報告書63「決着、竜を倒す者について」

 刃、炎、そして光……暗闇の中で幻影が躍る。


「……………………さい!」


 大気の揺れが耳から入ってくるが、それが物音なのか、誰かの声なのか、脳が識別しようとしないのでただただ右から左へと流れていく。


「…………いい加減に…………!」


 薄れて霧散していた意識が、徐々に形作り始める。そうだ、俺はドレイクに一太刀浴びせて、それで……


「いつまで寝てるつもりよ!いい加減に起きなさい!」


「んおぉ!?」


 耳を貫く凄まじい怒声に意識がフルスロットルになる。しかし飛び起きようにも、まるで全身に重しでも付いてるのかと思うくらい自由が利かない。仕方なく首だけを持ち上げて辺りを見回すと、そこには流れる景色が。移動中なのか……?


「ようやく起きたわねこんの寝坊助!起きたんなら自分の足で歩きなさいよ!」


 声をする方を見上げると、そこにはチトセが。どうやら仰向けに倒れている俺の襟首を掴み、引きずっている所のようだ……ようやく状況が理解できてきた。どうやらドレイクに吹き飛ばされ、意識を失った俺をチトセが助けてくれたようだ。チトセにこれ以上負担を掛けられないと自分の足で立ち上がろうとするも、身体は重く言う事を聞かない。


「むっ……ぐ……!ダメだ動かない……応急処置で完全にバッテリー切れのようだ」


「はぁ!?予備のバッテリーはどうしたのよ!?」


「過充電する際に全部使っちまった……」


「あんたって本当に後先考えてないのね!」


 チトセにだけは言われたく無いが、この状況では確かにおっしゃる通りなので反論もできない。


 その時丁度視線の先、道の脇に建つビルが突然倒壊した。崩れ落ちる瓦礫、舞い上がる砂埃、そしてその影から現れたのは……ドレイクだった。赤目を光らせ、雄叫びで大気を震わす。どうやら見つかってしまったようだ。


「チトセ!ドレイクだ!」


「ほんっとうにしつこいわねあいつ!」


「このままじゃ、追いつかれる!……俺を置いて、逃げろ」


 答えないチトセ。ドレイクは半身を失い怒りに燃えているのか、口から炎を漏れ出させ、左翼が無く疾走するにはバランスが悪いにも関わらずそんな事お構いなしに道を塞ぐ物を跳ね飛ばしながら凄まじい勢いでこちらに迫って来ている。


「追いつかれるぞチトセ!俺を置いてお前だけでも逃げろ!このままじゃ2人とも死ぬぞ!?」


「うっさいわね!だったら、どうせ死ぬんなら、こっちから進んで死んでやろうじゃない!」


 そう啖呵を切ると、大口を開けてもうすぐそこまで迫っているドレイク目掛けてブラスターを構え、凄まじい形相で睨みつけるチトセ。その様はつぶさに俺の目に入って来たが、ドレイクへの、死への恐怖が不思議と無くなり、時間が止まった気すらした。


 ブラスターの猛連射をものともせず、一思いに噛み殺そうと迫るドレイク。禍々しく歪な赤い光を放つ目、そして口内に並ぶ牙、溢れんばかりの炎……全てがスローモーションだった。もし身体が動くのなら、未だ手の内にあるこのキ影でその素っ首斬り落としてやるのに。


 凄まじい衝撃、吹き飛ぶ機械部品、巻き起こる叫び声。一瞬の間に次々と起こる出来事に思わず我が目を疑ったが、確かにドレイクに爆発が起こり、その巨体を押し戻している。


「なっ……!」


「一体何……!?」


 チトセと2人して突然の出来事に思わず呆然としていると、自衛軍兵士が駆け寄ってきて俺の身体をチトセと共に引き摺り始めた。


「自衛軍!?一体どうして……」


 後方に下がるにつれ、見覚えのある黒焦げの車輌が。あれはバスタ新宿にいた機動戦闘車!?


「奴の表皮は硬い!損傷部を狙え!」


 その砲塔の上には、あの隊長さんが。よく見るとそれだけじゃない、周囲には多くの戦闘車輌に自衛軍兵士が攻撃に参加している。


 凄まじい一斉攻撃を浴び、飛んで逃げる事も出来ずにのたうちまわるドレイク。だがさすがの伝説種、最後は道連れとでも言わんばかりにこちらに首を向け、開け放たれた口に炎が集まり始めた。


「やばいぞチトセ!あんなの受けたら……」


「そうはさせるかっての!」


 そう言った次の瞬間には、チトセはもう既にクニクズシの発射態勢に入っていた。


「ロケット!!いっくわよー!」


 発射された弾頭は真っ直ぐドレイクの口へ、着弾。爆発は炎を巻き込み、ドレイクの首を中心に特大な火球を形成、そして一気に弾け飛んだ。呻きにも悲鳴にも聞こえる声を上げ、ドオっと倒れ伏すドレイク。特徴的なその目から、ついに赤光が消えた。


「やったの……か……?」


「やった……やったのよ!どんなもんよ!乙女でも怒らせたら牙を剥くってもんよ!」


 ドレイクを囲む自衛軍兵士からも、次第に歓声が上がってきた。どうやら本当にやったようだ。と、そこへ機動戦闘車から降りて来た隊長さんが。


「よくやったな。見直したぞ山師……いや、スペキュレイターの諸君」


「隊長さん……脱出したんじゃ」


「あぁ、脱出した。そして、連隊長に指示を受け戻って来たのだ」


「連隊長って……」


「ふん、貴様らを助けるために来たのではないぞ」


 声のする方を見ると、そこにはあのいっけすかない大佐が。


「まさかあんたが私達を助けに来るなんてね」


「だから言っておるだろう、貴様らを助けに来たのではないと。あのような飛行能力のある怪物はここで倒しておかないと、隔壁の外に出られたら大惨事になると、しつこく意見してくるもんがおってな。ふんっ、礼を言うならその者に言うんだな」


「それって……」


 <<2人とも大丈夫かの!?今度こそ本当にダメかと思ったわい!>>


「イクノさん!自衛軍に意見してくれたのって、イクノさんだったんですね」


「やるじゃないイクノ!」


 <<ブラスター突き付けられ追い払われそうにもなったんじゃが、粘った甲斐があったというもんじゃ。お主らだけに命懸けをさせられんからの>>


「イクノ……あんたも私達と変わらずいっつも命懸けだなんて、分かりきってるっての……」


 <<と、それよりじゃ!今回の件についてのリーク情報のウラが取れたんじゃが、急がんとササヤさんの身が危ない!>>


 ササヤさんの身が危ないって、こりゃあゆっくり勝利の余韻に浸かる暇は無さそうだ。誰か俺の機動鎧甲を充電してくれー!

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