緊急会議2
私が会議室にたどり着いた頃には、全員が着席していました。緊急会議は急を要するため、空席が目立つはずですが、今回はそのようなことはありませんでした。
むしろ私が一番最後に来るなど、今まで無かったことです。部屋には行った途端全員の視線がこちらに向いたので、思わず肩を竦めてしまいました。
「遅くなってごめんなさい。みんな集まってくれてありがとう。」
「他でもないリーリアちゃんのためだからね。そりゃみんな集まるよ。」
シルファの言葉に皆頷きます。これは彼女の人徳あってのことでしょう。私が着席すると当時に、場の空気が張り詰めます。
「それでは、詳しく事態を知らないものもいると思うから、事のあらましから話すわね。」
本日お嬢様が怪我をなさって帰ってきたことから順をおって話していくと、あるものはため息を、あるものは殺気立つように眉間にシワを寄せておりました。
いじめというあまり嬉しくもない内容に、さらにリーリアの過去までさらされたのですから、当然でしょう。
「お嬢様は今回の件をお許しになるつもりは毛頭ないわ。ただし、犯人への処罰についてはリーリアに任せるとおっしゃられているの。」
ある程度の話をしてから皆に意見を募ろうかと思ったのですが、先に手をあげてくれたのはセルビリアでした。
「その犯人探し、大分難航しそうよねぇ? 学園って部外者立ち入り禁止でしょ? レイちゃんどうふるつもり」
その事に関しては私も頭を悩ませていたためすぐに回答出来ずにいると、すかさず手を上げたのは、何とロミアです。彼はこの場の空気の中でもいつも通り、軽い口調で笑いました。
「それなら俺、ちょっと宛があるんですよね。」
部外者立ち入り禁止の、謂わば禁域のような場所に宛がある?
皆の目がロミアに向くと、さすがに彼も苦笑いを浮かべました。
「あー……実は俺とリーリア、それとお嬢様の共通の友達が学園生徒にいるんすよ。たぶん頼めば手伝ってもらえるはず。居場所探すところからっすけど、最悪お嬢様にコンタクトとってもらえば、詳しい事情を知らなくても動いてくれるかも」
「んもぉ、ロミちゃん。かも、で作戦たてるの厳しいわよぉ? でも他にあて、無さそうよね……」
ルージュの問いに、首を横に振れるものがいません。不確かなものですが、今はそのご友人に頼る他無さそうです。
「学園の内部情報は、お嬢様とそのご友人に任せましょう。私たちは私たちで、集めなければならない情報がいくつもありますから。」
今回の件については、単に犯人を探すだけでは時間がかかります。リーリアの過去に付け入れた犯行ならば、彼女の過去が何かしらのヒントになるはず。
「彼女には許可をもらっているわ。まずはリーリアのいた娼館の関係者に話を聞きに行きましょう。そもそも彼女の過去を知る人間は少ないはず、娼館から情報が漏れている可能性は否定できないわ。」
「それなら、そこは私がいきますね。ロミアちゃんはさすがに行けませんから。制服、私がデザインしたのでは入れますし」
調査をかって出てくれたのはセルビリアです。彼女は肩をすくめて笑っていますが、何と仕事先でもあったようです。これはなにかと、動きやすいでしょう。
「助かるわ。リーリアは父親の話をしていなかったから、たぶん知らないはず。彼女の血筋についても関係性が……」
「はーい、ストップゥ!」
バンッと大きく扉が開くと、聞き覚えのある声が響きました。皆の視線がそちらに向けられると、そこには……元気よく笑うリーリアの姿がありました。
「リーリア……休んでてよかったのよ」
「もう十分休みましたしぃ、それに私のために動いてくれてるのに、一人じっとしてられませぇん。」
軽い足取りでロミアの隣に着席した彼女に、今度はサーニャが慌てて紅茶を淹れに立ち上がりました。とても心配そうにしておりますが、そんな彼女に、リーリアは大丈夫と言わんばかりに笑いかけておりました。
「別に娼婦の娘ってわかったからってぇ、みんなの態度変わるわけでもないじゃないですかぁ。それに一人で館がエゴとするの、嫌ですしぃ……犯人の心当たりも、実はあるんですよぉ。」
「あるのかよっ!!」
思わず突っ込みを入れたロミアのお陰で、張り詰めていた空気が緩んでいきます。微笑ましい内容に皆の肩の力が抜けていきました。
「実は私、自分の父親が誰か知ってるんですよぉ。たぶんその辺りが犯人じゃないかなぁって。理由まではわからないですけどぉ 」
リーリアはそこから、自分の母親から聞いた話を私たちにしてくれました。
なんでもリーリアの母親、カルーリアは長らく東の国で暮らしていた異国民なのだそう。家族の貿易の都合でこちらに成人してからやってきたものの、家が没落してしまい仕方なく娼館で働いていたようです。
「でも皆知らないんですけどぉ、娼館って何も体を売るだけじゃないんですよぉ。芸を売ったり、声を売ったり、チェスなんかのゲーム相手をしたりっていうそういうお遊戯もあるんです。」
どうやらリーリアの母親はその内の芸を売る売り子だったようで、東の国独自のダンスや音楽、楽器を嗜むことからずいぶん人気があったようです。
「で、そんなお母さんにすごく入れ込んでいたお客さんがいたんですよぉ。ものすごくお金持ちで、大金はたいて店側に一度だけでいいから戯れをさせてくれーって。お母さんは店のためにって一度だけ……で、生ま」
「はいストープ、そこまででいいわよぉリーリアちゃん。皆気まずくなっちゃう」
ロミア以外のメンバーは皆咳払いやら目線をそらすやらしていたので、慌ててルージュが止めに入ります。彼女は自分のことなので小が、聞いているこちらはすこし反応に困ってしまうのも事実。
ロミアのみは、恐らく戯れの意味を正しく理解できていないようで疑問符を浮かべていたところ
「ロミアちゃんはピュアねぇ 」
とルージュにからかわれておりました。
「まぁとにかく、その男が私の父親なんですけどぉ、サルリバーザ伯爵家の当主さんみたいでぇ、その息子が学園にいるんですよぉ。一つ年上ですけど。私のこと知ってるならそいつじゃないかなぁって」
「ホッホッホ、ならば十中八九、そのものでしょうなぁ」
まだ仮定段階の話しを断言したゲルトルト。皆が首をかしげていると、その細い瞳が珍しく開いておりました。
「サルリバーザ家は大体強い魔力をもって生まれるため、皆髪の色がオレンジがかるのじゃよ。リーリア殿の髪の色がまさにそれじゃ」
「え、まじですかぁ?通りでお母さんににてないなぁって思ったらぁ」
彼女は自分の紙を指に巻き付けてくるくる遊んでいますが、心底驚いた様子です。しかしそれとこれとなんの関係が……
「しかしのぉ、サルリバーザ家の次期当主となる息子……グレイザードの髪は金髪のまま……魔力は受け継いでおらぬのじゃ。有名な話じゃがな。」
魔力が大きければ大きいほど繁栄すると言われている貴族において、魔力を受け継がないというのは致命的なのです。それを皆わかっていたため、その場の空気がまた凍りつきました。
どうやらこの騒動……リーリアの過去、娼館の話で終わらず、どうやらお家の跡取りにまで発展するまでとなりそうですね。
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