第42話 狂信者
「おっと」
カナタは、意識を失い倒れそうになるベータを受け止めた。
ふう、と息を吐き。もう一度辺りを見渡す。
どうやらあの気配は消えたようだった。
しかし、狂信者か…どの世界にもいるもんなんだな。
カナタは元の世界にもこの類の狂信者がいた事を思い出した。
神に命を捧げる事を至上に掲げる者達。
だがふとカナタは思った。
そういやあ、俺も同じだったか…。
クスリとカナタは笑った。
自分がまさしく、彼女の為に命を捧げようとしている狂信者だと思い出したからだ。
だが俺はお前達みたいな奴らにはならない。
俺は自分の命以外を犠牲にする気など無い。
カナタはギロリと射殺すような目で大主教の死体を見た。
それに…俺が命を捧げようとしている相手は、この事を知ると酷く怒るだろう。
カナタは幼馴染が怒るところを想像してまたクスリと笑った。
「しかし、まいったわね」
アルファが爪を噛みながら呟いた。
「あぁ、これでまた振り出しだ」
カナタはそう言いながらゆっくりとベータを背中に負ぶった。
ベータには前回の覚醒からずっと無理をさせた。僅かな後悔がカナタの顔を歪めた。
「しかし、この世界の最高神たるギルゴマのお膝元にとんでもない狂信者がいたもんだな…。それに…新たな敵…か」
カナタは絵画に描かれた最高神ギルゴマを見ながら言った。
「そうね、神の名を語る。魔王召喚の本当の黒幕ってとこかしら?」
アルファがベータの顔を撫でながら答えた。
「あー、案外、魔王本人かもな…。神の名を語る魔王とか笑えないぜ…」
沈黙が二人の間に流れた。
その時、ふと、カナタはギルゴマの絵画を見てアルファに尋ねた。
「なあ?前々から思っていたんだが…この最高神ギルゴマってお前達に似てるよな…。いや、お前達の母親と言うべきか?」
「ああ、ギルゴマ様はお母様のお兄様だからね。お母様も私達も、こちらに来てからも、ずっとコンタクトを試みているけど、行方が分からないのよ伯父様に連絡が取れればもっと色々と話は楽だったのにね」
アルファの何気ない一言だったが、カナタはその言葉に疑惑を抱いた。
「神の名を語る魔王、あるいは神の名を語る黒幕。だが案外…こいつは単純な話で」
カナタは一度深呼吸をして、少しためらいがちに言った。
「神の名を名乗る、神自身、…なのかもな」
ぎょっとするアルファにカナタは不敵に笑って答えた。
「難しく考えすぎなんだよ、お前もベータも」
コンコンとカナタは絵画を叩いた。
「なあ?もし、神自身がこの世界の滅びを望んでいたらどうする?」
カナタの質問に、アルファは答えられなかった…ただ沈黙する事しか出来なかった。
「作戦の練り直しだ。もう一度、全ての可能性を考えた物に作り直すぞ」
この日から、カナタ達は行動方針を変えた。
この一連の騒ぎは何者かの陰謀ではない。
これは“世界”の意思だと…。
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