第10話 おっさん、少女を連れて村を出る
甘い匂いと柔らかな感触中、小次郎はまどろんでいた。
布団の中でもぞもぞと動く感触と声がして意識を覚醒させた小次郎は何かにに巻き付かれているような格好であることに気付いた。
何かとは、言うまでもないのだが「困った」小次郎は呻く。
身動きが取れないのだ。
胸に顔を押し付け、左足にアイリスが両足を絡ませて抱きついた状態で眠っている。
絡められた腿に刺激され、いけない所が反応してしまっている。
いかん、このままではとてもみっともない事になり兼ねん。
アイリスはそんな小次郎の気も知らず胸に頬を擦り付けて気持ち良さそうに寝ている。
時折動く唇が何とも言えぬ艶があり思わず触れたくなる。
押し付けられた胸は未だ発展途上ながらも確かな柔らかさを伝えてくる。
仕方なく動かせる右手で美しい髪を梳きながら頭を撫でていると、アイリスは目を覚ましたようだった。
未だ眠たげな目で小次郎を見るとそのまま、にじり寄って来た。
小次郎の上に馬乗りになり、胸に頭をグリグリと擦り付けて何か言っている。
しばらくそんな状態が続いたが、ようやく目が覚めたらしく見る見るうちに顔を真っ赤にしたアイリスは、ばっと体を起こし後ろに下がった。
「うごっ」
「□ッ□□□」
急に下がったアイリスの股間が小次郎のいけない所に激突した。
「あ゛あ゛あ゛」
「□゛□□」
お互いに股間を押さえ悶絶し、しばらくの間悶えるのであった・・・・・・。
アイリスが持ち出す荷物は少なかった。
小さ目のダンボール一つに収まってしまったので助かった。
昼前には出発しようと車の点検をしていたのだが、血だらけでなんとも酷い。
仕方なく井戸の脇に移動させて洗車をさせてもらう事にした。
車高が高く洗いにくいがお陰でライト周りは損傷が無いようだ。
ワイルドバーを撥ねた時に付いたと思われる傷は結構大きく、カンガルーバーは大きく凹み曲がり、バンパー下のバーとガードは大きく抉れていた。
バーはかなり頑丈に作られていた為、車体には目立った損傷は無いが、見えない所への皺寄せはあるだろうと思わずにはいられないような傷み具合だった。
アンダーガードはどうしようもないが、曲がったカンガルーバーは何とか牽引ロープを木に繋ぎ、車体で引っぱって最低限の補修を終えるともう夕方に近い時間になって、仕方なくもう一泊する事となった。
翌日早朝、出発に先立ちアイリスの両親が眠る墓に行き花を手向ける事にした。墓参りが済んですぐに出立する事にした小次郎達だが、村長が森の入り口まで見送ってくれる事になった。
馬車に近づきすぎると馬が怯えてしまうので、少し距離を開けゆっくりと馬車の速度に合わせて進む車内で小次郎はアイリスに日本語を教えていた。
「こんにちは」
「こ□いちは」
『発音が難しいです』
「仕方が無いよ、日本語は一つの発音に幾つもの意味が有ったりするから、世界で一番難しいと言われているしね」
『そうなのですか、道は険しそうです』
「ふ~」と溜め息をつくアイリスを横目に見ながら見えて来た森の入り口の少し手前で村長が馬車を止めたので、小次郎も停車した。
「村長殿、お見送り頂きありがとうございます。大変お世話になりました」
『こちらの方こそ、おかげで村は無事、予定外の大収穫もあり大いに助かりました』
「所で、この奴隷引渡し証明書ですが」
羊皮紙になんだか良く解らないぐにょぐにょした文字がかれてている巻革を出して言った。
『ああ、それはこの道を馬車で半日進んだところに有る街で登録されると良いでしょう。大きな街には必ず奴隷商が居ります、所有者の登記が行えます』
「この登記を行わず、紛失した場合は?」
『居住地区の長が発行する証書を紛失しますと、奴隷として登記はできませんので通常は再発行の申請を行います』
「では、そのまま放っておけばその者は奴隷ではなく普通の人として暮らせると」
『はい、その通りです』村長はにっこりと笑い答えた。
「よし、ではこうしよう」そう言うと小次郎は証書にライターで火を付け燃え広がった所で放り投げた。
満足そうな笑みを浮かべた村長は『また、近くを訪れる事が有りましたら、是非お立ち寄り下さい。その子の事をどうかよろしくお願いします』と言うと深く頭を下げた。
「大切にします、必ず」
そう言うと小次郎とアイリスは車に乗り込み村長と別れ森に向かった。
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