第2話 城跡・乱夜

 ────私ののどに迫る殺意。


「!」


 瞬間、暗殺者の顔面に右拳が炸裂!


 暗殺者は三メートルほど後ろへ吹っ飛んで、そのまま石垣から落ちていったッス。


 刹那突せつなつき。


 通称・那突なつき。


 予備動作なしの、いつ攻撃したか分からない技。


 武術の奥義ってやつッス。


「え? え? え?」


 訳が分からずあたりを見回す文姫ふみひめさん。


「ジュマ!」


 さすがにジュマは警戒体勢になったッスね。


「文姫さん、気をつけてください。夜獣やじゅうさんたちに気づかれたッスよ」


「え―?」


 見ると、六体の夜獣さんたち、鋭い目つきをこちらに向けながら立ち上がってるッス。


 手にはそれぞれ武器が握られているッスね。


 武器が。


 そして、落っこちたはずの暗殺者────サルの夜獣さんが角度のある八メートルくらいの石垣を駆け上がって、跳躍。


 私たちの頭上に姿を現したッス。


 ベタな忍者の格好をしているサルの夜獣さん。


 そこから手裏剣を投げつけてきたッス!


 横っ飛びで避けつつ、パイソンを向け引き金を引く私。


 サルの夜獣さん、右肩に魔法を受け、黄金の炎が噴き上がったッス。


「ウギャオギャ―!」


 何かよくわからない叫び声をあげて落下。


 地面でもがいているッス。


「来るわよ!」


「了解、ッス!」


 文姫さんの声を受け、体勢をなおすのと同時に迫るヒョウの夜獣さん。


 角手かくてを装備した右拳が、私の顔面に向かってくる!


 接触の直前、私は顔を横にしつつ身体を回転させて右拳をかわすと、相手の背中に右肘を打ち込み、さらにその肘を伸ばして手にあるスピールの引き金を引いたッス。


「グギャオォ―!」


 ヒョウの夜獣さん、背中から金色の炎を上げ、突っ伏すようにして倒れたッス。


「ジュマ!」


 ジュマの声に振り向くと、オオカミの夜獣さんが日本刀を手に走りこんでくるッス。


 左手に刀身が納まった鞘を腰元で持ち、右手が柄を握るこのかまえは────。


 居合!


 私はパイソンを振り上げながら引き金を引き、光魔法を発動させたッス。


 攻撃を裂く強烈な一筋の光。


 本来は青いレーザーみたいなのを放つもんッスが、振って使えば光の剣になるってわけッス。


 夜獣さんの刀を斬り、そのままパイソンを振り下ろしつつ引き金を引く私。


 再び斬撃にした光魔法で、オオカミの夜獣さんを頭から左右真っ二つにする勢いで斬りつけたッス。


「グギャア―!」


 実際、真っ二つにはならず、気を失ったかんじで右に倒れたッスね。


「!」


 殺気を感じ、左手を振る私。


 ジュマの空間倉庫からナイフを取り出し、逆手に持って、飛んできた殺気を弾き落としたッス。


 キツネの夜獣さん、その場から動かず弓で矢を放ったッスね。


 とか見やっているうちに、片鎌槍かたかまやりを持つライオンの夜獣さんと、大柄の斧を持つトラの夜獣さんが接近。


 突きをり出し、鉄塊てっかいのような刃を振り回してくるッス。


 とにかく、躱す!


 片鎌槍は字のとおり、片側に小さな鎌みたいなのがついてる槍ッス。


 下手に躱すと鎌の方にやられるッス。


 先読みし、大きく躱す私のタイミングに合わせて、トラの夜獣さんが両手に持った一つの大斧を振り下ろす!


 身体を半回転させ、バックステップで回避する私。


 ドズンと重量感たっぷりの音とともに地面がふるえるッス。


 こんなの何回もやったら石垣もただでは済まなさそうッス、ね!


 再び私を刺そうとする槍の攻撃。


 そんで斧。


 これはもう……、反撃してる……、暇が……、ないッス!


「彩!」


「ジュマ!」


 呼びかける文姫さんとジュマ。


 弁慶さんこと、錫杖しゃくじょうのような八角の鉄棒を持つ大きなクマの夜獣さんも登場ッス。


 そして、はじめに攻撃をした夜獣さんたちがゆっくりと立ち上がっているッス。


 サル、ヒョウ、オオカミの夜獣さん。


 金聖魔法の炎は消えちゃったッスね。


 さすがにダメージを受け、存在力が薄れて、甲冑ごと身体が半透明になっているッスが、まだまだ戦えるみたいッス。


 キツネの夜獣さんも隙あらば矢を放ってくるッスね。


 文姫さんは案内の役割で、ジュマは倉庫番。


 戦えるのは私だけ。


 一対七で同時に相手するのは圧倒的に不利。


 ────となれば、ここは迷うことないッスね。


「文姫さん! ジュマ!」


 左手のナイフを空間倉庫に投げ入れ、離れた位置にいる文姫さんへ駆け出す私。


「え?」


 左手で文姫さんを抱き寄せると、ジュマは私が何をしようとしているか理解し、右わき腹に抱きついたッス。


「跳ぶッスよ―」


「え―!」


 驚く文姫さんに構わず、私はパイソンを真下に向け、閃光魔法を発動。


 強烈な光で夜獣さんたちの視界を奪っているうちに、石垣からジャンプ。


 そして、パイソンのシリンダーをスイングアウトさせ、引き金を引いたッス。


 私が落下するよりも早く、周囲に蒼い半透明の球体結界が展開して私たちを居住空間へ転送させたッス。


 そう。


 今回は、撤退ッス。

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