深淵

 メールが届いている。


 [別クラスの子に確認したらメールと電話番号を知っていました。

  まだ使われているかわからないみたいですが

  メールアドレスと携帯番号をのせておきます」


 メールアドレスと携帯番号を得ることができた。

 一応ネットでアドレスを確認したが特に変なアドレスでは無いようだった。


 落合ケンイチは同級生と言うだけで連絡を返信してくれるタイプだろうか。

 確か警察は電話した位置をGPSでわかるシステムがあるが

 それをどうにか使う事は出来ないだろうか。

 知恵袋にはそんなの使えないとの回答ばかりだが

 何か工夫をすればできるような気がする。


 学生の時1度だけダークウェブを使ったことがある。

 ダークウェブで探せば出てくるだろう。

 だがそれを自宅のパソコンで行うのはかなりリスキーだ。

 学生の時使用したパソコンはみんなで

 お金を出し合い買った安いパソコンだった。

 今から新しいパソコンを買うのも億劫だし

 何か他にいいアイディアはないだろうか。


 不意にネカフェが頭をよぎる。

 ネカフェのパソコンなら個人を特定される事はないし

 そのネカフェには申し訳ないが仕方ない。

 近所のネカフェは抵抗感があるため5駅程離れた所にある

 ネカフェを使わせてもらおう。

 ザックにボディーシートや水筒などの泊まり用部を簡易的に詰め込む。

 今日と明日は特に予定は入っていない。

 泊まりになってもいいように最低限の準備を済ませた。


 ネカフェにつきフロントで受付を終え部屋に入る。

 壁に囲まれたこの空間は秘密基地のようで気分が上がる。

 電源をいれイヤホンをイヤホンジャックに差し込む。

 無音を意識しなくてよくなり、ようやくリラックスできる。

 ダークウェブには入った事があるため手順は、朧げに覚えている。


 カラフルな広告だけが貼られているサイトをみると懐かしささえ感じる。


 最初で最後度胸試しだった。

 昔高校生の頃、暑い夏の日。

 みんなでバイト代を出し買ったノートパソコンをトートバックに入れ

 Wi-Fiが通っているファミレスに1日中入り浸った。

 インターネットで調べた手順で進めていくと広告ばかりのサイトに飛んだ。

 みんな興味深々だったが底知れぬ闇を目の当たりにすると

 恐怖感がその場にいた全員に襲った。

 1人でやっていたらきっと、直ぐに辞めただろう。

 幸いにも、その時自分含め3人いたため

 恐怖心も1/3に分配され恐怖感に尻餅をせずにすんだ。


 よくわからない英字だけのサイトが殆どだった。

 噂では人身売買や殺し屋の依頼、ポルノなどで溢れていると聞いていたため

 好奇心が掻き立てられていたが実際に行なってみると英字で書かれているし

 いまいち使い勝手が掴めずにいる。


 ある動画サイトに出会す。

 ダークウェブ版Youtubeといったところだ。

 ただ違う点はホーム画面にある動画のサムネイルが衝撃だった事だ。

 赤い部屋に入っている女性の画像。

 人間を実験動物として産婦人科検査台のような台に

 固定し紐で足や腕を吊り下げている画像。

 個室で複数人の男性が強姦している画像。

 などが、それが普通である事であるように表示されている。

 イヤホンをさし音が店内に響かないように細心注意をはらう。

 思春期真っ只中と言うこともありポルノ系の動画が見たかったが

 他のメンバーの目もありグロい系の動画を見ようと

 ズボン越しに膨らみを増すのを無視して提案する。

 そして台に仰向けに寝かされ紐で足や腕を天井から

 吊るされている動画をクリックする。

 画質の荒い動画が始まった。


 そのまま10秒程過ぎた辺りから男性の声が遠くの方から聞こえてくる。

 その声は徐々に大きくなり体だけカメラに映った。

 そして紐で繋がれた足を開かせ足の根本を開かせた位置で固定する。

 女性は意識が飛んでいるのか抵抗をしない。

 服は脱がされアザがある肌が露出する。

 写りこんでいる男性は白衣に帽子マスク手袋といかにも医者の姿だが

 次の瞬間にはハンマーで右足の膝を砕き始める。

 音が嫌にリアルで思わず目を瞑る。

 女性が痛みで意識が戻ったのか悲鳴を上げる。

 男性はお構い無しにハンマーを振るう。

 膝の形が変形していき形状維持する骨の無くなり脂肪のように垂れる。

 耳がおかしくなるほど女性は悲鳴を上げる。


 自分たちの机にあるピザの臭いが

 満腹の時に嗅いだピザのように嘔吐感が込み上げてくる。


 男性はハンマーを置き次はノコギリを手にとり女性とカメラにわかるように映す。

 そして原型のない右膝を切断し始める。

 女性は悲鳴ではなく嗚咽を助けを

 求めるためではなくただ痛みを紛らわす為だけに発する。

 ハンマーで砕いた時よりも血が溢れるように吹き出す。

 ある程度まで切ると切り口から粉々になった骨が血と一緒に溢れ出す。

 砂利をお腹に貯めた魚のように砕けた骨が出てきていた。

 同じように左の脚も切断し切り株となった脚に、

 まだ砕いていない太腿辺りの骨に

 紐が付いたボルトを電気ドライバーで差し込んだ。

 そして靴下を付けるようにビニール袋で包む。


 そこで動画は終わった。

 想像以上の動画に言葉を失う3人だった。

 動画を見たことで、自分の身にも危険が

 及ぶかもしれないと底知れぬ恐怖が僕を襲った。

 深淵はを覗く時、深淵はまたこちらをのぞいているとは

 よく言ったものだと痛感した。

 それ以来トラウマになりダークウェブには触れて来なかった。


 僕は調べ無くてはならない。

 今は昔より頭も働くようになったし誰かのために

 頑張る事ができるようになったのだ。


 ネカフェで1人殺伐とした空気を空いている天井から吐き出し続けた。

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