第6話「戦闘訓練」

「おはようアリアちゃん!ヨウタくん!」


俺とシャルが戦った次の日、俺とアリアが教室に行くと、シャルが笑顔で挨拶をしてきた。

シャルは今までアリアの事を"アリアさん"と呼んでいたのだが、友達になってからは"アリアちゃん"と呼ぶようになった。


「おう、おはよう」


「おはようございまーす♩」


教室だからか、相変わらずアリアは猫を被った喋り方だ。

この事は昨日アリア自身がシャルに話していた事なので、シャルは何も言わずに自分の席に座った。


「…あれ? シャルお前席そこだったっけ?」


シャルが座ったのはアリアの前の席だ。

確かこの前は別の席だったはず…


「席は自由だから大丈夫なんだよ〜」


シャルがよろしくね!と言ってアリアの前に座る。

アリアは笑顔だが少し引きつっていた。


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「はぁ〜終わったぁ〜」


放課後になり、俺は身体を伸ばす。

やっぱり魔法基礎は難しいな…

相変わらず何を言ってるのか分からない。


魔法の歴史とかを知って何になるんだろうか?


「ヨウタ。 帰りましょ〜!」


アリアがそう言ってくる。

俺はアリアとシャルをジッと見て、頭を下げた。


「頼みがある。 俺を鍛えてくれ!」


「「…え?」」


アリアとシャルの声が重なる。

まぁ急だし無理もないよな。


「やっぱり少しくらいは戦えるようになりたいんだ。

…あと、昨日の謎の力の事も気になるし」


「あ〜あれか、本当に不思議な力だったよね。 私は賛成だよ」


「確かに…あの力を使いこなせれば便利かもしれませんね! 私もいいですよ!」


思いの外あっさりと承諾してくれた。

肝心の訓練場所だが、あまり注目を集めたくない事と、アリアの素が出せると言う点を考え、アリアの秘密の訓練場でやる事になった。


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「違う違う!! イメージが全然出来てない!! 」


「もっと右手だけに集中して! 昨日やった事を思い出して!」


2人の指導はめちゃくちゃスパルタだった。


現在俺がやっている事は丸太に向けて右手を向け、ひたすら昨日の事をイメージするというものだ。

一見簡単そうに思えるかもしれないが、全く出来ないのだ。


男子なら1度は経験した事があるだろう。


螺◯丸やかめ◯め波を本気で撃とうとした経験があるはずだ。


今俺がやっているのは正にそれだ。


「ふんぬううう!!!! ぐおおおお!!!」


力を込めて右手に集中するが、何も出ない。

数十分ぶっ通しで集中していたからか、疲労が溜まり、俺は地面に腰を下ろした。


「はぁ…はぁ…」


「お疲れ様ヨウタ君。 ん〜…思った以上に難しそうだね…」


「まぁヨウタがいた世界には魔法が無かったらしいし、要領が掴めないのも無理はないけどね」


「イメージは出来てると思うんだけどなぁ…昨日は本当になんで出来たのか分からないんだ」


昨日の事は完璧に覚えている。

まずは右手が熱くなって痣が光り、頭にどうすればいいか浮かんでその通りに動いたら出来たのだ。


だが現在は、右手が熱くなる段階にすら到達していない。


「…まぁ一回は出来た事なんだし、根気よく続けてればいつかは絶対に出来るわよ」


俺の事を気遣ってから、アリアが優しい言葉をかけてくれた。

…確かに、一回は出来たんだ。

なら不可能な訳では絶対にないはず。

そう考えるとやる気が出てきたぞ。


「よーし! 訓練再開だ!」


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「はぁ…」


現在俺達は、寮の食堂で夕食を食べていた。

もうピークの時間は過ぎており、周りに人は居なかった。

結局、あれから1度も上手くいかなかった。


張り切った割には1度も成功しなくて、俺は本気で落ち込んでいた。


「元気出しなさいよヨウタ。 誰も1日で出来るなんて思ってなかったし…」


「そうだよヨウタ君。 あの技は凄かったし、覚えるのが大変なのは当たり前だよ」


2人が慰めてくれるが、俺はまだ立ち直れていなかった。

なぜ俺はこんなにも覚えが悪いのだろうか。


日本でもこの世界でも、それは変わらない。


1度考え出すとどんどん暗い方向に行ってしまう。

俺の悪い癖だ。


悪い癖だとは分かっているが、1度考え出すと止まらない。

自分では止める事が出来ないんだ。


「はぁ…あのね、アンタもしかして自分が天才だと思ってる?」


「え? いや、そんな訳ないだろ? 俺は凡人だ」


「そうね。 アンタは凡人、それも魔法が使えない最低ランクの凡人。 それに比べて私は天才、魔法も使えて16歳で一級魔法使いになった大天才よ」


アリアがふふんと小さな胸を張って言った。


「…なんだ? 嫌味か? いいのか? 本気で泣くぞ? 引くくらい泣くぞ?」


「違うわよ。 天才な私でも、魔法を教えてもらって初めて魔法を撃てるまで1週間かかったわ。

シャル、アンタはどうだった?」


「私? 私は2週間くらいだったかな?」


「ほら。 天才の私が1週間。 優等生のシャルでも2週間かかったのよ?

なのに凡人のアンタが1日で出来るわけないでしょうが」


アリアで1週間、シャルで2週間か…

確かに、それなら俺が1日で出来るわけないよな…


本当に、アリアには迷惑をかけてばかりだ。

まだ会って数日なのに、何度励まされた事だろう。


「…だな。 時間は沢山あるし、焦らず頑張るよ」


俺がそう言うと、アリアとシャルは優しく微笑んだ。


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夕食を食べ終えたあと、シャルと別れ、俺とアリアは部屋に帰ってきた。

現在アリアは部屋に付いているシャワーを浴びている。


その間に俺は、昨日使えた技の事、今日あった事を詳細に書いていた。


「…右手が熱くなり、痣が光ることが技の条件だとしたら、どうすればいいんだ…?

そもそも昨日俺の右手が熱くなった時は右手に集中なんかしてなかった…んー…」


それ以外にも、アリアやシャルに言われた注意点を全て書いていく。

そんな事を続けていたら、結構な時間が経っていたらしく、シャワーを浴び終えたアリアが後ろに立っていた。


「…何その文字?」


「うわびっくりしたぁ!?」


急に話しかけられた為、ガチの声を出してしまった。

シャワーを浴び終えたアリアは、首にタオルをかけていた。

アリアはピンク色のモコモコした可愛いらしい部屋着を着ていた。

そして部屋着だからか露出が多い。

なんでそんなに短いズボンを履けるんだ。


おっといけない…あんまり見てるとアリアに嫌われてしまう。

文字…? あぁ、そうか。 アリアは日本語を知らないんだったな。


「これは俺がいた世界の文字だよ」


「へぇ〜…なんか難しそうな文字ね。 規則性がないし」


まぁ確かに日本語は平仮名カタカナ漢字を組み合わせてるからなぁ…

言語の中でも日本語は難しい部類に入ると言うのも納得だ。


「っとそれより、シャワー浴びてきなさいよ。 もうすぐ寝る時間だし」


時刻はまだ7時30分だったが、アリアにとっては眠い時間なのだろう。

俺は着替えを持ってシャワーを浴びに行った。


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シャワーを浴び、アリアが眠りについたが、俺はまだ眠れずにいた。

時刻は夜の9時、日本にいた時は余裕で起きていた時間だ。


「…よし」


俺は静かに立ち上がり、音を出さずに部屋を出た。

極力足音を出さずに寮を出た俺は、グラウンドに来ていた。


ここでやる事は1つ。 自主練だ。


アリアやシャルが1週間2週間かかったのだから俺はもっとかかるはず。

しかも凡人の俺だったら1ヶ月や2ヶ月では済まないかもしれない。

だから俺には休んでいる暇はないのだ。


「まずは魔力を右手に集中…」


昨日のシャルとの戦闘のおかげで大分魔力の感じ方が分かった。

右手に魔力が集まっている感じがする。


あとはこれを思い切り放出するだけ。


「ふんっ!! ふんんんん!!!」


だが、いくら力んでも何も出ない。

魔力を集める事は出来るのだが、肝心の放出が出来ないのだ。

本当にあと一歩という所まで来てるんだけどなぁ…


「…まだまだ!」


「…そこで何をしている? 名を名乗れ」


突然後ろから声をかけられた。

聞いた事がある声だ。


振り返ると、緑色の髪で眼鏡をかけた女性、モーナ先生が立っていた。


「アリアの使い魔か。 こんな時間に何をしている?」


「ちょっと自主練を…」


「ほう。 熱心だな。 アリアの使い魔だからさぞ珍しい魔法を使うんだろう?

どれ、ちょっと見せてみてくれ」


モーナ先生にそう言われた瞬間、俺は頭が痛くなった。


"アリアの使い魔だから。"


それは、俺が日本で散々言われてきた言葉に似ていた。


"あの人達の息子なんだから"


そう言って皆俺に期待し、皆失望して離れていった。

もちろんモーナ先生に悪気がないのはわかっている。

だが、身体が勝手に反応してしまった。


「…どうした? 何か地雷を踏んでしまったか?」


俺は、モーナ先生に自分が魔法を使えない事と、昨日たまたま撃てた技を会得する為に自主練している事を話した。


「ははは…情けないですよね。 あのアリアの使い魔がこんな凡人だなんて」


「ヨウタ。 先程の言葉は謝罪させてくれ。 天才の使い魔は有能だと勝手に期待してしまった」


「いえいえ、大丈夫ですよ。 こちらこそ、期待を裏切ってしまってごめんなさい」


「…いや、まだ私はお前に期待しているぞ?」


俺は首を傾げた。

期待している?

なんでだ? さっき俺は魔法を使えない凡人だと言ったはず。


アリアの使い魔として俺を有能だと思い込んでいたなら、その期待を裏切った事にならないのか?


「お前はシャルに勝ったんだろう? 職員達の間ではその話で持ちきりだぞ?

私はてっきりアリアの使い魔だから凄い魔法を使ったんだと思ったんだが、実際お前は魔法が使えないときた」


そう言うと、モーナ先生は俺の肩を掴んだ。


「はっきり言おう。 魔法も使えない凡人が、あのシャルに勝つのは不可能だ。

だがお前はシャルに勝った。

どんな手を使ったのかは知らないが、勝ちは勝ちだ。

自信を持て、お前には戦いの才能がある。」


「俺に…戦いの才能が…?」


「あぁ。 だから期待しているんだ。

アリアの使い魔としてのヒカワ・ヨウタにではなく、1人の人間、ヒカワ・ヨウタ自信にな。

お前の才能が完全に開花する日を楽しみにしている」


大人にこんな事を言われたのは初めてだ。

俺にとって大人は、皆自分に勝手に期待して勝手に失望して離れていくだけだった。


だがモーナ先生は違う。 俺に失望せず、魔法が使えないと知っても尚期待をしてくれた。


「今日お前と話せて良かったよ。 

確か昨日たまたま使えた技を会得したいんだったな?

それは魔法ではないのか?」


「はい、俺魔法属性の適性は無かったので。

多分体内の魔力を放出したのかなぁって思うんですけど、詳しい事はアリアもシャルも分からないみたいです」


そう言うと、モーナ先生は顎に手を当て、何かを考え始めた。


「属性を加えず魔力だけを放出か…確かに聞いた事がないな。 

よし、明日学園長に聞いてみるといい。

あの人は魔法のエキスパートだからな、もしかしたら何かが分かるかもしれんぞ?」


なるほど…確かに魔法学校の学園長ならアリア達よりも多くの事を知っているはず。

盲点だった。


「分かりました、明日学園長に聞いてみます!」


「あぁ。 あと、もう遅いから帰って寝ろ」


そう言うとモーナ先生は手をヒラヒラと振りながら去っていった。


アリア、シャル、モーナ先生。

俺に期待してくれる人がいる。

今回は…今回だけは、この期待を裏切りたくはない。


この世界では絶対に人の期待は裏切らないと、俺は心に誓った。

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