第9話 現金と葬儀と
小次郎は朝日の中まどろんでいた。
寝たような寝てないような何ともいえない感覚だった。
実際にはあまり眠れていない。
原因は布団の中で丸まっている少女だ。
昨夜遅く部屋へ来た彼女は引き下がらなかった。
仕方が無くベッドを供にした小次郎だが、緊張のあまり眠る事ができなかった。
手は出していない・・・いや、そもそも出す気はないのだが。
布団の中でアイリスがもぞもぞと動いていると思ったら眠たげな顔をしながら起き上がった。
小次郎も起き上がりベッドの上で胡坐を掻いて向き合った。
アイリスはまだ寝惚けている様で揺ら揺らと揺れている。
すると、小次郎のほうへ倒れてきた。
小次郎の胸に顔を埋めて何か寝言を言っている。
朝日に輝く美しく癖の無い金髪、透き通るような白い肌。
いつまでもこうしていたいと思いながらそっと抱きしめ頭を撫でた。
引き取った以上、この子は俺が養わなきゃいけない。惨めな暮らしは絶対にさせない用にしなければ。頭を撫でながらそう強く自分に言い聞かせた。
所で・・・胸の辺りが冷たいんですけど、アイリスさん・・・涎でしょうか?
目を覚ましたアイリスは顔を真っ赤にして何度も頭を下げながら部屋を後にした。慌てていたらしく魔法を使っていないものだから、何を言っているのか全く解らなかった。
とりあえず、着替えをしようと車に着替えを探しに行く。
売り物のシャツが有った筈なので段ボールから探すとオイルメーカーのシャツが出てきた。
丁度良いのでそれと手ぬぐいを持って井戸に行き顔を洗い、濡らした手拭いで体を拭いた。
途中、村人に何度か挨拶されたが言葉が通じないので会釈だけして後は愛想笑いで済ませた。
脱いだシャツは丁寧に折畳み、袋に入れて厳重に保管する事にした。
家宝ですから。
村では昨夜の作業が続いており、塩漬けや燻製を行っているようだった。
塩の供給はされてるんだな~などとおもいながら、丸焼きにされたオークの残りがまだ残っているのを確認し、家に戻ろうとすると、アイリスが丁度出て来る所だった。
小次郎に気付き傍に来てにっこりと笑いながら「□□□□□□、□□□□□□」・・・・・何か言ってる。
あっとう言う顔をした後、例の魔法を唱える。
『すみません、忘れていました。 改めて、おはようございます』
涎を垂らした事は無かった事になった様だ。
「おはよう、アイリス。昨夜の残りがまだ有るみたいだからそれを朝ごはんにしよう」
そう言うと丸焼きが残るテーブルに向かった。
朝食も終わり一息付いた後、村長を呼んで貰い家に運んであったダンボールの中身を見てもらう事にした。
『これは全て銀製品なのですか、大平様』
銀物のアクセサリーを見ながら驚いたように村長は言った。
「純度はそこそこあります、92,5%・・・重さのの9割以上は銀です。私の居た国では純銀だと柔らか過ぎて製品にした場合、すぐに磨耗するので若干銅などを混ぜて使うのが普通なのです」
『成程、それはこちらでも同じ事です。工房の職人によって違いはあるでしょうが、銀貨は銀と銅を混ぜて作られていると聞いたことがあります』
「この箱2つでどれ位の価値になると思われますか?」
『かなりの金額になるでしょう、それこそ街に小さな家を買う事が出来る位の』
「こちらで換金は出来ませんか、私はこの国の貨幣を持ち合わせていないのです」
『それは・・・』
村長は少し困ったような表情を浮かべながら続けた。
『多少の蓄えはありますが、これを換金出来る程の持ち合わせは有りません』
「では、これを換金する事は出来ますか?」
そう言ってバングル3つを差し出した。
さらに「これは手数料としてお納め下さい」安物の自然石が付いた指輪2つを追加した。
村長は機嫌よく取引に応じてくれ、3つで約100gの製品だが銀貨47枚と交換してもらえた。
さらに前日に約束した礼金とアイリスの奴隷引渡し証明書を受け取った。
礼金は大銅貨10枚だった。
後でデジタル簡易量りで計量すると、銀貨は約3,75gだった。
銀貨の純度が銀と銅の50:50だと考えるなら、ほぼ等価に近い額で交換してもらえた事になる。
金貨に換算すると約2枚だ。
銅貨を足せは金貨3枚を超える。1~2ヶ月はこれで食べる分には困らないだろう。
さらに、魔物の肉を自分の取り分として2匹分欲しいと言った所、それだけでいいのかと逆に言われた。
ほぼ一人で倒した事から半分以上要求されるのではと思われていたらしい。
昼を過ぎた頃、アイリスの父親の簡素な葬儀と埋葬が行われた。
亡骸を包んだブルーシートは再利用が難しい事からそのまま埋葬される事なった。
葬儀は宗教が過去に何らかの理由で衰退したらしく、村人が参加して墓地で花を手向け埋葬するだけという非常に簡素なものだった。
住民は100人程度の村らしいが、オークの処理の手を止めて集まったほぼ全ての村人が参加ししたようだ。
アイリスの母親の墓の隣に埋葬され、2つ並んだ両親の墓を俯きながら見つめるアイリスに何と声をかけるべきか、言葉が見つからず小次郎は黙って彼女を見続けるしかなかった。
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