第7話 奇跡を見る、その3~名もなき男~
グランはこの最終決戦の指揮官になるほどの男だ。当然のように腕に自信はある。個人の武勇はもちろん戦術戦略と言った将としての名声も高い。
声に出しては言わないが、そこらの冒険者など自分と比べる事すら馬鹿らしいと思っていた。
だが、この目の前にいる男。いや、目の前にいるかのように見えている男はどうだ?
その独特な動きは一つ一つであれば賞賛には値するだろうが、驚くほどではない。
実際にもっと馬鹿げた力を持つ冒険者を何人も知っている。
剣も魔法も、突き詰めて言うならこの男の動きはどこまでも基本に忠実な動きだ。
しかし、それを連続で、あたかも一連の動きのように繰り出す事がこの奇妙な動き方になっているのだ。グランは呻った。
「基本に忠実な動きを極めると…こんなにも美しい動きになるのか…」
彼の戦闘はまるで舞踊のようであり、もし酒場でこれを見かけたなら、手を叩いて喜んだであろう。
だがここは戦場だ。
その事実がこの男の実力を否応なしに理解させた。
「これほどの冒険者がなぜ今まで無名だったのだ?」
グランは当然の疑問を言った。
「は!情報によれば、この者はアリシア・フィリス率いる冒険者パーティーの斥候だとの事です!」
斥候だと?馬鹿な、こいつの動きは戦う者の動きだ。
極限まで鍛えられた人間の動きだ。
「もっとこいつの情報を調べろ!場合によっては…こちらからも援護を出す!」
グランはそう言って部下を下がらせようとした、その時。
「危ない!」
陣幕の外から大勢の人間が声を上げた。グランは慌てて視線を再びハイヴィジョンへと戻した。
そこでグランが見たのは、絶望的な爆発だった。
「く、惜しいあれほどの戦士が…」
グランは本気でそう思った。惜しい戦士を失った、と。
だが
「おいおい、嘘だろう?」
男は立ち上がろうとしていた。あれは間違いなく致命傷だったはずだ。あれを受けてなお立ち上がれるのか?グランは戦慄した。
しかし、再び魔物が自爆攻撃を仕掛ける。
今度こそお終いだ、あれは二度食らって無事でいられるモノではない。
く、もし初めからこの男が遠征軍に居れば…戦況は変えられたかもしれないと言うのに…
グランはそっと黙祷を捧げようとした。が、しかし外から驚嘆の声が聞こえた。
「嘘だろ?」
「なんで動ける?」
「凄い、なんなんだこいつは!」
その声には感嘆と憧憬と畏怖が混ざっていた。
まだ、戦えるというのか?あれを二度も食らって?
グランはこの時になって自分が震えている事に気が付いた。
「戦線を立て直す!至急彼を援護する形に整えよ!」
その声を聞いた遠征軍は歓声を上げた。
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