世界亜夜~魂の街で夜獣を狩れ!

一陽吉

第1話 開夜

「五体ッスか……」


 そう呟きながら、私、野八彩のばちあやはオオカミ型の夜獣やじゅうさんたちを追いかけていくッス。


 夜獣さんたちは身長二メートルくらいの中肉中背の身体に、漆黒のスーツを着る狼の頭をした獣人ッスが、そう言わないのは訳があるッス。


 まず、ここはI県M市をイメージした人間の心によって作り出された精神世界、通称・世界夜セカイヤ


 見た目は賑やかな地方都市であり、夜の八時くらいの今は背広姿の大人たちを中心を多くの人が行きかっているッスが、それらは全て精神体であって肉体がないッス。


 肉体を持っているのは私だけ。


 それもあって、私は他の人たちを見ることができるッスが、周りの人たちは私を視認することができないッス。


 それは夜獣さんも同様ッス。


 その証拠に、あれだけ大きく目立つ姿なのに誰も気づいてないッス。


 まあ、見えたら私の金髪細ツインテールに褐色肌、白の半袖シャツと紺の超ミニのプリーツスカート、見せブラ、ショーツ姿のギャル仕様の格好を知ることになるッスけどね。


 ────さて、夜獣さんたちとの距離がだいたい五メートル。


 いい感じに他の人もひけたところで、お仕事の時間ッス。


 仕掛けるッスよ。


 左手を広げて突き出し、その甲へ右手に持ったコルトパイソン357マグナム・スピールカスタムの銃口をあてる。


 はたから見れば左手に風穴を開ける感じッスね。


 しかしそこはスピールカスタム。


 魔法になるッス!


 引き金を引くと同時に、私の左手の形をした金色の炎が飛び出す。


 それは巨人の左手みたいにでっかいもので、一気に五体の夜獣を鷲づかみにするッス。


 身動きが取れなくなったことに驚いて、ばたばたと暴れだす夜獣さん。


 夜獣さんに痛覚はないんで、痛みから叫ぶことはないッスが、慌てることはあるみたいッス。


 私の動作と魔力に連動している炎なんで、私がこのまま左手を握り潰せば仕留めることも可能なはずッスけど……。


 むむむむむむむむぅ--っ……、むっ!


 私の左手がこぶしをつくるのと同時に、炎の左手も夜獣さんを握り潰すようにして弾ける。


「ワオオオ-ン!」


 断末魔をあげ、金色の火の粉を散らしながら消滅する二体の夜獣さん。


 焼け残った感じで倒れる三体の夜獣さん。


 その身体はスーツ姿にも関わらず半透明になって、存在力が半分くらいになったことを表しているッス。


 夜獣さんは人々の不安や恐れの心が集まり、具現化したもの。


 肉体、骨格に沿った動きをするッスが、実際は精神体と同じッス。


 その身体を構築している不安や恐れを魔法なんかではらえば、その存在はうすくなり、やがては消滅するって寸法ッス。


 おっ。


 よくもやりやがったな、てな感じで私を見てるッスね。


 こうなれば、あとは通常戦闘ッス!


 同時に駆け寄る三体の夜獣さん。


 向かって右側の方に、左手の加工なしの金聖魔法を二連射。


 女神が詩を詠んでいるように聞こえる銃声を堪能する間もなく、中央にいた夜獣さんが私に迫る!


 獲物を引き裂く鋭い爪の攻撃を、素早くしゃがんで避けるのと一緒に、足を絡ませ技をかけるッス。


 一度、転倒した状態から足関節をきめ、お互い逆立ちするかっこうになる維虫固いむしがためッスよ。


 夜獣さん、痛みはなくても力が入らず、バランスをとるのに両手をふさがれる感じになるんでちょうどいいッス。


 その間に、金聖魔法を撃った夜獣さんを確認したッスが、額と心臓の位置から金の炎を噴き上げ、音もなく消滅していったッス。


 残り二体。


 取り残された夜獣さんッスが、どうしていいか分からずウロウロしてるッス。


 ま、遠慮なく仕留めさせてもらうッスけどね。


 右手にあるパイソンに魔力と意思を込め、シリンダーを自動回転。


 多重光聖魔法。別名、重光弾じゅうこうだんにかえて、引き金を引くッス。


 マグナム弾のような高威力の光聖魔法が、ウロウロ夜獣さんの右膝に命中。


 ガクンと力を失い、予想どおり、前のめりに転倒させたッス。


 そして、いい感じの高さに頭があるんで、そのまま撃つッス。


 重量感を感じさせる五線の光が、夜獣さんの頭と身体の存在力を吹っ飛ばす。


 うん。きれいに消滅させたッス。


 実際、片手逆立ちで反動の大きい発砲をしているようなもんなんで、少々きついッスが、結果になっているんでOKッス。


 さて、残ったこの夜獣さんッスが、まあ同じッスね。


 頭がそこにあるんで撃つだけッス。


 引き金を引き、吹っ飛ばした頭から身体の末端に向かって存在力が消えていく。


 私も技をかけて支えていたものがなくなったんで、ゆっくりと両足のつま先を下ろし、立ち上がる。


 ────あらためて聞こえてくる笑い声。


 行きかう人々。


 顔を真っ赤にして、できあがったオジサンたち。


 賑やかな街って感じッス。


 そんで、あれだけ派手なアクションをしていたにも関わらず、野次馬どころか、誰も見てないッスね。


 見えてないんで当然ちゃ、当然なんッスが、な―んか変な気分になるッス……。


 まあ、考えても仕方ないッスね。


「それじゃ、帰るッスよ」


 私はパイソンのシリンダーをスイングアウトして引き金を引く。


 機関的動作による帰還魔法によって、青い球体結界が私を包み、居住空間へと転送させるッス。


 着いたら先にシャワーを浴びるッス。

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