ワナビ百合少女が恋した女流Web作家はネカマの男子クラスメイトだったと思いきやそのお母さんでした
天野 珊瑚
第1話 出会い
河原陽菜子(かわはらひなこ)の夢はズバリ!恋愛小説作家になることだ。
高校一年生になると同時に、なんと両親が外国へ出張に行くことになってしまった。
そして言葉も通じない外国へ着いてくるか、それとも日本で一人暮らしをするかの選択をまだ15になってそこそこの娘に強いたのだ。
なんとひどい親だろうか。
陽菜子の選択は「日本に残る」だった。
なぜなら、前述したように彼女には夢があったのである!
家事はしなくてはならないが、誰にも邪魔されずに恋愛小説を書きまくれる環境がこんなに早く手に入るとは。
恋愛小説作家を本格的に目指せるのは大学生になってからだと思っていた。
それまではマル秘ネタ帳ノートに毎日のように恋愛小説のネタを書き綴る日々が続くのだとそう思っていた。
しかーし、勉強しなくても、夜更かしをしても文句を言われないこの絶好のチャンス。
陽菜子は一念発起してこの機に本気で恋愛小説作家を目指してみようと、決めたのだった。
キャリーバッグをそれぞれ引きずって、「ちゃんとしたものを食べるのよ」「勉強はしっかりとするんだぞ」など、ぎりぎりまで口うるさく言ってくる両親を空港で見送った後、陽菜子はナップザックから誰にも見せたことの無いマル秘ネタ帳を取り出して抱きしめたのだった。
さて、空港から実家までの電車での移動時間にもストーリーのプロットなど、色々と考えるべきことは山ほどある。
さあ、どんな展開にしよう。
主人公は自分と同じ高校生がいいかな。
恋する相手はクラスメイト?
それとも、ちょっと年上の大人の男性がいいかな。
いやいやその両方から言い寄られて悩み苦しむなんてのもアリ?
待て、そんなことよりも。
陽菜子は家に帰ってインターネットを開いて、まずすべきことをすることにした。
それは、小説の投稿サイトの選定である。
どうせならすでに多くの人が投稿しているサイトより、まだ投稿数の少ない、新しいサイトがいいと思った。
小説を書くのに慣れてからメジャーなサイトにも投稿していけばいいからだ。
そんな想いで検索をかけていく中、読者と書き手の交流が盛んに行えることを売りにしているサイトがあった。
よし、ここでいい。
どうせ投稿してもいきなり感想が来たりはしないんだろうし、文章を書く練習をしていくことを主目的にするならこういう当たり障りの無いところがいい。
適当に個人情報を入力して、ペンネームは……「川原ヒナ」、うん、これでいい。
そこまで決めて、まずは投稿されている小説を読んでみることにした。
皆、どんな小説を投稿しているんだろう。
新着小説の中で、ふと気になったタイトルがあった。
ジャンルはローファンタジー。「愛する幼馴染のためなら俺は親でも切り伏せる」というなかなか過激な題名だ。
どうやら、主人公は親が魔王の血を引いていて、幼馴染の勇者の血を引く女の子を殺すことを親に強いられるらしい。しかし、その幼馴染に恋している主人公は親の魔王に逆らい、親譲りの魔法を使って、幼馴染を助ける……しかも、この幼馴染が主人公と種違いの妹かもしれないというところをほのめかせて物語りは一区切りしていた。
なかなかにスリリングで背徳感まである良作だ。
うーん、続きはいつアップされるのだろう?
陽菜子はこの小説の続きが早く読みたくなった。
そういえば、作者に感想を送れるんだった。
このサイトが他のサイトと違うのは、読み手と書き手が1on1のチャット形式で感想を言い合えるところらしい。
つまり、Lineのようなやり取りができるのだ。
ちょっとなれなれしいかもしれないけど、作者さんに向けて、チャットを打ってみよう。
『川原ヒナ:こんにちは、今日アップされていた小説を最新話まで読ませて頂きました。とてもおもしろかったです。続きが気になります。これからも楽しみにしています』
ぴこん。
すると、嬉しいことにすぐに反応があった。
『早志深幸:ありがとうございます。こんなに早く反応を頂けるとは思っていなかったので嬉しいです』
えーと作者の名前は「早志深幸」で「はやし・みゆき」さん。名前からしてきっと女の人だ。陽菜子はそう思い少し安心した。
『川原ヒナ:どうやったら、こんなに面白い物語が書けますか? 実は私も作家志望なのです』
『早志深幸:それなら、川原さんも小説をアップしてみるといいですよ。私もお礼に読ませて頂きますので』
それからいくつか、やりとりをした。
早志さん、いえ、深幸さんでいいとのことだったので、深幸さんも小説をネット上に公開したのはこの作品が初めてだということ。
陽菜子からは自分が今日ついさっきこのサイトに登録したばかりで右も左も分からないということ。
まずはプロットを作ってみることをアドバイスされ、思いついたネタは随時メモするようにするといいとも言われた。それはすでにやっているというと「えらい、これからも続けるといいですよ」と褒めてくれる。
色々と話しこむうちに結構遅い時間になってしまった。
すると。深幸さんのほうから『ごめんなさい、そろそろ子供を寝かしつけないといけないの』とレスが来て、この日のチャットはお開きになった。
「深幸さんって子育て主婦なんだぁ……」
陽菜子は非常に意外な気持ちになった。あんな、びしばしと魔法を使ったり、魔王やら勇者やらの設定が出てくる小説の作者さんがこんな早い時間に寝かしつけないといけないような幼い子供さんがいる、しかも女の人なんて、なんか複雑な感じがする。
さて、陽菜子も深幸さんに負けていられない。
アドバイスをもらったように、プロット作成から始めなくては。
主人公は、高1でいいや。
恋愛対象は、お兄ちゃんみたいに思っている幼馴染……。
勇者の血を引いていて治療の魔法が使えて……。
って、こらこら、深幸さんの作品に引っ張られ過ぎだ。
陽菜子は「川原ヒナ」としての作品を書かなくては。
それにしても、有意義だったなぁ、深幸さんとのチャットの時間は。次話を上げてくれたらまた話しかけてみようかな。
あんまり頻度が多いとうざがられたらどうしよう。嫌われるのは、怖いな。
おいおい。
恋愛小説書くどころか、これじゃ私本人が深幸さんに恋してるみたいじゃないの。
相手は女の人で、しかも子供さんまでいる歳上だというのに。
そんなことを考えつつも、プロットが少し進んだ。
時期は過ぎてしまったが、今は春。入学式で出会った高校生になりたての男女二人の話だ。
最初こそ通学路が同じなだけでたまに挨拶し合うくらいだった二人は、とあるスマホゲーをどちらもプレイしていることを知り、くだらないとっかかりと思いつつ、それでも少しづつ仲良くなっていく。
きっかけがスマホだけあって、連絡先を交換し合うにはそれほど時間はかからなかった。
そして、そのゲームのイベントに二人で行くことになり……。
「うーん、くだらないけれど、イマドキっぽくはあるかな」
別に深幸さんの作品みたいに現実離れしている必要はないんだ。
だけど、多少現実離れしてないと読み手もつまらないかなぁ……。
それは明日からの課題!
陽菜子はいったん睡魔に任せ、生まれて初めての家で独りきりで眠る夜を過ごした。
『まず、読み手が開いてみたくなるタイトルにすること』
『クライマックスを維持して、クライマックスで続かせること』
『中だるみを感じたら別キャラでも登場させて緊張感を維持すること』
夢に見たのは、深幸さんとチャットした内容ばかりだった。
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