第7話 片づけられない代物:「冷たくない雪の正体」

 冷たくない雪が降り始めてから今日でもう1ヵ月になる。


 24時間絶え間なく振り続ける冷たくない雪は、あっという間に世界を真っ白に埋め尽くしてしまった。いま宇宙から地球を見れば大きな真っ白のふかふかした綿毛の様に見えるはずだ。


 この冷たくない雪が厄介なのは、融けず、固まらず、燃えず、ただ降り積もっていくだけの代物だということだ。


 無くすことも減らすことも加工することもできない、ただそこにあるだけのモノがこの世で一番厄介な代物なんだということを、世界中の人たちはあらためて思い知らされた。 


 初めのうち世界中の人々は、この冷たくない雪を地面に穴を掘って埋めていた。すると、止まない雪は地球上の穴をすぐに埋め尽くしてしまった。


 次に人々はこの冷たくない雪を海に流し始めた。だが、7日目を過ぎたころ、止まない雪は地球上の海面すべてを埋め尽くしてしまった。


 そのうち、人々は冷たくない雪を無視し始めた。どうせ片づけられない代物ならば、放っておくのが一番である。解決できない問題は、見て見ないふりを続けることでしか解決できない。


 ただ、この冷たくない雪はとにかく邪魔でしかたがない。通学や通勤の際にはいちいち雪をかき分けて地上まで這い上がり、目的地と思われる場所まで移動したら、雪をかき分けてまた雪の下に潜っていく。とにかく面倒だったが、ただ、5年もすると人々はそれにもすっかり慣れてしまった。


雪かきはまるで朝の歯磨きのようにあっという間に世界中の人たちの習慣になった。 


 困ったのはその様子を上から見ていた神さまである。昔は大雨を降らせるだけで人間の生殺与奪をコントロールできたが、科学が発達した現代となっては大雨だけでそれを為そうとしても無理だ。ならば、人間の手では「無くすこと」も「減らすこと」も「加工すること」もできない雪を降らせることで人間の生殺与奪をコントロールしようと考えたのだが、その雪にさえ人間は順応してしまったのである。


 神さまはその後も、人間の生殺与奪をコントロールするにはどうしたらいいのかさんざん考えたが、結局、その答えは見つからなかった。


 神さまは苦々しくつぶやいた。「本当にこの片づけられない人間は厄介だ」


 結局、神さまは人間については、「見て見ないふり」をすることにした。


 解決できない問題は、見て見ないふりを続けることでしか解決できないのである。

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