さんたるちあのオラショ(INORI)
床崎比些志
第1話
気がつくと、ツミキは地面にねころがっていた。背中とおしりがいたい。どうやらあおむけにひっくりかえったときに背中とおしりをしたたかにうったみたいだった。目の前には晴れわたる青い空が広がっている。
するとその青い空に黒い点がうかんだ。そしてその点はみるみるうちに大きくなる。
「な、なんだ!」
その黒い点は、近づくにつれて、たんなる点ではなく、ギザギザのりんかくにかたどられていることがわかった。その中心がキラリと光っている。すぐにそれが世にもおそろしいどうもうな目とするどいキバだとわかったとき――巨大なドラゴンはすでにツミキの目と鼻のさきに近づいていた。
「まずい」
と思わず声を発した。ツミキは自分の声が少し変なことに気がついたが、そのときは自分の身を守ることに手いっぱいで、それいじょう気にとめることはなかった。ツミキは反しゃ的に体をひねった。
ドッカーン!
という文字どおりの大きな音があたり一面にひびいたような気がした。
そして黄色い土ぼこりがまいあがる。
すぐにその土ぼこりのえんまくの中から見たこともないような青みどり色の巨大なドラゴンのすがたがうかびあがった。さらに視界がはっきりしてくると、さっきまで自分がねころがっていた場所にドラゴンのしっぽがグサリと地面にささっている。あのまま地面に横たわっていたら、まちがいなくあのしっぽの先でくしざしにされていたにちがいないと思った。
ツミキは目の前の光景が夢であってほしいと思いながらも、まるで体操の選手のようなすばやさですくっと立ち上がっていた。
それとともにドラゴンは大きなうめき声を上げ、地面の上で立ちつくしているツミキのすがたをそのサメのようなするどい目でおった。
(あっ、ありえないでしょ!)
ツミキはおそろしさにふるえながらににげだした。が、よく見るとドラゴンはしっぽが地面にささったまま身動きがとれない様子だった。苦しそうにもがいているように見える。その様子にうっかり油断して足を止めてしまった。そのとたんツミキの目の前は真っ赤になった。ドラゴンがその口から火をふいたのだ。ツミキはあわてて走った。おかげでまるやきにならずにすんだが、おしりがちょっとヒリヒリした。
(これって現実だあ!)
ツミキはこの目の前の怪物からにげとおすこといがいに、自分が生きぬく方法はないことをさとった。そして自分でもびっくりするぐらいのスピードでひたすら走った。ところが地面が大きく波うった。そのしょうげきで、ツミキは前のめりにひっくりかえった。ドラゴンが力ずくで地面ごとしっぽをひきぬいたのだ。ツミキがふりかえると、ドラゴンはおおきな翼を二度、三度バタバタさせて、空にまいあがっているーー。
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