ッスが、ハローの特徴は一つの魔法を六種に撃ち分けられることッス。
「的がほしいわよね、イブ」
「そうね、ヤエ」
表情を変えず、ジッと見ていたイブさんヤエさんッスが、二人ともどこから出したかメモ用紙みたいな紙に、万年筆で絵を描き始めたッス。
「こんな感じかしら、イブ」
「そうね、ヤエ」
書き終えると二人はその紙をそれぞれ放って魔法を発動させたッス。
「これは……」
「ペーパーゴーレム、ああ、文姫さんには式神って言った方が分かるッスかね……」
パッと光ったあと、そこには身長二メートル大のスーツを着た、真っ白なオオカミの夜獣さんが現れたッス。
当然、本物ではなく、お二人の魔力で作られた動かせる等身大の紙人形ッスね。
「遠慮なく撃ってください」
「じゃんじゃん作ります」
「彩、せっかくだから……」
「了解ッス」
イブさんヤエさんが再びテーブルで描き始め、文姫さんに促された私は、あえて左手で引き金を引くようにハローを両手で持ち、構える。
十メートルほど 距離を置いて、私はまず『単射』で魔法を発動ッス。
引き金と同時に女神が詩の一文を詠むような銃声と金色の炎が出現。
白い夜獣さんを胸元から一気に焼き尽くしたッス。
これは普段、パイソンの方で発動している金聖魔法と変わらないッスね。
「では、次いってみるッス」
────そうして私はいろいろ切り替えながら引き金を引き試していく。
『連射』引き金を引いている分だけ小威力の魔法が連続発動。
サブマシンガンのイメージ。
銃声はキーを連打したかんじ。
『強射』一回の引き金で高威力化した魔法を発動。
マグナム弾のイメージ。
銃声は女神が気合を入れて詠んだかんじ。
『散射』一回の引き金で小威力の魔法を七つ同時発動。
ショットガンのイメージ。
銃声は一文を強弱つけて詠んだかんじ。
『線射』引き金を引いている分だけ直線として魔法が発動。
レーザーのイメージ。
銃声は、あーーーーーとのばして詠んだかんじ。
『三射』単射の魔法を三回連続発動。
スリーバーストのイメージ。
銃声はキー三連打したかんじ。
「────なるほど、こんな感じなんッスね」
ひと通り撃ち分けて感覚をつかんだ私。
「こうなると、魔法を使っているというよりは実弾の射撃ね」
それを見て素直な感想を言う文姫さん。
「そうッスね。まあ、それが狙いなんでバッチリッスけど」
これなら武士の夜獣さんたち、まあ、二体はちょっと違うッスけど、作戦いけるッスね。
「あら、もう終わり」
「作りすぎたかしら」
テーブルから顔を上げ、イブさんヤエさんが言ったッス。
「そんじゃ、それを全部使って、軽い模擬戦をしてみるッスかね」
せっかく作ってくれたんだし、スピールの二丁撃ちも試してみるッス。
「そう、わかったわ」
「連続でいいかしら」
「よろしくッス」
私はズボンのベルトに挟み込んだパイソンのスピールを右手に持ち、自然体に構える。
今日の私は正装。
紺色のスーツ姿であり革靴を履いているッスが、パンツルックでもあるし、動くのに問題ないッス。
パパパパーッと四つの光がきらめき、四体の白い夜獣さんが一斉に私へ襲いかかる!
先頭の夜獣さんが繰り出す右拳に対し頭を振って
更に左手のハロー・単射で後続一体を吹っ飛ばす。
そして、残り二体に攻撃される前にパイソンから二発、ハロー・強射の一発で仕留めたッス。
パイソンには同じく金聖魔法が装填されているんで、被弾状況は違えど、白い夜獣さん全員、金色の炎に包まれ消えていったッス。
「素晴らしいわね、イブ」
「そうね、ヤエ」
表情は変わらないッスが、お二人は拍手して褒めてくれたッス。
「あ、え?」
派手な戦いを予想していた文姫さんは、プロ仕様による最速最短の仕留め方になるとは思わなかったみたいッスね。
でもこれでいろいろ分かったッスよ。
今度はキッチリと武士の夜獣さんたちを仕留めてあげるッス!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます