ナカムラコウジ その6(おわり)

 社長の口から吐き出された紫煙が鼻のすぐ真横を通り過ぎていく。僕は気にせず、梅干しのおにぎりを頬張りながら午前中に撮った映像のチェックをしている。白濁液まみれの水色少女が半裸の男たちによって身体を揺すられている。

 午前中の二本の撮影を終えてから、会員や戦闘員たちに配給の弁当を配り、自分たちもこうやって事務室に戻ってきて昼食を取っていた。社長は早くも食べ終わって食後の一服を吹かし、サクラダくんはサンドウィッチを齧りながら、相変わらず完成の兆しの見えないジグソーパズルを弄り回している。

「ふう、やっぱり一仕事終えた後の一服は格別だなあ」

「社長は大して何もしてませんけどね」

 社長の言葉に、サクラダくんが茶々を入れる。社長は怒る素振り一つなく笑う。

「まあ社長ってそういうもんだからさ。プロデューサー的な」

「良いですけどね、別に。この仕事ができるのは社長のおかげですから」

 サクラダくんも、特に不満を持っている様子はなかった。もちろん僕も。

「ところで話は変わりますけど、不思議ですよね」

 サクラダくんが唐突に話の矛先を変えた。

「うん? 何が?」

「魔法少女ですよ。今日も新人ちゃんが一人いましたけど、何であんなにわらわらと次から次へと湧いてくるんでしょうかね。うちが作った裏ビデオも結構出回ってるはずなんですけど」

「そりゃあれでしょ、正義感とか使命感ってやつ。あとは周りの大切な人を助けられるのは自分だけだあみたいな。僕らには無縁の感情かもしれないけどね」

「ふーん、そんなもんですかね」

「そんなもんだと思うけどね。うーん、ナカムラはどう思う?」

 また急に僕に話が投げられた。僕は少しだけ考えて――でも結局のところあまり考えずに、答えた。

「どうでもいいですね」

 どうでもいい。僕は撮れればいいのだ。撮ったことのない、刺激的で面白い画を。

「さて、そろそろ午後の仕事に取り掛かるとしましょうかね」

 社長は煙草を灰皿に潰し、大袈裟に伸びをした後、勢いよく立ち上がった。気づけば僕はおにぎりを食べ終わっており、サクラダくんもサンドウィッチを食べ終わっている。

 僕は再びカメラを抱え、ゆっくり席から立ち上がる。

 通りすがりの風がばたばたとおんぼろ事務室の窓を揺らした。

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