年上女性の余裕
深望幸
再開
「あのすみません」
携帯を見ていた僕は顔を上げるとそこには
足の細さが強調されたストレッチ性の高いネイビー色のスキニーデニムに
胸は多少はあるもののさほど大きくないがウエストが細いため胸が大きく見え
自分の体をわかっているからこそ着ることができる
体のラインがわかるシンプルな白いTシャツを着た
綺麗で整った顔立ちをし
ツヤツヤした黒髪ロングの20代ぐらいの女性がそこに立っていた。
「座ってもいいですか」と聞かれ迷わず了承をした。
しかし、僕は何かと疑り深い性格で何かの勧誘ではないかと
疑いの目で女性を見る。
疑っていることに気が付いた女は
「私、何かの勧誘とかじゃないから大丈夫」
と少し困った表情を見せた。
女性は対面に座り「大学生?」と質問をしてきた。
「南大学に通ってます」
「へぇそうなんだ」
「私は普段看護師をしていてね。南病院ってわかる?」
僕はうなずく
「そこで働いているの」
「そうだったんですね。だから平日に喫茶店に来れるんですね」
「そう、君ってさ。マサヤ君?田中マサヤ君?」
僕は不意に自分の名前を呼ばれ反応に困っていると
「私、マサヤ君が半年前に入院した時の看護師だったんだけれども
覚えていないかな?」
と頭を傾かせ子猫がこちらを見てくるみたいな表情をされ思わず目を避ける。
僕は半年前の病院内の記憶をたどる
「そう言われてみれば見覚えのある顔、
名前は何だったかな確かマイさんでしたか?」
女性は自分の名前が呼ばれ嬉しかったのか、思わず笑みが漏れ出ている。
「そう!それ私。マサヤ君すっかり元気になったみたいで良かった」
「こちらこそ、ありがとうございます。
マイさんのおかげで元気に生活できています」
知り合いと知り、緊張感がほぐれ2時間ほど話し込んでしまい
頼んでいたコーヒーはぬるく冷めてしまっていた。
「もうこんな時間ね」
白くてほっそりとしている腕に巻かれた小さな時計を見た。
「すみません。気が付かず」
「うんん、気にしないで楽しくてつい話し込んでしまったね」
「じゃあこれから用事があるから」
喫茶店を出た先で僕たちは駅の方に歩いた。
「私ねマサヤ君が初めての担当だったのだから余計に
印象に残っていたんでしょうね」
「そうだったんですね。
でも確かに何度かあたふたしていたのは薄っすらと覚えています」
「そのことは忘れて恥ずかしいから」
と言いマイさんは俯きながら少し歩く速度を上げた。
すっかり忘れてしまっていた感情が蘇ってくる。
真っ白な部屋に閉じ込められた間
何もかもから疎外された感覚に陥りドロッとした
粘度の高い感情が体全身に絡みつくように沈み込んでいた時
唯一マイさんが沼から救ってくれた。白衣の天使。
毎日決まった時刻にドアをノックし部屋に入ってくる
マイさんの姿を見るだけで生きていける気がしていたことも否めない
鼓動が早くなるのが自分でもわかる。
それは、歩く速度を上げたからかもしれない
オレンジ色の夕暮れに色が染まっている中
僕とマイさんはまっすぐ歩く。
あの店の前まで行ったら連絡先を聞こうと心に誓う
あと数メートル、あと数歩、あと1歩
喉の奥に言葉が詰まり出てこない。
あの信号で、あの看板の前で、
と何度も心に誓いながらも紙のようにすぐにビリビリに破いてしまう
もう駅まで近い、そろそろ聞かないと
もう会うことができないかもしれない。
着々と進むタイムリミット。
幸運のことか駅手前の信号で止まることができた。
そして感覚が麻痺してしまいそうになりながらも
言葉が喉に詰まることが無いように
勢いをつけて言葉を発した。
「マイさん連絡先を交換してください」
顔に熱を帯びているのがわかる。
きっと今の僕の顔はタコのように真っ赤になっていることだろう。
だが今は幸いオレンジ色の世界だ。
マイさんとの間に沈黙が発生する。
ドキドキと鼓動が騒音にかき消されることなく
耳元までしっかりと聞こえてくる。
沈黙を埋めるように言葉を探しているとマイさんから
あの時に助けられた話し方でそして同じ音色で
「いいよ。じゃあ交換しよっか」と笑顔で答え
ブランドの小さなカバンから携帯を取り出し連絡先を交換した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます