第51話 焦燥
今まさに覚醒しようとしている勇者の姿を見ながら、いつも通りの無表情ではあるがベータは内心、実は焦っていた。
ここまでは自分の目論見通りだった。
勇者の覚醒を促し、彼にも声を届かせる。
これでギルゴマにも対抗できるはず。
だがベータの予知には相変わらず彼の最後の姿が見えていた。
いつまで経っても新たな予知の変化は見えない。
何故?
どうして彼は一人で戦っているの?
ベータには彼が最後の瞬間まで一人で戦う姿が見えていた。
ここからは勇者も一緒に戦えるはず。
覚醒した勇者と二人なら、可能性は上がるはずなのに…。
そんな焦燥感がベータの思考を悩ませた。
しかし、やがてその理由を知る。
彼が勇者に対して転移魔法を唱えたのだ。
ベータは唇を噛み締めた。
どうして貴方はそんなに頑ななの?
どうして一人で戦おうとするの?
しかし、やがて彼の意識がメッセージとして流れ込んできた。
これでギルゴマに勝てる可能性は何%だ?
すでにこれは人智を超えた未知の話だ。
そんな賭けに、世界の命運を託す事など俺には出来ない。
だが、俺が死ぬ事を前提とするなら、この戦い、少なくとも負ける事はないんだろ?
ベータはそこに彼の覚悟を見た。
ああ、彼は知っていたのだ。
いや、知ってしまったのだろうか?
彼の意識が流れてくるように、私達の意識もまた彼へと流れているだろう。
ベータは彼に嘘を吐けない。
だが彼に告げていない真実はある。
この戦い、彼が命を捨てる前提で挑むのならば、それが最もギルゴマを倒す可能性が高いのだ。
だがそれを実行した場合、彼は間違いなく死ぬ。
己の命を犠牲にした。
云わば自爆攻撃のようなモノ。
彼は全てを承知の上で、この戦いに挑もうとしている。
ならば私達に出来る事は…。
ベータはもう一度彼の姿を改めて見た。
タナカカナタ、脆弱で矮小な人間。
ちっぽけな存在にすぎない男。
でも私はこの男より高潔で気高い存在を他に知らない。
カナタ。
あなたこそが本物のヒーロー。
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