他人
喫茶店で本を読んでいる。
ジャズが店内の雰囲気を醸し出し時間をゆっくりと流してくれる特別な場所だ。
せわしなくうごめく世界では落ち着いて外で過ごせる場所はあまりない。
真っ白なマグカップを手に取り口を付ける。
口から離した際、接触していた部分に何か確認するように一瞬視線をやり
すぐにその視線は活字に戻った。
周りのお客はお年寄りが多かった。
大きな声な笑い声を上げて話す人もいれば
必要以上に顔を近づけてヒソヒソと話している人もいる。
雑音を気にも留めず集中して本を読み続ける。
初老ぐらいの男性が入店してきた。
その男性は、店員に案内され席に着くまでに
店内を見渡し窓際に席に若く綺麗な女性が座っていることに気が付き
食い入るように女性を見ながら歩く
案内する席で待っている店員に「ありがとね」といい席に付き
メニューを観ずにブレンドコーヒーを頼んだ。
男性は席を立ち新聞紙が並んでいる棚まで行き目当ての新聞を手に取り
トイレに入っていった。
その光景を目にすると、あの棚にある雑誌類に抵抗感を抱く
用を足した男性は何事も無かったかのように棚に新聞紙を戻し
また窓際の女子を横目で見る。
その男性は、自席に戻りコーヒーをゆっくりと飲む
その姿はお世辞にも似合っていると言い難い。
小ジャレタな場所におじさんがいる姿はまだ
自分が若いとへばり付いているかのように見えてしまいどうしても似合わない。
そしてコーヒーを飲むのと同じようにゆっくりと歩き窓際の席に近づく
「可愛いね、なに、読書してるの」と話かけた。
女性は「いえいえ、そうですね」と返事をする。
「へぇどんな本を読んでいるの」
「今は老人と海と言う本を読んでいます」
「ちょっとおじさんに見せてくれない?」
といい女子から受け取った本をぺらぺらとページをめくり
「難しそうな本を読んでいるんだね。すごいね」と武骨に褒める。
「全然、、難しくないですよ」と女性は返事をし男性から本を受け取る。
「いやいやホントにすごいよ」と男性は言いながら女性の正面の席に座った。
「名前はなんていうの」
「東村と言います」
「東村さんね。普段はどんなことをしているの」とニコニコしながら男性は問う
「普段は仕事をしています」
「どんな仕事をしているの?」
「OLです」と女性は答える。
「事務関係かな」
「まあそうですね」
「東村さんは今何歳?」
「今は24です」
別の席の笑い声が大きく皺を気にしているのか化粧の粉で
ほうれい線などを埋めているが笑うたびに粉のコーティングにヒビがはいり
時間とともに急速に劣化している女性たちの方から声が聞こえた。
「やっぱり男性は外見しか見ていないのよ」
「結婚してから苦労するタイプでしょうね」
「どうせあの子はいろんな男に股を開いているんだわ」
「汚らわしいわ。本当に」 などと話している。
女性達の声は、ワザと店内の人達に聞こえるぐらいの音量で話す。
だが若い女性と男性は聞こえていないのか、気にせず会話を続けている。
「そうなんだね、やっぱり周りからはチヤホヤして貰えるでしょう。
でもね、それにずっと縋っていたらダメだよ。
いずれ誰しも年を取るし劣化もするからね」
女性は苦笑いをしながら「そうですね。気を付けます」と答えた。
「これから時間ある?よかったらご飯に行かない?
おいしいところに連れていくよ」と男は聞く
「ちょっとこれからは予定がありまして。。」と丁寧に断るが男は引かない
「じゃあ連絡先交換しようよ。LINEでいいよ。QRコードでいい?」
と男は中半強引に話を進め
テーブルに置いてある女性の携帯を覗き込む
女性は「LINEしていなくて」と言うが
「ロック画面にLINEの通知が表示されてたよ。
名前は確かタクヤ君だったよ。彼氏さん?」と男は口角を上げている。
「いや彼氏じゃないです」と声が少し小さくなる
「よかった。ねぇ交換しようよ」と甘えるように言う
「それはちょっと」と女性は戸惑う
「いいじゃん減るもんでもないし」と次は強い口調で言う。
女性は小さな声で「じゃあ。。。」と言いQRコードを画面表示する。
「ありがとう」と言い男は女性の手から携帯を取り
QRコードの読み込みをする。
追加で来たのか、携帯を女性に返し
「今日は忙しいみたい出し、おじさんはこれで帰るよ。
また、時間がある時にご飯行こうね。また、連絡するよ」
と言い軽快な足取りで店を出て行った。
まだ店内に残っている女性は男に触られてた携帯を手拭きで拭いている。
それからしばらくして、女性は席を立つ。
大きな声の女性たちはまたしても
「きっとあれはパパ活よ」
「あの男とね、、そんな、、ね ことをするなんて」
「相手は選ばないのよ。お金のために股を開くことなんて、ざらなんだから」
「私、あんな風に生まれなくてよかったわ」
「あの肩にかけているブランドバックも買ってもらったんだわ」
と大きな声で話している。
若い女性は歩く足を速め肩にかけているブランドバックをぎゅっと握る
下を向いて歩いていたが、次の瞬間には背筋を伸ばし
一歩一歩凛々しく振る舞い店を出ていく。
クラシカルな曲がどことなく不気味な雰囲気を演出していた。
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